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四方敵地の係争領  作者: 一等ダスト
一章 四大国の小事編
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4.慶事に捧げる領土権④

「あなたのその眼帯……同情でも誘う気ですか?それに、本当にあなた方の決闘者は彼女なのですか?」

 片目が合うなりそう問いかけてきたエノエに、俺は頷いて見せた。武器をもたず装備も身軽なリュッセリンナさんは、一見すると魔術師か僧侶だと思うだろう。だがそのどちらにも基本的に必要な杖を持っていないため、己の肉体だけで戦い抜く武闘家には……まぁ、この線の細さじゃ見えないな。

 つまり本当に戦えるのかこいつ、と疑問に思うのは仕方ない。だからこそ、彼女が勝利したときのインパクトは凄いものになるはずだ。

「あなたのことですから何か仕掛けているのでしょうけど、リファル王国の決闘者はそんな小細工など通じない本物の戦士です。まともな勝負になるといいのですがね」

 俺はエノエから少し離れた場所で目を瞑って精神を研ぎ澄ませている男を見た。あの研磨された様な威圧感。間違いなく彼がリファル王国の決闘者だろう。

 なるほどその自信も頷ける。何かで見たことがあるが、確かリファル王国内の四大ダンジョンの一つを攻略した冒険者パーティーの一員だ。俺がリファル王国の駐屯地を訪れてからエノエが契約魔術で書類を作るまでの間は一日しかなかったが、その一日の間に冒険者であるはずの彼を一時的に駐屯地所属の兵士にしたのだろう。

 てっきり軍属の精鋭を連れて来ると思っていたのだが、万が一負けた際にリファル王国軍の名誉が傷付くことを恐れたのだろうか?自信満々のくせにどこか言い訳をする余地を作るのがエノエらしいと言えばらしい。

 何にせよ、とんでもない荒業だ。これが大国の力か。

「リュッセリンナさん。どう?いけそう?」

「……はい。もうここに来てしまった以上、逃げるわけにはいきません。精一杯、抗って見せます!」

 いいぞ。暗示の効果は出ているようだ。俯きがちな顔がちゃんと前を向いているし、対戦相手を冷静に見つめて観察している。

 領地の存亡を背負ったことはないだろうけど、元々リュッセリンナさんは魔術学校で五十三回も模擬戦を行っているんだ。戦績は全敗だが、真面目な彼女はきっと自分が負けると思っていても全力で戦っていたはずだ。

 その経験は決して無駄じゃない。暗示の効果もあるが、予想以上に落ち着いているのは彼女自身が努力してきた成果でもある。

 

 決闘開始まであと一時間。俺はエノエとリファル王国の魔術師が魔術で即席の決闘場をつくる作業を眺めていた。事前に用意すると言ったのだが、俺が細工をすることを恐れたようで、結局当日リファル王国が用意することになったのだ。

 俺が細工をすると思っているってことは向こうにもその発想があるんだろうけど、そうできないように契約魔術で縛ってあるからその点は問題ないだろう。と言うか縛ってあるのにこちらで用意させない徹底ぶりは見習うべきかもしれない。

 それでも念のためにじっと眺めていると、背後から声を掛けられた。

「アラーマ代理領主。昨日ぶりになるな」

「!……ヘラマン大祭司。私の方からご挨拶させて頂くべきところ、大変申し訳ございません」

 声の方に振り向くと、青いローブに白いターバンを身に付けた老人がにこやかな顔で笑っていた。ラクレグム教国の大祭司、ヘマラン・ロンバードは常にこの薄い微笑みを顔に張り付けている。

