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決断

 エンジンが解決をみて、細部の改修を残すのみとなった頃、開発現場に於いて、耕平はその秘密を打ち明けた。


 そう、今開発しているのは、ルマン制覇のためのマシンであることを。


 それを聞いた関係者の間で、当然のようにざわめきが起こった。何故なのかと。そこで、耕平は漸く一つの決断に踏み切り、重い口を開く。


「実はだな、通産官僚をしているオレの友人から聞いた話なんだが、政府は産業保護のため、いくつかの有力企業に合併話を進めているんだ。つまり、技術力はあるが体力のない企業は、有力企業に吸収されることになる。その意味が分かるか?」


 そう聞いた関係者には、何を意味しているかは当然理解できた。要は吸収合併という名の倒産である。そんなことにでもなれば、失職は無論、仮に吸収先に再雇用されても、以前より待遇は低くなる。そんな事例は、戦前から多発していた。友好買収など、極めて稀な話だ。

 そうなれば、これまで積み上げて来たキャリアも全てパーである。それは、働く者にとって、尊厳を踏み躙られるのにも等しい。

 仮に給与が上がっても、そんなのは御免蒙る。まさに、鶏口となるも牛後となるなかれであった。

 

 耕平は続ける。


「恐らく、通産省の肝入りによる吸収合併は遅くとも5年以内には実施されるだろうとのことだ。だからこそ、このプロジェクトは、今しかない!!」


 鬼気迫る表情で語る耕平に、最早疑義を述べる者はいなかった。そう、一見畑違いに思えるこのプロジェクトに、自分たちの未来が掛かっていることを、誰もが実感した瞬間だった。

 確かに山陰の町工場に過ぎないかもしれない。だが、自分たちは世界屈指の技術集団という自負もある。それがズタズタになりかねないのだ。

 それで危機感を抱くなというのは、さすがに無理があろう。


 その日から、誰もがルマンプロジェクトの成功に向けて、死に物狂いとなった。


 やがて、ルマンプロジェクトは、一部の関係者から、全社員が知るところとなる。更に、その話はいつの間にか山陰中に広まっていた。

 尚、山陰というと、基本的に田舎であるため、保守的な土地柄と思われがちだが、寧ろ進取の気鋭に富んだ土地柄である。

 このため、時代が違うとはいえ、嘗て宍戸重工がマン島制覇宣言を立ち上げ周囲から無謀だと批判を浴びたのとは対照的に、早くから応援する声が山のように届いていた。


 予想外の反響に、これはもう、退くに退けなくなってしまった。やるしかないんだと。


 危機感の中で、開発は一層加速していく。やがて、若輩の技術者からも、次々とアイデアが持ち込まれるようになった。どんな小さなことであっても、必ず実証試験が行われた、

 大半は使い物にならなかったが、それでも貴重なデータの蓄積には違いないのだ。それが研究の本質である。


 そして、エンジンの開発は、ほぼ最終段階に差し掛かろうとしていた。取り敢えず第一段階はクリアといったところか。

 尚、開発はラグビー方式ではなく、駅伝方式であった。というのも、未知の領域に踏み込む以上、同時並行での開発は、問題解決を反って困難にするリスクがあったのだ。

 危機は迫っていたが、焦る必要はない。耕平は、そう言い聞かせていた。


 だが、次なる開発、スーパーチャージャーを巡って、またも難問が立ちはだかる……


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