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後日談 ◇ 僕らの人外な部隊長

 17歳の誕生日に、お嬢に「仕事」と「使命」と「同じ家名」をもらったセゴット。

 服従しか知らなかった彼が現在、その「仕事」と「使命」と「同じ家名」をどうしているのか。彼の生き方は周りからどう見えているのか。


 連載「婚約者様は非公表」のおまけの小話に近いです。

 そちらの連載を読んでいなくても分かるように書いたつもりですが、そちらを知っている方が少し読みやすいかと思います。


 クゼーレ王国魔導騎士団。


 危険度最大級の魔物を討伐するために結成された、魔法による特殊戦闘を専門とする王国直属の騎士団。


 まず魔法自体がほぼ貴族にしか扱えず、平民の魔力持ちは滅多に現れない。その上、魔物と対等以上に戦うためには天性の運動神経と徹底的に鍛え抜いた強靭な肉体が不可欠である。

 希少な魔力と、超人的な身体能力。この二つを兼ね備えた者だけが所属することができる、勇猛果敢な最強のエリート集団。

 クゼーレ王国では、舞台役者よりも歌手よりも芸人よりも、何よりもこの「魔導騎士団」こそが圧倒的人気を誇るスターなのだ。


 その猛者たちを束ねる魔導騎士団の団長は、この国で最も強く美しい女性。クゼーレ王国の象徴【ラルダ・クゼーレ・ウェレストリア】第一王女。

 王女ラルダ団長のもとを固める幹部陣は、王国の北の砦と呼ばれる武闘派一族モンド辺境伯の血を引く【ドルグス・モンド】副団長。そして、圧倒的な戦闘力を誇る5人の部隊長たち。


 5部隊編成の魔導騎士団は、各部隊が部隊長を中心に唯一無二の特化した色を持つ。

 どの部隊長も、どの部隊も替えが効かない、最強の戦闘集団だ。



 …………さらに、それは戦闘面だけに限らない。



 肩書き(しか)り、出自然り、容姿然り……性格然り。



 団長と副団長に限らず、5人の部隊長たちは、これでもかというくらいに()()()()な人たちだ。



 ──もちろん、僕らの先頭に立つ【セゴット・ジャスリー】第2部隊長も例外ではない。



 これは、僕【スミク・フィーズ】が所属する第2部隊と──……


 ……ただでさえ個性派揃いの魔導騎士団で、微塵も埋もれることなく個性が大爆発しているセゴット隊長の、架空(フィクション)のような現実(ノンフィクション)の話だ。



◇◇◇◇◇◇



 クゼーレ王国魔導騎士団 第2部隊長【セゴット・ジャスリー】。

 年齢は30代半ば。……たしか、僕の記憶が正しければ35歳……か36歳。多分そこら辺。


 黒紅色のウェーブがかった髪に、髪と同じ黒紅色の左目。もう片方の右目には、封印魔法が施された特殊な眼帯をつけている。

 それから、この王国では珍しい褐色肌。その左手には、肘まである革製のロンググローブ。これもまた、封印魔法が施された特殊なグローブだ。


 そんな特徴的な見た目をしているセゴット隊長。

 実は、隊長の本名は【セゴット・()()()()】。


 セゴット隊長は暗殺組織の手によって滅ぼされてしまったジャスリー子爵家の生き残りだったのだが、子爵家がなくなってしまったことで「ジャスリー」の家名は王国から消えてしまった。

 本名の「アーガン」は、少年だったセゴット隊長を保護した伯爵の家名らしい。


 セゴット隊長は、その伯爵家の養子となってアーガンの姓を得た。

 そして魔導騎士団という仕事の場では、本当の両親のジャスリーを名乗っている──というわけだ。


 内部の魔導騎士団員たちは事務書類でたまーに本名の「セゴット・アーガン」を見かけるから一応知っているけど、国民に向けた(おおやけ)の場では常に「セゴット・ジャスリー」が使われているため、この本名のことは、国民にとっては知る人ぞ知る秘密情報だ。



 …………お分かりいただけただろうか。



 もうすでにお腹いっぱいである。



 セゴット隊長の容姿と名前を軽く説明しようとしただけでも()()だ。

 情報過多。ツッコミどころが多過ぎてびっくりする。


 ──人間なのに右目と左手が封印魔法で封じられているのは、何故なのか?


 ──暗殺組織に消された子爵家の生き残りとは、一体どういうことなのか?


