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未知の領域

 島根に戻ったIZUMOには、世界を相手に勝利したことで凱旋イベントが行われた。


 その時松江駅前には、予想を遥かに超える20万人が集まった。当初予想では2万人と考えられていたので、富士での勝利はそれだけ反響が大きかったということだ。


 しかし、その場所に於いて最大の英雄である二人、風也と渦海の姿はなかった。


 渦海については、ゴール後の高熱で入院していたのは御存知の通りだが、風也も勝利の翌日、その後遺症に苦しむハメになった。

 対策自体は完璧だった。しかし、女子レーサーが耐久レースを走ること自体が、そもそも未知の領域であった。

 風也は終日興奮が続いて、寝たのは深夜。だが、翌日、起き上がろうとしても起き上がれず、その上身体が重い。学校時代、誰もが一度は経験したことがあるだろう。身体がだるくて起き上がれず、学校に行きたくないという、あの状態と同じだ。

 

 その正体は、意外なものであった。


 耐久レースとしては最も短い6時間とはいえ、前半を終えた後も手に汗握る展開に、風也の緊張がほぐれることはなかった。

 要するに6時間ずっと緊張しっ放しで過度の負荷が掛かっていたことが明らかとなったのである。6時間と言えば耐久レースとしては珍しくスプリントレースとしての性格を併せ持つため、スタートからゴールまでに発生するプロセスが、12時間や24時間ではなくたった6時間に凝縮されてしまう。

 後に判明したことだが、富士でのレース後、多くのドライバーが同様の事態を訴え、最終戦だったことも手伝いチームは母国に帰ったものの、ドライバーの多くが日本の病院のお世話となるハメになった。


 これにはさすがのFIAも戸惑った。元よりモータースポーツ後進国であった日本で初めてのWME開催ということで、12時間や24時間は無理と判断して6時間としたことが、皮肉にも内容を凝縮したような荒れた展開を招き、結果、ドライバーに過度の負荷が掛かったのではないかと、日本の医療機関から報告が上がることになる。

 確かに開催場所の標高が高く、空気が薄い中での激戦というのもあったろうが、空気が薄いことの問題に直面したのは二人だけなので、これは当て嵌まらない。


 このため、FIAでは急遽ポイントの見直しが行われることとなり、翌シーズンから6時間レースは24時間レースと同格の扱いとなり、当時WMEで唯一の6時間レースとなる富士6時間は、ルマン24時間と同格の扱いへと昇格することになる。

 その結果、逆転勝利の可能性が浮上することになるため、これまで以上の激戦が繰り広げられることになるのだ。

 同時に、思わぬ皮肉によって、洋平の働きは予想以上に報われることにもなった。FISCOの株も大いに上がったのは言うまでもない。


 それより、6時間レース特有の問題が判明した訳だが、医療機関から対処法も既に提示されていた。


 それは、6時間レースを終えたドライバーは、直ちに寝ろ。その一言に尽きる。そうやって副交感神経優位の中で、過度の負荷が掛かった体調を戻す以外にないと。

 出来れば寝る前に白湯を一杯飲むと尚回復が早いとも添えられていた。だが、なかなか寝付けないからといって、睡眠薬の服用は絶対してはならないとも。


「う~ん、う~ん……起き上がれない、しんどいわああ~」

 

 結局、風也は一週間この調子だったという……

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