 それにしても気配に全く気が付かなかったけど、いつの間にこの場所に来たのだろうか。

「なぁに、私などただ歳月と信心に少しの権威を着せただけのしがない老人だ。そのようなことを気にしないでくれ。ただ」

 老人の目がすっと細まるこの瞬間は、いつも体が凍り付くような錯覚を覚える。

「私からすれば、この土地には少し足りないものがあるな。老いた人間が人生の最後に、自分以外の何かに対し縋り祈れるような場所が」

「……そうかもしれませんね」

 ラクレグム教国の厄介さはリファル王国やバーチバール国とは違う。軍事的にこの土地を支配しようと言うのではなく、隙あらばラクレグム教を広めようとしてくるのだ。

 ぶっちゃけその庇護下に入った方がいいんじゃないか、と考えたこともある。教会から浄財を求められたり、政治的な決定に横やりを入れられたりはするだろうけど、リファル王国やバーチバール国からの圧力が弱まるだろうことを考えれば悪い手じゃない。

 だがこのヴェンデランドにはとある土着の宗教が深く根付いているのだ。そして村民も領主様も、その宗教に対して信仰が篤いのだ。

 俺は生まれがヴェンデランドじゃないし、あまり宗教に執着はないのだけどゼッツエル様が反対しているのならそれに従うまでだ。

「この話はこの場には相応しくないからここまでにしておこう。ただ近いうちに私の高弟がヴェンデランドを訪れることになるだろう。受け入れる準備をしていてほしい」

「はい」

「ふっ。若者は若者で不便だな。皺で表情を隠すことも出来んのだから。心配しなくても教会を建てるよう勧めたり、ラクレグム教の教えを説くためではない。友人からヴェンデランドでしばし静養したいと頼まれていてな。"演奏旅行家"と言えば心当たりがあるかな?」

「……!?そのご高名は私のようなものでも耳にしたことがございますが……ヴェンデランドでご静養なされたいと?」

 "演奏旅行家"と言えば、この大陸で五本の指に入る音楽家と誉れ高い人物だ。主にラクレグム教国で活動をしているが、リファル王国やバーチバール国、その他の国にも赴きそこで多数の人脈を築いていると言われている有名人だ。異名に演奏だけではなく旅行家と付いているのは、普通では有り得ないような早さで各国を訪問していくからで、彼は複数人存在しているなどと言う冗談はもはや鉄板だ。

 と同時に、ラクレグム教国の諜報員なのではないかと言う黒い噂もある。その"演奏旅行家"がヴェンデランドに?何故?

「まぁ、決闘の結果如何によっては予定を変更せざるを得ないかもしれんが、そうならないように私が祈っている。なぁに安心してほしい。私が祈ったことは必ず現実になるのだから」

 老人とは思えないような力強い手で肩をぽんぽんと叩かれ、俺は思わず震えてしまった。

 絶対に勝たないと……!いや頼むリュッセリンナさん、勝ってくれ!

 完全に他力本願で情けない、なんて今更思うわけがない。

 何を用いてもヴェンデランドを守る。

 俺に出来る覚悟はそれだけだ。



 何かが、どこかで、小さく少しずつ奇妙にずれている感覚と共に私は生きて来た。

 噛み合わない歯車。不協和音の合唱。関節の捻じれた人形。自分と言う存在がそう言った世界の中で特に歪つで醜いものだって自覚している私は、周囲の人間から不良品だと馬鹿にされても、人として下に見られてもそれが相応しい存在なんだって自分に言い聞かせてきた。

 このヴェンデランドと言う小さな領地の招きに応じたのも、もしかしたら魔術学校から逃げるためだったのかもしれない。実際ヴェンデランドへ向かう馬車の中でも、ここに着いてからも魔術学校にいた時ほど訓練をしていない。特にここ三日はアラーマさんに止められてたってこともあるけど、何より私自身が魔術師として生きていくことに少し疲れていたからだ。

 うん、本当に疲れた。誰も褒めてくれない。誰の役にも立てない。誰も評価してくれない。誰も興味を持ってくれない。誰も私の魔術を見てくれない。誰も……自分自身でさえも。

 だから……止めて欲しかった。ほんの小さな希望でも見せてほしくはなかった。

 私は馬鹿で愚かな人間だ。そんなものをぶら下げられたら、また縋りつきたくなってしまう。

 だから、何度も言わないでほしい。私の才能を信じているなんて言ってその眼で見ないで欲しい!