 そんな疑問を、まず誰もが持つはずだ。


 僕も、この魔導騎士団に3年前に入団するまでは思っていた。

 王国最強の魔導騎士団に入りたいと思って、騎士団のことを調べて……未来の自分の上官になるであろう、幹部陣のこともいろいろと見聞きして……それで当然、疑問に思った。


 それから僕は無事に憧れだった魔導騎士団に入団して、疑問だらけの第2部隊の所属になり──……そこでいろいろと知ることになったのだった。


 最初は驚愕もしたし戸惑いまくった。とにかく、ついていける気がしなかった。



 …………3年経って、もういろいろと慣れたけど。



◇◇◇◇◇◇



 希望に満ち溢れるウキウキ楽しい新年度。

 僕、スミクも魔導騎士団に入って3年が経って、剣士としてけっこう実力が上がってきたように思う。


 そんな爽やかな新年度の初日に、僕ら第2部隊に待望の新人がやってきた。


 僕が入団した年以来、ずっと僕らの部隊には新人が来ていなかった。

 そもそも王国最難関と言われる入団試験を突破した人数が、去年は3名。一昨年は2名。……新入団員自体が、ここ2年間は少なかったんだ。……まあ、多い年でも5名くらいだけど。


 僕もようやく、この部隊内で先輩になる。

 直属の後輩ができるのは素直に嬉しいし、楽しみでもある。


 僕はそんな明るい気分で、新入団員との部隊ごとの顔合わせの時間を迎えた。



「「──よろしくお願いします!」」


 緊張で固くなりながらも、ハキハキと挨拶をする新入団員の二人。

 そんな新人の彼らが聞いた第一声は、我らが第2部隊長のありがたいお言葉だった。



「『寄越す人数増やせ』っつっといたのに。結局二人だけかよ。

 チッ!しけてんな。」



 緊張している新人二人の前でいきなりカツアゲしているチンピラのような発言をかますセゴット隊長。


 ……正確には、新人たちはカツアゲされた財布の中身か。


 当然新人たちは、静かに震え上がっていた。



 セゴット隊長は、カリスマ的国民人気を誇る第一王女ラルダ団長が相手であろうが誰が相手であろうが、微塵も謙虚にならない。

 特に戦闘以外の部隊長業務に関しては顕著だ。()()()()()()()()()()はきちんとこなす。でも、それ以外だと平気で団長や副団長に逆らうし、文句も言う。

 ラルダ団長が先手を打って勤務時間と業務内容を厳格に定めながら指示をしているのをよく見かける。そして、そんな抜かりないラルダ団長に「チッ!姫さんクソ(こまけ)えな。」と目の前で文句を垂れている隊長もよく見かける。


 ……だから、今の「『寄越す人数増やせ』っつっといた」も、誇張じゃなくて本当なんだろうな。


 普通にラルダ団長相手に「は?二人?……ふざけんなよ。どんだけウチの部隊に新人来てねえと思ってんだよ。いい加減にしろ。寄越す人数増やせ。」ってちゃんと言ってあったんだろうな。容易に想像がつく。


 基本的にセゴット隊長は「他人の下につく」ことができない人だと思う。

 セゴット隊長を従えることができる人なんて、この世の中に存在するんだろうか。


 ……いないだろうな。隊長のプライベートはほとんど知らないけど。



 僕がそう思いながら新人に同情していると、セゴット隊長は震える新人たちに向かって、記念すべき最初の部隊長挨拶を始めた。


「……仕方ねえな。そんじゃ、訓練すっか。

 在籍団員(こっち)側の自己紹介とか一気にやったところで、どうせ覚えらんねえだろ。研修期間の1ヶ月使って適当に覚えとけ。」


 終わった。


 セゴット隊長は自分の名前すら名乗らずに、新年度の、3年ぶりのウキウキ新人歓迎タイムを終了させた。


 好意的に解釈するならば、これは隊長なりの優しさだ。

 さすがに新人の二人もセゴット隊長のことは知っているだろうし。隊長の言う通り、一気に他人の名前を何人も覚えるのって大変だし。1ヶ月も猶予が与えられるなんて、新人的にはかなりありがたい──


 ──……とは、新人視点では到底、思えないよな。

 普通は隊長から自己紹介とともに「入団おめでとう!今日から君も僕らの仲間だ!これからよろしく!」みたいな、希望に満ち溢れた言葉をもらえると思うよな。……ごめんな。いきなり期待を裏切って。


