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ル・マン観光

 マン島の興奮冷めやらぬ中、一行は今回の本命であるフランスはルマンの地に上陸した。


「ここが、耐久レースの聖地……」

「そうだ。だが、ル・マンは同時に歴史ある街でもある。まずは、周辺を知っておくことが必要だろう」

 耕平もまた、レースは文化であることを理解している一人である。ルマン24時間の予選が始まるのはまだ三日後。だが、この時期、ル・マンは既に観光客でごった返していた。

 ホテルは五つ星からビジネスクラスまで予約で満室であり、その大半はコースの真ん中にテントを張るか、少しばかり裕福な人はキャンピングカーで来る。


 開催場所は、現在は南1/3程を残し、ほぼ切り拓かれているが、この当時はその多くがまだ森に蔽われていた。その上、コースは一部専用道を除き、公道であり、一年の内363日は一般道として使用される。

 1923年(大正12年)に第一回が開催されて以降、コースの変更及び改修は何度か行われてきたが、公道レースの伝統は変わっていない。


 尚、ここも第二次大戦の惨禍の例外ではなく、1939年に戦前最後のルマン24時間が開催された僅か一か月後、戦争状態に入り、翌年フランスがナチスドイツに降伏後、森の中には捕虜収容所が建設され、コースは空軍の滑走路として使われた。

 このために連合軍の苛烈な爆撃に曝され、戦争終了後には、見る影もない程荒廃していた。だが、レース再開を望む有志の熱意によって修復され、4年後の1949年、戦後初のルマン24時間が開催され現在に至る。つまり、この時点でまだ12年しか経っていない。

 

 実は、耕平がルマン参戦を去年決めたのは、日本の自動車を含む産業にとって、世界に伍してやっていくだけの水準を手にするのは、今しかないと思ったからである。終戦から数えてもまだ16年。この時しかないと。

 言わば、日本にとって最初にして最後のチャンスだという危機感も背景にあったのだ。

 それは、産業人の一人としての矜持にも関わることだったが、それ以上に、学徒出陣のあの日、仁八と共に誓ったことでもあった。生き残る側となった以上、日本を託された以上、その使命は果たすと、日本を守るため戦地に散った学友に誓った。

 必ず、素晴らしい国にしてみせると。


 開催までの間、一行はル・マンの地を観光して回った。実は、ル・マンは観光地としては穴場でもあり、3世紀に建てられた円形演劇場(アンティアトルム)を筆頭に、古代ローマ時代の遺跡がそこかしこに残っているので、歴史ファンは必見と言えよう。

 また、旧市街やサン=ジュリアン・デュマン大聖堂も素晴らしい。

 日本人に限らず大半の外国人がフランスを訪問するとなると、やはりパリであろうが、ル・マンを観ることは、ノルマンディーやブルターニュ半島などと並び、本来のフランスの姿を観ることだと断言しても良い。

 尚、リヨンやニースといった、南フランスも付け加えておく。


 そればかりでなく、ル・マンはモータースポーツとの関りも深く、フランス西部自動車倶楽部 (ACO)の本部もここに置かれている。そして、寧ろFIA以上に影響力の大きな組織でもあることは、推して知るべしであろう。


 当時は森も多く風光明媚だったル・マンの街並みは、何処か山陰の風景とも重なる。この頃、海外で日本人を見掛けることは、稀以上にまずなかったため、周囲は明らかに顔立ちの違う東洋人の一行に注目の視線を向けている。

 時折、日本人だと知って、マン島のことを熱く話しながら語り掛けてくる人も。WMGPで日本勢が達成した快挙は、早くも伝説となっていたのだ。これが語り草となっていくのも、恐らく時間の問題だろう。


「それにしても、思った以上に好感触だな。これが、世界を制することの意味なのだろう」

 耕平は、自分の親友が成し遂げた快挙が齎す重大なを改めて思い知らされるのであった。内心、親友が少しばかり羨ましい。


 そして、自分たちもまた、歴史を作り出そうとしているのだと思うと、身震いがする思いであった……

 

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