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勇躍、富士へ

 富士6時間開催まで、あと二週間……


 列車を特別手配してもらい、およそ一週間かけて一行は富士の地にやって来た。


「再びの富士。でも、今度は遊びじゃないのよね」

「そうだわ。今度は、ある意味日本の将来までも背負った、重大なレースですもの」

 渦海と風也は、富士の地に来て既に緊張感が漲っていた。コース上では、既に先着していたチームがマシンを走らせていた。

 尤も、現在WMEを走っているのは現在セブリング12時間レースが終わったばかりであり、走っているのは今年参戦が認められたプリンス、ホンダだけであった。


 この時、意外かもしれないが、プレスには日本勢がWMEに参戦するとは発表していたものの、実は今年の最終戦が富士で行われることについては何も発表しておらず、その発表は一週間後の予定であった。

 普通、レース開催が正式に決定すると、この時代でも遅くとも開催三か月くらい前にはチケットが販売される筈なのだが、敢えて一週間前まで発表を控えていたのは勿論理由もある。


 そもそもが正式開催決定となったのが一か月前のことであり、チケットは限られた招待客のみにしか販売されていないのだ。

 また、FIAにしてみれば、日本で行われる初の国際格式のレースでもあり、様子見をしたいのが本音であったと言える。

 つまり、この期に及んで尚日本での開催には期待していなかったのだ。このため、富士全体では10万人余りの収容人数を誇りながら、販売されたチケットは2万に過ぎない。

 その多くが政財界の関係者で占められていた。なので、この富士6時間は実質大赤字であり、その財源については日本持ちと言うことで正式開催決定となったことは、ここだけの話である。

 このため、海外からの観客は事実上いない。


 しかし、皮肉にもこの措置に反して、超ハイレベル且つ大荒れのレース展開となったことで予想外の視聴率を記録することに。

 その結果、レースを見ていた世界中の視聴者から苦情が殺到するハメになる。何でチケットを売らなかったのかと。

 加えて、開催費用を全面的に日本が持ったことで、FIAは思わぬ借りまで作ることになる。


「それにしても、気合いが入っていたのは我々だけではなかったということか」

 耕平は、先着していたチームを見て、一番乗りの予想が外れたことを内心残念に思いつつ、この気合の入りように自分たちもテンションが一層上がる思いだった。

 ましてや自分たちが出走するのは最高峰のプロトタイプである以上、責任は重大だ。


 背後では、淡々と準備が行われており、マシンも暖機が行われていた。その様子に気付いた他のチームからは、賞賛とも批判ともつかぬ声が。

「おい見ろよ。あれが件の、谷田部を一か月使用不能にしたマシンだぜ」

「谷田部事件の張本人か。どんなものか、見てやろうじゃねえか」

 尚、当時の技術者の中には、まさか日本からプロトタイプが出場するとは思ってなかったので、一部嫉妬もあったという証言も。


 期待と不安の入り交じる中、渦海と風也は着替えのため、パドックへ消えて行く……

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