 また失敗したら、今度こそ私は立ち直れない。壊れたまま、くっつけて誤魔化すことも出来ない。

 だからお願い。私に希望を見せないで……!

 ――なーんて一人でうじうじ思っていた時が一番平和だったなんてその頃の自分に伝えたらどう思うんだろう。まさか負けたら自分が立ち直れないどころか職場(ヴェンデランド)まで失うことになるなんて。ふ、普通新入りにこんなことさせないよね?ついて一週間とちょっとで職場の未来を託されることなんてないよね?私の感性、おかしくないよね?

 本当に何なんだろう、アラーマさんは……性格が悪いって言ってすませられるような問題じゃないよ!悪魔だよ!

 正直、怒っていいよね?そんなことできるか!って拒否しても良いよね?と言うか拒否したよね!?

 でも、気が付くと私の目の前にはいつも戦うべき相手がいる。この決闘場だけじゃない、何度も自分には才能が無いと諦めたはずなのに、模擬戦でも今回もいつも自分より遥かに強そうな相手と向かい合っていた。

 何でなんだろう。自分自身(醜い私)なんてもうどうなってもいいから?アラーマさんに言われたから?領地の存亡を背負っているから?――ううん、違う。

 私が、勝ちたいからだ。

 模擬戦を五十三回もやってきて一度も勝てなかったけど、一度も勝負自体を諦めたことはない。五十三回、いつも勝つために真剣にやってきた。それは一度でも良いから、何度だって良いから勝ちたかったからだ。魔術師としてのリュッセリンナを誇りたいからだ!

 誰のためでもない。私が私を認めたいからだ!

 それに今の私には、こんな私を信じているって初めて言ってくれた人がいる。私の才能を見込んで、この場所に立たせてくれやがった人がいる。

 勝つと疑わずに、決闘場の近くで私を見てくれている人が居る。

 だから――今が一番勝ちたい!!私が勝っちゃいけないって、誰かが決めてるわけじゃないんだから!

 だから。だからただ全力を尽くすだけだ。

 アラーマさんから貰ったアドバイス通り、私に使える、私に唯一使える火属性の魔術をぶっ放すだけだ!



 始まりの合図は、ラクレグム教国の審判が生み出した炎が二人の決闘者の中間から完全に消えた時だった。

 そして誰もが思っただろう、何故その炎が再び灯ったのかと。

 違う。それは幻だ。あまりにも強い炎の魔術の気配が見せた幻影だ。

 そうだ、リュッセリンナさん。君の魔術の本当の姿はちっぽけな火球なんかじゃなく、人よりも大きな巨大な焔なんだ。

 俺とゼッツエル様がリュッセリンナさんにかけた二つ目の暗示は、火の魔術適正しか持っていない、と言うものだった。今の彼女はその暗示から解放され、どうして魔術の規模が劇的に変わったのか気が付いているだろう。

 そもそもリュッセリンナさんの魔術は自分で調整したもので、明らかな欠陥があった。簡単に言えば彼女は七つの属性の魔術を同時に唱えていたのだ。

 例えば彼女がダンジョンで見せたファイヤーボールは、同規模の魔術を同時に七属性で唱えて相克関係で打ち消し合ったあとの残滓なのだ。火属性(ファイヤーボール)を意識しているぶん、僅かに火の属性が他の属性より強めに出て残るのだろう。彼女が使う魔術が全て同じ仕組みをしていることは、この眼で確認済みだ。

 それはリュッセリンナさんの癖だ。七属性全部使えると分かっているから自然と起こしてしまう悪癖だ。試しに自分が火の魔術しか使えないと信じ込ませたあとでほんの小さな炎の灯りを生み出して貰ったのだが、その悪癖を起こらなかった。



 決闘場に生まれた巨大な火球に、誰もが目を奪われる。しかし、敵も流石は一流の冒険者だ。自身の勝機が前方にしかないことにすぐさま気が付いて力強く地を蹴り剣を振り上げた。

