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雪辱

 現地入りして数日間、幸運にも好天に恵まれたのもあり、昼も夜もなく走り込んで足回りに関するデータ取りをとにかく重視した。

 その辺は監督を務める田中の慧眼である。


 尚、セブリングの冠スポンサーはモービルであり、自身のスポンサーは出光であったのだが、耐久では石油メーカーが冠スポンサーとなっていることが多く、尚且つ当時はサプライヤーも兼ねていたことから、モービルから遠慮なく使えと、その鷹揚さに驚かされた。

 因みに去年の富士の時は、出光がサプライヤーを務めている。


 何しろ耐久では膨大な燃料を消費するため、チーム側のスポンサーとは別に現地の石油メーカーが供給することが慣例となっており、また、大いに宣伝となることから前のめりな程積極的に申し出るメーカーは多い。

 そのため、耐久レース用のエンジンには、あらゆるメーカーの燃料に耐えうるようにしなければならないし、それだけにセッティングデータも複雑である。

 この点も実は日本のメーカーにとっては不利な点と言えよう。


 ここだけの話、耕平が開発当初からOHVを選んだのは、良く言えば、あらゆる燃料への耐性を持つため、複雑なセッティングを必要としないからであり、ある意味読みが深い。

 尤も、悪く言えばOHVとはゲテモノ喰いである。


 因みにジャンル問わず燃料メーカーとは長い付き合いになることが多いのは、エンジンのみならず全ての構造が、そのメーカーの燃焼特性を前提として設計が行われるためで、コンピューターシミュレーションが発達した現在ではそうまでないが、この当時はそう簡単に変更できなかった。

 レーシングマシンとは、そのくらい繊細極まりないのである。まさに割れ物なんてレベルではない。


 そう考えると、実は耐久レースがF1以上に大変な世界であることが窺えよう。史実に於いて、日本のメーカーがトヨタ及びマツダ以外、世界進出の中で耐久になかなか進出しなかった理由が推測できる。

 そしてもう一つ、現在日本の自動車メーカーが圧倒的な優位を築いている中、欧州の自動車業界がそれでも一定レベル以上を保って日本市場に食い込めるのは、この耐久レースの存在が大きいと考えられるのだ。

 従って、耐久レースに於いても日本のメーカーが圧倒的優位を示すようになったら、それこそ日本による世界支配の完成となるだろう。


 その意味からも、耐久とは、欧州勢にとって最後の砦なのである。


「おうおう、あの音がセブリングに響いてやがるぜ」


 セブリングにて、一人の男がサングラス越しにIZUMOを見つめていた。その正体は、チーム・モデナのルドヴィコ・スカルフィオッティである。

 そう、去年の富士で土壇場での逆転を食らったばかりか、ゴールしたところでマシンの炎上にも見舞われるという屈辱まで味わった。

 どう考えても彼に過失などある筈もなく、レーシングアクシデントなので、誰も咎めはしなかったが、彼に負い目に感じるなというのは無理な話であった。


 因みにフェラーリが富士の地でまさかの炎上に見舞われた原因は二つ。


 それは、初の6時間レースというのもあるだろうが、IZUMOをマークすることに執着するあまり、12気筒エンジンの鉄則を無視してしまったこと。更に、日本特有の空気にも原因があることが分かった。

 日本は海に囲まれているが故、標高が高くても空気は湿度が高く、重い。そんな空気をエンジンが取り込むと、実は過剰燃焼してしまう。

 昨今、日本でフェラーリの炎上事故が多発しているが、これはセッティングの見直しが絶対必要である。


 尚、日本で旧いフェラーリに乗るのは控えるべきだろう。というのも12気筒エンジンは日本では思った以上に寿命が縮むのだ。

 特に、70年代以前のクラシック・フェラーリは非常に危険である。


 これはフェラーリに問題があるのではない。欧米の自動車にとって、日本とは想像以上に過酷な環境なのだ。


 ルドは、あの忌々しい光景を回想しながらセブリングのコースを見つめている。そして、雪辱を誓うかのように独白する。


「ここはオレたちにとって、第二の庭も同然なんだ。富士のようにはいかないぜ……」

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