 さらに戸惑い震え上がる新人二人をよそに、セゴット隊長は僕らに向かって


「お前ら。新入りに話すときに名前教えてやれよ。」


 とだけ言って、サクッと訓練に入っていった。



 …………僕も3年前、一人で第2部隊に放り込まれたとき、だいぶ戸惑った記憶があるからな。


 僕はそっと二人のところへ駆け寄って


「僕はスミク・フィーズ。スミクでいいよ。

 君たちの前に第2部隊に入った、一番若い在籍者なんだ。

 ……大丈夫。最初は戸惑うこともあるけど、そのうち慣れるし、本当にいい隊長といい部隊だから。

 ようこそ第2部隊へ。後輩ができて嬉しいよ。」


 と、歓迎の言葉をかけた。


 新人の二人は僕の言葉にいたく感動……というか、僕の言葉で一気に安心したらしく、その一日で僕にすごく懐いてきた。



◇◇◇◇◇◇



 あっという間に新人研修期間の1ヶ月が過ぎた。


 最初は戸惑っていた新人二人も、第2部隊の面子(めんつ)をちゃんと覚えて、セゴット隊長と部隊の独特な雰囲気にも慣れてきたらしい。


「スミク先輩が事前に教えてくださったお陰で、セゴット隊長がいきなり毒を飲み始めても叫ばずに済みました!」

「一昨日の朝一発目の『今日は自主練。以上。』にも驚かずに対応できました!」


 そう言って笑顔で僕にお礼を言ってくる新人二人。



 …………お分かりいただけただろうか。



 もう無茶苦茶である。



 いや、訂正しよう。一応、理由はある。


 まずセゴット隊長は、人間では当たり前に即死するレベルのあらゆる毒に耐性がある。

 しかし、その特殊な体質が故に……逆に、定期的に毒を摂取しないと体調を崩してしまうらしい。

 隊長が(だる)そうにしながら医務室に行ってきて、薬の代わりに猛毒をもらってきて躊躇うことなく飲み干す姿は、月に何度かは見られる光景だ。


 さらにセゴット隊長は、まあ……れっきとした人間なんだけど、魔物の《月下狼》と《鉱邪龍》の性質も併せ持ってしまっている。

 月下狼のように、満月の日には絶好調になるし、新月の日には普段の半分以下の低いテンションになる。

 鉱邪龍のように、空気が澄んでいると割としんどいらしく、天候や場所によってはげんなりしながら鉱邪龍の酸をまるでヤケ酒のようにカパカパ飲んでいる。


 だから、日によって訓練内容は変動するし、極端な日には「部隊員の自主性を重んじる」という建前ですべてを丸投げされることもあるのだ。……まあ、若干ただの気まぐれも入っているようだけど。

 団長副団長を始めとする他の団員たちも、そこはセゴット隊長に気を遣って考慮してくれている。

 魔導騎士団にはセゴット隊長のように、強さの代償に何かが犠牲になっている団員もちらほらいる。そのため、特殊な体質にはかなり理解がある組織なのだ。



 …………理由を挙げたら挙げたで、よりいっそう無茶苦茶だな。



 隊長に憧れたとしても、よい子は決して真似してはいけない。

 よく「成長したければ真似から始めろ」とか「学ぶとは真似ることである」みたいな格言を聞くけど、セゴット隊長に関しては真似すると死ぬ。

 うっかり盲信して己を見失ってはいけない。部隊員たちは常に冷静に自己研鑽に努める必要がある。伸び悩んだとしても決して血迷って「……そうか!僕に足りないのは《毒への耐性》だったんだ!」とか思ってはいけない。


 新人二人は、変に血迷うことなく無事に最初の1ヶ月を乗り切れたようだった。



 そうして研修期間が終わっていよいよ新体制が本格始動となったある日。

 王国東部の領主から、街の近くで魔物の群れが発生したとの通報が入った。


 王国魔導騎士団への緊急出動要請だ。


 そして、その新体制一発目の出動部隊に選ばれたのは──僕ら、第2部隊だった。



◇◇◇◇◇◇



 舞台役者よりも歌手よりも芸人よりも、何よりも圧倒的人気を誇るスター集団の魔導騎士団。


 第2部隊出動の鐘の音を聞いた王都民が、今日も僕ら魔導騎士団の隊列を一目見ようと、大通りの沿道に駆けつけていた。


 今日は平日。時刻は黄昏時の午後6時過ぎ。

 沿道の人々は、こんな仕事終わりの時間に日を跨いで討伐遠征に向かう僕らを労うように「頑張れー!」「いってらっしゃーい!」と、温かい声援を送ってくれていた。



「……案外、平和ですね。正直、もっと人が詰めかけてくるのかと思って身構えていました。」


 僕の隣で新人の一人がぼそっと呟く。



 …………気持ちは分かる。


 たしかに彼の言う通り、スター集団の隊列の応援にしては、沿道に並んでいる人の数はかなり平和だもんな。


 第一王女ラルダ団長とドルグス副団長が出動するときや、魔導騎士団を──いや、王国を代表する花形剣士、超絶美形の【クラウス・サーリ】部隊長が率いる第3部隊の出動時なんかはとにかく凄い。