 放たれた火球と鋭い剣がぶつかり合い、両断された炎が熱風を伴って激しく左右に広がる。魔術を切れるってことは腕も確かだが中々の名剣だ。それに敵には油断がない。なんとか必殺の火球を凌いだリファル王国の決闘者の顔に生まれた安堵は一瞬のもので、視界を奪う残り火の先にあるはずの好機を逃すまいと表情を引き締める。

 だが。だがその希望は、リュッセリンナさんの周囲に生み出された無数の火球を炎の開けた先に見たことで完全に潰えてしまった。

 無詠唱で際限なく魔術陣から放たれる火球に容赦はない。地に当たっては炸裂して炎の渦が巻きあがり、掠めただけで体から水分を奪い去っていく。直撃すれば……どうなるかなんて考えたくもない。

 リュッセリンナさんは何十人もの魔術師が協力してやっと可能な魔術の絨毛爆撃を一人で実現し、手も足も出ない状況を作り上げて勝負を完全に支配していた。

 もう相手は一歩もリュッセリンナさんに近づけない。その場に留まって火球を何とかいなすことに全身全霊を賭すしかない。唯一の勝ち筋である魔力切れを狙うしかない。

 だけどリュッセリンナさんはその様子を一切見せない。そりゃそうだ。七つの魔術を同時に唱える、なんてことを訓練で毎日六時間も続けられる彼女がこの程度で魔力切れになるわけがない。休養だって十分だ。

 それにしても――あぁ、本当にいい表情だ。

 ごめん、リュッセリンナさん。君の力を事前に察知されないようにこのタイミングまで覚醒を引っ張ったのは、半分は勝利を確実にするためだけど、もう半分は俺自身のためなんだ。怪物が己の力を自覚して目の前の敵がただの獲物なのだと理解したとき一瞬冷酷に細まる瞳と、強者だと思っていた人間が目の前の怪物を見て慄く様を確実に見たかったがためなんだ。

 眼帯を外して、両目でリュッセリンナさんとその相手を見つめる。天才を超えた怪物の悦びに満ちた表情と敵の絶望は、どれだけ痛くても両目にしかと刻みつけるもんだ。それが怪物とその相手に対する礼節だ。例えこの眼が潰れても良いから、もっともっとその自分の可能性に悦ぶ美しくもおぞましい顔を焼きつけていたい!

 いつまでも!

 だが――十数人の魔術師が一時間かけて築き上げた強固な魔力の防壁が、ついにリュッセリンナさんの魔術に耐えきれなくなりひび割れ始める。それだけに留まらず怪物は右手を突き上げると、頭上に膨大なエネルギーを持つ星の如く白く輝く巨大な火球を練り上げ始めた。あれが放たれれば、防壁ごとこの周辺の人間を溶かしてしまうだろう。

 それを見て、敵の決闘者がついに音を上げ降参した。あれ狂う炎の中でここまで粘れる彼も十分凄かったが、それはまだ人の範疇だ。リュッセリンナさんが余力も成長の余地も残していることは誰の目にも明らかだろう。

「化け物……っ!彼女は……あ、あれは一体なんなんですか!?!?」

 エノエが瞬き一つしないまま、リュッセリンナさんを見つめて呆然と呟いた。その眼差しが怪物から離れることはもうないだろう。嫌でもこれから直視しないといけないのだから。

 ああ、なんてズルい。それはだけは少しだけ羨ましく思ってしまう。

 さて、しん、と静まり返った辺りを決闘場から降りたリュッセリンナさんの足音が切り裂いていく。誰も彼女に近寄れず、むしろ自然と遠ざかっていくのは生物としてはごく自然な反応だろう。

