黄金色のマシン
2026年6月。
今年もまた、ルマン24時間の季節がやって来た。
プレイベントとして、往年のマシンの展示走行がルマンに於ける恒例イベントなのだが、今年は一際インパクトのあるマシンがサルト・サーキットに姿を現す。
朝陽を浴びて黄金色 (こがねいろ)に輝くその姿は神々しく、観客を魅了していた。
そのマシンこそ、今から60年前、日本から耐久レース制覇のために挑んで来た、伝説のマシン、IZUMO Type11である。
そして、現代を走る耐久マシンは、その子孫と言っても過言ではなかった。
ミュルザンヌ・ストレートを、甲高いサウンドを轟かせ、排気口からアフターバーナーの如く金色の閃光を放ち駆け抜けていく。その最高速度は、今となってはコース形状の変更で出しようもなくなったが、実に396㎞/h。後には400㎞/hを超えるマシンも続々登場するが、それはほんの30年前のことに過ぎない。
だが、そのマシンは、古めかしいメカニズムの塊であった。
OHV、ターンフロー、ティアドロップスタイル、ドラムブレーキ……しかし、古典的メカニズムを極限まで進化させたそのマシンは、3年連続でルマン及びWME (世界耐久選手権)を制した。
この時日本では、JAFGPが開催され、主要自動車メーカーによる市販車ベースのレースが始まったばかりだった。その時代に、唯一人、日本で世界の最先端を走っていたのが、このIZUMOである。
しかし、IZUMOは自動車メーカーとしてはもう、存在していない。
IZUMOの活動は、僅か4シーズンに過ぎない。ブランドも、66年を以て姿を消してしまったからだ。
今はただ、伝説を残すのみであり、その伝説を伝えるマシンは、この世に5台しかない。一台はフェラーリ、一台はトヨタ、一台はマツダ、そして二台が、出雲産業に伝説の生き証人として、その名残を後世に伝えるのみだ。
しかし、黄金色に輝くシルエットと共に、後世にまで強烈なインパクトを残した。それは、走る技術遺産に他ならない。
今回、フェラーリからその一台が展示走行に参加していた。嘗てフェラーリは、最大のライバルでもあった。
その様子を見つめていた老人。それは、5年前にフィアット会長の座を退いた、ロレンツォ・バンディーニである。
そして、走りゆくマシンを見つめながら呟く。
「あれ程のマシンには、未だに出会ったことがない……」
嘗てフェラーリに幾度となく耐久レースでの栄光を齎した彼をして、そう言わしめる程のマシン。
そして、65年のルマンとWMEを制した彼をして、あれ以上のマシンに出会うことはないと言わしめ、66年を以て、周囲の反対を押し切ってまでレーサーを引退した程のマシンでもあった。
当時、バンディーはまだ31歳。言わば全盛期である。この時代、F1へのデビュー年齢は平均して26歳前後。17、8でデビューする現在とは、事情が大きく異なる。
そんな時代だったので、31歳は文字通り最も脂の乗り切っていた時期だった。その全盛期の彼をして、そう言わしめたのだ。
それは、一体どんなマシンであったのか。
黄金色の伝説が今、幕を開ける……