 沿道が通行不可能になるくらいに大勢の人々が押し寄せてきて、黄色い歓声を通り越した絶叫と悲鳴が鼓膜を破らんばかりに上がり続ける。

 他の部隊も、それぞれが独自のファン層を築いていて、沿道にはかなり多くの人が集まってくる。


 でも、僕ら第2部隊が1部隊編成で出動するときは、せいぜい沿道に並んでいる人々は左右それぞれ2〜3列ずつくらい。お行儀よく並んで平和に声援をくれる程度だ。

 沿道が人で埋め尽くされる他の部隊の出動時に比べたら、本当に平和だ。


 …………まあ、人気がない()()()()()()よな。


 僕は隣で「もしかして第2部隊って、一番『不人気』な部隊なのかな?」と言いたげな不安な表情をしている新人二人に、そっと教えてあげた。



「ほら。さっき出動前に先輩たちも言ってただろ。

 僕ら第2部隊の応援をしてくれるファン層は割と独特なんだよ。


 ──沿道に立ってる人だけじゃなくて、()()()()()()()()()()にも意識を向けてみると分かるよ。」



 僕のアドバイスに従って範囲を広げて気配を探った新人たちは、すぐに気が付いたらしく、ハッとして息を呑んでいた。



 …………お分かりいただけただろうか。



 沿道の奥の方に注意深く耳を傾けてみると、ただの通行人を装った人々や路地裏に潜んでいる人々が、チラチラとこちらを見ながら


「今日は風が騒がしいな……。」

「フッ……俺も(きた)(とき)に備えるとするか。上手くやれよ、お前ら。」

「私が出るまでもないわね。……セゴット、今回は貴方で充分よ。」

「まだあのときの傷が癒えていないというのに……それでも、行くのね。セゴット。……っ、生きて……必ず生きて帰ってきて……!」


 とか言っているのが聞こえてくる。



 僕ら第2部隊が出動する日は、どんなに朗らかな晴天であっても、毎回風が騒がしい。

 沿道には何故か大量の()()魔導騎士団員が紛れているし、ちょくちょくセゴット隊長に出動指示をしている()幹部たちがいる。

 部隊員の僕らも知らないセゴット隊長の不調を知っている大量の恋人や内縁の妻たちが、隊長の生還を祈っている。……というか、毎回セゴット隊長は「実は重傷または難病または身体を蝕む呪印で死にそうなのを隠して無茶をしている」ことにされている。



 …………痛々しい。



 セゴット隊長の人物像からして仕方ないとは思うけど……



 ──……第2部隊の一番の支持層は「中二病患者」だ。



 ご存知の通り、世の大半の人間が中等部2学年くらいの年齢で(かか)ってしまう有名な(やまい)

 特に男子ならば必ず罹患していると言っても過言ではない。

 無駄に剣の必殺技名を考えたり、友達と馴れ合わずにクールに振る舞ってみたり、やたらと闇属性魔法ばっかり練習したり、隻眼に憧れて眼帯をつけたり、何もないのに包帯を巻いて左手を疼かせたり、自分に稀有な異能がある設定で過ごしたりしてしまう()()だ。

 そして中二病は永遠に完治しない不治の病。冷静になり自分を客観視し、過去を黒歴史認定して羞恥で悶えることで症状を封じ込めることはできるが、ふとした瞬間に再発したりする。大人になってからも油断はできない。