 最初からその正体を知る者以外は、そうなるだろう。

「ほらほら、俺の言ったとおりだったでしょ?」

 俺が両の人差し指を交互に前に出して見せると、リュッセリンナさんは頬を軽くひくつかせた後に言ってきた。

「うぅ、なんかむかつく……あと、右目が凄く真っ赤で怖いんですけど。眼帯を付けて下さいよ」

おや?ちょっと高揚している感じはあるけど意外と。

「……意外と冷静だ。もっと大喜びするかと思っていたのに」

「私もです。私ももっと自分が喜ぶかと思っていました。確かに戦っている時は楽しかったですけど、何だか今は不思議と冷静でいられます」

 まだ力を自覚して一回しか戦っていないし、実感が湧いていないのかもしれない。だけど丁度いい相手がいる。それも三人もいるなんて最高じゃないか!

 そう思いながらヴァラグさんを見ると、彼はすでに勝敗を悟り切ったように重い溜息をついているところだった。

 「リュッセリンナさん。次の相手は三人だけど、君なら勝てると確信してる。もう一度その才能の輝きをこの眼に見せてくれ」

 「はい、頑張ります!アラーマさんは私をその眼で見ていてください!」

 一瞬、一瞬だけリュッセリンナさんの笑みが怪しく歪んだような気がしたけど……多分俺の気のせいだろう。

 俺にとっても予想外だったのだが、リュッセリンナさんはバーチバール国との決闘の時間までに火属性魔術だけでなくその他の属性の魔術も完全に修正し終えていた。一度自分の中で何かが噛み合う感覚を完全に掴んだ怪物は、普通の魔術師が何カ月、下手すれば一生かかる修正作業を一瞬でやり終えてしまう。

 まったく、理不尽なもんだ。

 バーチバール国の憐れな三人の犠牲者が空まで聳え立つ土の大壁によって決闘場の端まで追い詰められている姿を見て、俺は苦笑した。



 さて、これから俺には命をかけてでもやるべきことがある。

 それは自分より年下の少女にみっともなく縋りついて土下座することだ。お願いですからヴェンデランドに居て下さいよぉ~と泣きつくことだ。もう何度逸材の才能を花開かせた後にここから出て行かれたことか……逃さん……リュッセリンナさんだけは……。

 俺は揉み手をしながら、決闘を終えてぼんやりと何かを考えるように佇んでいた新入り魔術師に近づいた。

「あー、リュッセリンナさん。体調はどうかな?どこか痛いところはない?何かお飲み物をお持ちしましょうか?」

「何でいきなりへりくだっているんですか……?」

 また何か良からぬことを考えているのか、ってリュッセリンナさんの表情が物語っている。まぁそんな印象だよね俺って。

 勿論考えているよ。何があっても君を逃がさん、って企んでるよ。

「アラーマはリュッセリンナが敵に寝返らないか、名声を求めにヴェンデランドから出ていかないか心配している」

「ノナァ!!」

 音もなく現れたノナに企みの全てをばらされて、俺は咄嗟にその名を叫んでしまった。それはもう、その言葉が真実だと認めたようなもんだ。

 最初はぽかんとしていたリュッセリンナだったが、徐々にその表情が悪い笑顔になっていく。悪い、って言ってるけど正直ぎこちない。俺と違って悪い表情を作ることに全然慣れてない感じだ。

 それでもその端整な顔で精一杯悪ぶって。

「なるほどなるほど。それではアラーマさん、私の前でははぁ!と跪いてくだ」

「え、そんなことでいいの?ははぁ!リュッセリンナ様。どうかこの卑小で軽い私の下げた頭に少しでも心を動かされたなら、ヴェンデランドにずっといて下さい!」

「わ、分かりましたからやめて下さい!まさか本当にやるなんて……」

 ……意外なほどちょろいな。

 俺のことを嫌っているだろうから、もっと何かえげつない要求をされるかと思ったのだけど。リュッセリンナさんが欲のない、あるいはまだその力に見あった欲を知らない人間で良かった。


 こうして領土権を賭けた決闘は、とりあえずは目論見通りの結末を無事に迎えたのだった。

基本的にマイペースな投稿になってしまいますが、評価を頂ければ幸いです。

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