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WME及びルマン参戦決定

 翌日、出雲産業本社にて、改めて会談の場が持たれた。


 さすがの耕平も、FIAの錚々たる面々に緊張を隠せない。何しろマシン及び技術力は世界の最先端の一角を担っている自信はあったとはいえ、所詮は町工場である。


 会議室にて、耕平はFIAの面々と対峙している。会議室といっても、そこは町工場に毛の生えた程度の企業であるが故、大したことはない。だが、この会議室にて、歴史が動き出そうとしているのだ。

 耕平は、自覚するしない如何に関わらず、緊張の極みにあった。あれを見れば、さすがにFIAも認めざるをえないだろう。ましてや、わざわざここまで足を運んできたということは、何かしらの経緯で知って、参戦の可否を直接決めたかったであろうことは明らかだった。

 それでも耕平は、緊張を隠せない。


 永遠に続くかと思われた沈黙を最初に破ったのは、FIAであった。尚、耕平はフランス語も堪能である。

「貴社のマシンを直接確かめたかった。それが一つ。あの時、偶然にも谷田部に我々の関係者がいたもので、映像も見たのですが、正直信じられなかったですね。ですが、こうして直接それが本物であることが確かめられた以上、貴社についてWME及び、ルマン参戦について、これはもう認めざるをえない」


 それは、歴史的瞬間だった。日本の自動車業界に、世界へ挑む機会が認められたのである。


「そ、それは有難い。我々も、かねてよりルマン参戦は目標であり、だからこそ開発に邁進していたのですが、FIAにどう掛け合おうかと思案していたところ、まさか貴方がたから御足労いただき、光栄の極みです。謹んでその招待状、受け取らせていただきます!!」


 握手が交わされ、ここに、IZUMOの参戦が正式に決定となった。


 表向きには友好ムードであった。だが、耕平は、彼らの言葉を額面通りには受け取っていない。というのも、西洋社会では、必ず何かしらの裏があるのは当時では常識だったからだ。

 戦前、仁八と同じく、耕平もまた、大学進学を目前に控えた第三高等学校三年の時、欧州歴訪の旅に出たことがある。

 三か月の短期間であったが、西洋社会の実態と、彼ら、特に社交界の本音を知るには十分過ぎた。確かにゲストとしては好意的に接してはくれた。だが、その目は笑ってはいなかったことを、耕平は見逃さなかった。

 それは、明らかに敵意であった。自分をではなく、日本を警戒していると。


 それから三年後、日本は西洋社会と遂に激突し、現在に至る。


 WMGPで二輪業界が圧倒的な強さを見せつけ、剰えたった15年で、焼野原からあれ程の街並みを築き上げた国を、警戒するなというのが無理な話だ。

 実際、握手を交わす時、一瞬苦々しい思いを隠さなかったことを、耕平は看破していた。どう考えても、本音は日本に参戦させることで、大恥をかかせる意図が見え見えであった。

 無論、それは想定内であり、ルマン制覇を目標に掲げた時から、覚悟していたことだ。


 だが、どす黒い本音に接したとはいえ、朗報には違いなかった。彼らからわざわざ招待状を携えてきたのだから。寧ろ、ヘタに政府などを通す手間が省けたというもの。


 更に、河野氏から、今年の11月に富士を舞台にWME最終戦が開催されることが決定したとの電話を受け取ったのは、その翌日であった。無論、IZUMOのWME及びルマン参戦については、おめでとうと祝辞が入ったのは言うまでもない。

 尤も、彼らとて交渉を覚悟していたから、FIA自ら招待しに来るのは想定外だったが。

 また、富士で行われるのは、6時間レースとなることも伝えられた。FIAにしてみれば、レース後進国である日本には24時間レースなど時期尚早と判断したのだろう。だが、この判断が、思いもよらぬ事態を招くことに。


 ともあれ、正式に参戦が決まったことで、開発は最終段階に入ることになる……

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