 ……要するに、少年少女だけじゃなく、けっこう成人済みの中二病再発系のファンもいるということだ。



 見た目がすでに中二病感満載のセゴット第2部隊長。

 沿道からの歓声を受けてもニコリともしない、ある意味で期待通りなその性格も相まって、「普通」や「大衆派」を嫌う斜に構えた層からは爆発的な人気を誇っている。


 ただ、誇っているんだけど……その層は斜に構えているために、僕らに素直に歓声を上げることはない。

 あくまでも彼らは「魔導騎士団の応援とか、そんなミーハーなものには興味ありませんよ〜」って雰囲気を醸し出している。


 そんな感じの隠れファンが異様に多いせいで、僕ら第2部隊のファンは他よりも少ないように見えてしまうのだ。



 …………でも、申し訳ないけど、僕ら魔導騎士団側には思いっきりバレている。

 毎回思いっきり聞こえている。


 そして。その中二病のファンたちの独自設定に基づいて、勝手に部下にされたり間者(スパイ)にされたり親友にされたり内縁の夫にされたりしている我らがセゴット隊長。

 当然隊長も、彼らの(ささや)きの内容はちゃんと知っている。今も顔に出してないだけで、隊長は全部聞き取っている。



 ……自分たちの妄想が隊長にバレてるって知ったら、みんな発狂しちゃうだろうな。…………羞恥で。



 僕ら第2部隊員は、隊長に(なら)って平然とそこかしこから聞こえてくるファンたちの妄想を聞き流しながら、大通りを抜けていった。



◇◇◇◇◇◇



 魔物討伐の要請が来ているということは、一刻を争うということだ。

 人里を魔物の群れに襲われてしまったら、戦うことのできない一般国民が命を落とす悲劇が起きる。


 止まることなく移動をし続け、通報のあった王国東部の街に着いたのは、夜中の3時だった。


 馬車の中でできる限り休んできたから、僕らの体調はまったく問題ない。

 ……とはいえ、真っ暗な山の中を駆けて魔物と対峙をするのは、いかに専門の戦闘集団といえど命の危険を伴う行為。


 このまま迅速に討伐に向かうか、それとも夜が明けるのを待つか。


 その判断をしなければならないセゴット隊長は、目的の街に着いて早々に、いつも通り──



 ──右眼の眼帯を取り、金色の《月下狼の眼》を発動させた。



 普段封印されているセゴット隊長の右眼。これは実は、人間の眼ではなく、魔物の月下狼の眼になっている。


 まず第一に、夜目が効く。

 隊長曰く、明かり一つない真夜中でも昼間と全く変わらずすべてがハッキリと見えるらしい。


 そして第二に、魔力が視える。

 隊長曰く、ただ普通に右眼で眺めれば、どこに、何匹、どのくらいの強さの、何の種類の魔物がいるのか、すべて分かってしまうらしい。

 ちなみに魔力持ちの人間のことも分かるらしい。僕が入団してしばらく経った頃にそれを知って驚いていたら、隊長は「お前の魔力、水色だかんな。」と、ちょっと面白い情報を教えてくれた。



