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意外な問題

 耕平が広島入りし、永崎病院に到着したのは、結局陽が昇り始める頃であった。それでもここまでかなりの強行軍だ。

 現在だったら54号線でも4時間あればいけるし、高速道路である尾道松江線を通れば3時間程度であるので、隔世の感ありである。


 永崎病院は、横川駅の裏側、所謂北口側にあるのだが、広島では主要駅を境にして、大体繁華街などの表側を南口、裏側に相当する場所を北口と呼ぶのが慣例だ。


 この永崎病院こそ、知名度は低いが、火傷治療の名医でもあると同時に、アスリートのための復帰治療をも行う世界でも数少ない病院であった。

 原爆に遭遇した時、横川駅が盾になったお陰で全壊全焼区域にあったにも関わらず、ガラスが割れた程度の軽微な被害で済み、多くの被爆者が運び込まれ救護に当たる中、桁違いの症例を経験したことにより、長崎からも被爆患者が頼って来るほどであった。

 実は、原爆症治療でも最先端を歩んでいた医療機関の一つでもある。


 さて、そんな永崎病院で検査入院中であった渦海であるが、経過そのものは良好であった。

 しかし、担当医師の顔は冴えない。その様子から、恐らく何か致命的な事態が生じていたのではと耕平は最悪の事態も覚悟していた。

 もしも彼女が引退勧告を受けた場合、代わりを探さなければならない。


 そして、医師が告げたのは、意外な一言であった。

「結論から言いますと、レースに出ることには何の差支えもありません。しかし、血液検査をしたところ、ビタミンAの過剰摂取が確認されまして、これでは富士の環境を考えますと、体温の異常昂進も無理ないですな。彼女の場合、代わりにたんぱく質の摂取量増加をお勧め致します」

 

 それを聞いた耕平は、『はあ?』というのが本音であった。そして、思い当たるフシはいくらでもあった。

(そういえば、彼女はうなぎがあればレースで負ける気はしないと言ってたな)

 ウナギと言えば、ビタミンAを豊富に含む食材の代表格であり、無論たんぱく質も豊富で、優秀な食材には違いない。


 そして、医師は更なる一言を告げる。

「確か、あのレースでは高地対策用ドリンクが大正製薬から提供されてましたね。実は我々も開発に関わっているのですが、ビタミンAとの組み合わせは特に最悪でして、ビタミンAを含む食品と言いますと、卵、レバー、緑黄色野菜あたりですね。少なくともレース三日前には口にしないようご指導ください」


 それから4年後、一般へも販売されるあのお馴染みの栄養ドリンクは、一般人であればビタミンAと一緒に摂ってもそれ程問題にはならない。寧ろ忙しい現代人を大いにサポートしてくれるだろう。

 特に数時間単位でエネルギーを消費する重労働では反って奨励されるくらいだ。

 しかし、短時間で大量のエネルギーを消費するアスリートの場合、血液が異常昂進するため、特に心臓へ過大な負荷が掛かるため、ビタミンAの摂取は最低でも72時間前には絶たなければならない。


 尤も、渦海のような食生活など想像できる筈もないので、これは仕方がない。


 結局、渦海も経過は良好ということで、その日の内に退院となったのだが、島根へと戻る耕平の胸中は複雑であった。

「それにしても、キミにもあのような問題が隠れていたとは思わなかったね。よくあんな状態でチェッカー受けたなと思うよ」

「私もさすがにショックでした。これからは食生活にも注意しなければなりませんね」

 渦海は内心、うなぎが遠ざかっていくのを感じて悲しい気分だった。とはいえ、最早プロのレーサーとして来年には世界へ挑む身なのだ。うなぎは栄光を掴むその日まで絶つと心に決めた。


 だが、この時島根ではまた、とんでもない事態が進行しつつあった……

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