 そう。この隊長の異能のお陰で、僕ら第2部隊は絶対に討伐対象を正確に捉えられるのだ。


 普通の人間であれば、気配を探りながら捜索をして魔物を見つけなければならない。

 なかなか見つからないだけならまだいい。たまに魔物側から奇襲を受けたり、予想外の別種の魔物に遭遇したりして、危機に晒されることもある。


 でも、セゴット隊長ならばそんなことをする必要は一切ない。

 今回も夜中3時の暗闇の中で、街の近くの山を眺めて、あっさりと状況を把握したようだった。


「……近くに来てんのは八尾黄獅子の群れか。

 数えんの面倒くせえけど、だいたい15体ってとこだな。」


 それからセゴット隊長は、腕を組んで山を眺めながら、少しだけ考えて結論を出した。


「んー……まあ、このまま行っちまっても悪くねえけど……日が出るまで待つか。群れも今はそんな街のすぐ近くにいるわけじゃねえし。

 その方が、お前らやりやすいだろ。新入りもいるしな。」


 サクッと方針を決めた隊長は「今のうちに休んどけ」と言って、一応魔物の群れの動向を監視するために山の方を向いたまま、寝そべって足を組んで退屈そうに欠伸をした。


 僕らは隊長のありがたいお言葉に甘えて、夜明けまで仮眠をとることにした。



◇◇◇◇◇◇



 夜が明けた。


 僕らは隊長の先導で、八尾黄獅子の群れを討伐すべく山に入った。


「一匹群れから(はぐ)れてこっち来てる奴いるから、ソイツ片付けながら行くぞ。」


 セゴット隊長の右眼による正確な状況把握はとにかく助かる。

 一切の迷いなく、隊長はまるで住み慣れた街の中を歩くかのようにサクサクと山の中を進んでいった。


 そうしてしばらく歩いたところで、隊長は何の予告もなく、今度はスッと特殊なロンググローブを外して左手の封印を解いた。



 ──《鉱邪龍の酸》を纏った左手。



 セゴット隊長の左手は、指先から肘のあたりまで、人間の手とは到底思えない、真っ黒な色をした硬質な皮膚になっている。


 正直に言うと……入団1年目で初めて見たとき、僕は思わずゾッとしてしまった。


 これが隊長のもう一つの異能。

 ずっと鉱邪龍の酸を浴び続けて鉱邪龍と同じ能力を持つに至った、人間の限界を超えた悪魔の左手だ。


 セゴット隊長が左手に魔力を込めると、漆黒の手が熱された金属のように赤色に変化し光りだした。



 …………中二病のセゴット隊長ファンが見たら大歓喜だろうな。コレ。



 3年目で慣れた僕は、1年目のときとは違い、そんな呑気なことをこっそり思った。


 本当に隊長は、右眼も左手も中二病の権化だ。セゴット隊長以上に全中二病患者の夢を実現している人はいないだろう。


 ……隊長自身はこれらの能力を中二病に憧れて体得したわけじゃないっていうのが、虚しくて、皮肉な話だよな。



 セゴット隊長は赤くなった左手をバキバキ鳴らしながら、右手で腰につけていた片手剣を抜いた。

 そしてそれから新人二人に向けて、優しく説明し始めた。


「お前ら八尾黄獅子の実物見んのは初めてなんだろ?こっから先に一匹いっから、とりあえず見てろ。」


 終わった。


 新人二人が戸惑いながら「えっ?」「あ、はい。」と返事をした直後、セゴット隊長は右手の片手剣で近くの木の枝をバサッと切って大きめな音を立てた。

 すると前方で、僕らの存在に気付いた魔物がこちらに向かって走ってくる音がした。


 極めて攻撃的な八尾黄獅子。数秒も経たないうちに僕らの目の前に中型の小個体が一匹現れて、いきなり先頭のセゴット隊長に向けて火球を吐いてきた。


 セゴット隊長は躊躇うことなくその八尾黄獅子に突っ込んでいきながら、右手の片手剣で火球を弾いて、その封印を解いた左手で──



 ──普通に殴った。



 触れただけでどんな鉱物をも一瞬で溶かすことができるセゴット隊長の左手。

 八尾黄獅子の頭部は、セゴット隊長に触れられた瞬間、まるで異次元に飛ばされたかのように綺麗に()()した。


 そしてあっさりと、逸れた個体の討伐は完了した。



 …………逆に怖いんだよな。ちょっと。


 普通に剣で斬ったり銃で撃ったりした方が、血も吹き出るし肉片も飛び散るからグロいはずなんだけど。

 でも隊長の攻撃は、こう……物理法則を無視した感じというか、本能的に違和感を覚えて……割とホラーな感じがする。


 団内(いち)の近接攻撃派、セゴット隊長。

 何故なら隊長の攻撃方法は「素手で魔物を直接殴る」だからです。



 …………お分かりいただけただろうか。



 もう無茶苦茶すぎる。



 普段の訓練では封印されたままの左手。

 何故なら隊長が封印を解いて左手で攻撃をしだしたら、僕らの大切な愛剣の方が溶けて消えてしまうからです。


 中二病の真髄みたいなこの能力。一般国民にお見せする機会が滅多にないのが悔やまれる。

 ……あ。そういえば、新人二人も直接目にしたのは今が初めてだったかもしれないな。


 呆気に取られている新人二人に、隊長は「分かっただろ。あとこういうヤツが10体くれえいるから。今からそれ()りに行くぞ。」と親切に教えてあげていた。



◇◇◇◇◇◇



 それからセゴット隊長は、群れ本体を叩くべくまた歩き始めるかと思いきや、そうではなかった。

 右横の方を右手の親指でクイッと示して、部隊内の精鋭である第1班の先輩たちに、軽くこう指示をした。



「……あと、この方角。こっから2kmくれえ先に、群れとは別に動いてる中型が1体、小型が2体いる。


 第1班。お前らはその八尾黄獅子(ども)を始末してこい。


 油断しねえで確実に()れよ。しくじるんじゃねえぞ。」




 …………もう慣れたけど。


 正直、セゴット隊長の指示はいつも「王国最強の誇り高き魔導騎士団の部隊長」というより「王国最凶の裏社会の非人道組織の首領」って感じがする。


 ただ、それが隊長の「キャラ」なだけなら「もー!僕ら暗殺組織かっての!」「言い方やばいですよ隊長!」って笑えるけど──……



 ……これは紛うことなき隊長の「お育ち」からくるものだから笑えない。



 セゴット隊長は実際、本当に「王国最凶の暗殺組織」で育てられた過去を持つ、正真正銘の裏社会出身の御方なのだ。



 ──人間なのに右目と左手が封印魔法で封じられているのは、何故なのか?


 ──暗殺組織に消された子爵家の生き残りとは、一体どういうことなのか?


 その答えは、セゴット隊長のあり得ない出自にある。



 もう35年くらい前の話。当時赤子だったセゴット隊長は、両親を殺した暗殺組織に持ち帰られて、そこで育てられたらしい。


 …………最強の「暗殺者」として。


 赤子の目玉を取り替えて、左手を酸に慣れさせて、食事には様々な毒を盛る──……そんな狂った奴らによる恐怖の育成に、セゴット隊長は耐え切った。


 両親を奪われ、人間らしい身体を奪われ、殺戮兵器として造り上げられた隊長。


 きっと隊長は物心つく前からずっと、()()()()()()が飛び交う中で日々を過ごしてきたんだろう。

 キャラでもなく、カッコつけでもなく……ただセゴット隊長にとっては、()()が一番自然な言い方なんだろうな。



 僕らは慣れと良識から、セゴット隊長の殺伐とした言葉選びには特に触れずに、皆で気を引き締めた。

 第1班の先輩たちも、もはや何の疑問も抱かずに普通に「ハイ!」と返事をして隊長の示した方角へと走っていった。



 そして第1班と別れた僕らは、隊長の先導で一切迷うことなく、八尾黄獅子の群れ本体のもとに到着した。


 まだ向こうはこちらの気配を察知していない。

 ただ、ここから一歩踏み込めば、気付いて襲ってくるだろう。


 戦闘開始だ。僕らは静かに各々の武器を構えた。



 そして、先頭に立っているセゴット隊長は──



 ──スッと左手に特殊グローブを嵌め直して、腕組みをして立ち始めた。



「オイ。あとはお前らで(カタ)つけろ。

 ……新入り。テメェらも見てねえで行けよ。」





 …………もう慣れたけど。



 セゴット隊長はどうやら、新人指導と部隊員訓練にこの討伐を使うことにしたようだった。


 セゴット隊長の戦いの方針は、本当に「日による」としか言いようがない。

 そのまま隊長が先導して一気に片をつけてしまうこともあれば、今のように「オラお前ら()れ」って感じで丸投げしてくることもある。

 ちなみに、さっきの魔物の捜索もそう。今日みたいにさっさとネタバレをしてサクサク指示してくれることもあれば、あえて「俺は(なん)も言わねえからお前ら自力で探せ」って感じで捜索の訓練を始めることもある。


 新人二人は「えっ?」と戸惑っていたが、周りの先輩たちは、もはや何の疑問も抱かずに普通に「ハイ!」と返事をして戦闘に入っていった。



 ──第2部隊名物、セゴット隊長の気まぐれ討伐。



 これは一般国民はもちろん、他部隊の団員も見ることは叶わない。第2部隊ならではの光景だ。



 初めての討伐。初めての実戦。

 必死に頑張ってついていく新人に向かって、セゴット隊長は「新入り。どうせなら昨日のアレやってみろよ。できんだろ。──お前ら一旦退()がれ。コイツにやらせろ。」と、鬼のような教育をしていた。



 そうして時間はかかったものの、先輩部隊員たちのサポートもあり、なんとか一体ずつは討ち取れた期待の新人二人。

 八尾黄獅子の死体が10体ほどゴロゴロ転がる殺伐とした光景の中で、セゴット隊長は「お前らできんじゃん。いい新人獲ったわ。」と言って笑って、「これでだいたい実戦の勘も掴めたろ。良かったな。」と労っていた。


 新人二人はこの一回の討伐ですっかり感覚が麻痺してしまったらしく、いきなり丸投げしてきた鬼畜なセゴット隊長の邪悪な笑顔を受けて「ハイ!隊長!ありがとうございました!」と純粋に感謝をして、満ち足りた顔をしていた。

 完全に「この『丸投げ実戦デビュー』こそが、強くなるための正しい道のりだったんだ!──俺たち()ったぞ!」と思ってしまっているようだった。



 …………これが世に言う「洗脳」か。



 血迷ってるところ悪いけど、ごめんな。

 こんな教育してるの、うちの部隊だけだから。別に「正しい道のり」でも何でもないからな。

 ……まあ、実戦慣れはどこよりも早くできるとは思うけど。


 僕はちょっと初心に返って「気まぐれな隊長を盲信しすぎないようにしよう」と思うことにした。



◇◇◇◇◇◇



 無事に討伐を終えて王都に帰還した僕ら第2部隊。

 帰りも行きと同様、沿道には平和に歓声を上げてくれるファンたちと、通行人偽装や路地裏潜伏をしながら斜に構えて様子を窺ってくれるファンたちがいた。


 中二病患者がこぞって憧れるだけある、すべてがそれっぽい、危険な大人の魅力が漂うセゴット隊長。

 行きだけでなく帰りでも、同志だの好敵手(ライバル)だの恋人だのファンに好き勝手に言われて、当然内心ではブチギレているかと思いきや──……


 全然キレていない。


 セゴット隊長は、毎回ファンによるトンデモ設定が聞こえてきても、微塵も動揺せずに平然としている。

 そして隊長は意外なことに……って言うと失礼だけど、裏でファンを小馬鹿にして軽蔑するようなこともしない。「痛えよなーアイツら。聞こえてるっつーの。」とか絶対に言わない。



 ……昨晩の出動前。魔導騎士団施設内での待機時間。


 新人二人に向けて、先輩たちが緊張を解すために笑って雑談を振っていたときのこと。


「俺たち第2部隊の出動のときは、沿道の応援が独特だからな。どうせなら楽しんで行けよ!」

「そうそう。中二病の囁きがめっちゃ聞こえてくるぞ。」

「実は俺、ファンの創作話の続きを楽しみにしてるんだよな。……あの人、今日は沿道に来てるかな。」


 新人たちが目を丸くしながら先輩たちの話を聞いていたら、セゴット隊長が集合場所にやってきて、ごく自然に雑談に参加してきた。


「……オイお前ら、決めつけんなよ。全部が全部『中二病』とも限らねえだろ。

 アイツらにも俺らの知らねえ事情があんだろうし、事実かもしんねえし。」


「いや、事実だとしたらいろいろとすごいことになりますけど。」


 先輩の一人が思わず隊長にツッコんだ。


 だよな。

 前回ふと思い立って数えてみたけど、僕が気付けただけでも、隊長の恋人ないし内縁の妻、行きの沿道だけで31人いたからな。事実だとしたら倫理観崩壊にも程があるって。

 ついでに、セゴット隊長に片想いされてる人と、セゴット隊長と両思いだけど敵に仲を引き裂かれた人、無言で意味深な視線を送っていた人を含めると、人数はもっと増える。


 ……まあでも、さすがにそういった女性関係の話は全部ファンの中二病設定だとしても。

 他でもないセゴット隊長の存在が「事実」だもんな。


 僕がそんな風に思っていたら、セゴット隊長は先輩のツッコミにこう返した。


「内容次第だけどな。っつか、もし適当な設定だとしてもいいだろ。何も(わり)いことねえよ。

 俺は中二病の奴、好きだわ。中途半端に抑えてるより思っきし酔ってる方が清々しいからな。」


 セゴット隊長はハッキリとそう言って、それから新人二人に向かって


「ま、(おもて)出りゃ何か聞こえてくっけど、お前らはアイツらのやべえ設定にも負けねえように強くなれ。

 お前らは『本物』でいろ。理想を壊すなよ。」


 と言って笑っていた。



 ──お前らは「本物」でいろ。理想を壊すな。



 魔導騎士団の中でも、第2部隊に特別な夢を見て応援してくれている一部の国民たち。彼らに対する隊長のスタンスは一貫して()()だ。

 そして、これはそのまま第2部隊員の僕の座右の銘にもなっている。


 僕らは王国魔導騎士団の第2部隊として、彼らの中二病設定にも劣らない、圧倒的な強さを見せ続けなきゃいけないんだ。


 彼らの期待に応えるために。


 ……何より、彼らが安心して、僕らで夢を見ていられるように。


 僕らが──セゴット隊長がもし実際に魔物に負けてしまったら、彼らは中二病に罹っていることすらできない。

 本当に重傷者や死者を出してしまった集団を前に、そんな不謹慎な妄想はしていられないから。


 セゴット隊長と僕ら第2部隊がいつも堂々と帰還するから、彼らは安心してこうして帰りの沿道でも


「……風が、泣いている。人間に抗おうとした魔物界の同胞たちへの鎮魂歌(レクイエム)……か。」

「フッ。今回は俺が出るまでもなかったな。」

「油断するなよ、セゴット。……これはまだ序章に過ぎない。」

「生きて……っ、生きて帰ってきたのねセゴット!……でも、次はどうなるか……貴方の身体がもつかどうか、私にも分からないわ。」


 って呟いていられるんだ。



 ……でも、申し訳ないけどやっぱり痛々しい。



 …………もう慣れたけど。



 ちなみにセゴット隊長本人は、前に部隊内での雑談のときに座右の銘を聞かれて「定時退勤」って即答していた。

 どうやらセゴット隊長にとって「本物」でいることは、当たり前すぎて座右の銘ですらないらしい。



 ……まあ、もうすでに誰よりも中二病の体現者になってるからな。


 宵闇が似合う見た目も、辛過ぎる生い立ちも、唯一無二の人外の能力も──……そんなすべてを格好良く魅せる、その強さと、性格と、生き様も。



◇◇◇◇◇◇



 現在の時刻は午後の4時半。

 騎士団施設に着いて、ひと段落して。僕ら第2部隊員はセゴット隊長の本日の総括を待った。


「お疲れ。5時の全体集合まで適当に時間潰してろ。」


 終わった。


 セゴット隊長は特に振り返りや反省もしなければ、改めて活躍した部隊員を褒めたりもしない。

 曰く「俺にわざわざ言われなくても分かんだろ。」とのこと。

 好意的に解釈するならば、これは隊長からの熱い信頼の証だ。


 ……まあ、「今日は活躍できたから褒めてほしいなー」とか「隊長から見てあのときどう動くべきだったかアドバイスしてほしいなー」って思うことも、正直なくはないんだけど。


 何やかんやで、セゴット隊長は討伐のときのことをしっかり覚えてくれていて、日々の訓練やふとしたタイミングで、ちゃんと的確に褒めたり指導したりしてくれるからな。

 今じゃなくても大丈夫だ。


 ──そういうセゴット隊長のさり気ない格好良さにも、すぐに気付いていけるだろう。これも慣れの問題だ。


 僕は拍子抜けしている新人二人を見ながら、口には出さずにそう思った。



 それからセゴット隊長はサクサクと団長と副団長への報告と最低限の事務処理を終え、5時ピッタリに全体の解散の号令を聞いて、華麗に定時退勤をキメた。




 …………僕は隊長のプライベートはほとんど知らないけど。



 隊長だって、ただの「人外な異端者」なだけじゃない。れっきとした「一人の人間」だ。


 魔導騎士団の勤務時間が終われば、そこには皆が憧れるような「設定」や、育ってきた「過去」の場所じゃない、隊長の「今の生活」があるんだよな。



 今は、王国最凶の暗殺組織のアジトでもなく、31人以上の恋人や内縁の妻のもとでもなく──……



 隊長はきっと普通に、本物の家族がいる自分の家に帰るんだ。




 お疲れ様でした。隊長。

 早く帰ってゆっくり休んで、私生活(オフ)を満喫してください。



 ──これにて、新入部隊員2名を含む新生第2部隊、本日の討伐遠征を無事に完遂。



 戦闘の強さは超中二病級、でも訓練や討伐はどの部隊よりも時間通りにスパッと終える。仕事(オン)私生活(オフ)のメリハリはしっかりつける。


 僕ら第2部隊は、そういうイカした集団だ。



 追加の後日談にまで気付いてお読みくださった方、本当にありがとうございました。


 路地裏のような今作を通りがかってくださったついでに、こんな彼の生き様もこっそり応援していただけたら嬉しいです。

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