第二話「ヴェールの向こう側」
研究室に戻った俺たちは、さっそく廃病院での出来事を上層部に報告した。
俺たちが所属するのは内閣府直属の機関《異常存在監視局(BAES)》。
報告を受けた片桐局長は、腕を組みながら渋い顔をした。
「お前たちが遭遇したのは、ただの幽霊ではない。奴は《Prodigy》と呼ばれる存在だ」
「《Prodigy》?」助手が不思議そうに繰り返す。
「世界中の諜報機関が何年も前から追い続けている、謎の異常存在だ。
彼らは通常の人間とは異なる感覚や能力を持ち、時には物理法則を超越する。
だが、その全容はいまだ不明で、科学的にも証明できていない」
「じゃあ……俺たちが出会った“幽霊”は、本当に幽霊じゃなかった?」
「可能性は高い」片桐は深く頷いた。「実際、彼の姿は通常の可視光では見えなかった。お前たちがフラッシュを焚いたときのみ、可視化された。これが意味することは何かわかるか?」
助手が考え込む。「……特定の波長の光でのみ視認できる、ということ?」
片桐は静かに言葉を継ぐ。「米国国防総省の機関で、先端軍事技術の研究と開発を行う『国防高等研究計画局ーー通称DARPA』の最新技術に、『量子光学迷彩』というものがある。これは、特定の電磁波環境下で物理的な姿を消す技術だ。もし彼がその技術を利用していたのなら……奴は、人工的に“不可視”になっていた可能性がある」
俺は眉をひそめた。「でも、それならどうして幽霊みたいに現れたり消えたりしたんだ? 彼が意図的にそうしていたってことか?」
「そういうことだ」片桐が頷く。「むしろ、お前たちに見せたかったんだろう。彼は自らの存在を、お前たちに知らしめようとした」
「……幽霊がメッセージを伝えようとしている?」
「いや、奴は幽霊じゃない。だが、何かを伝えたかったのは確かだ」
その時、研究室のドアが勢いよく開いた。黒いスーツの男が二人、冷たい目で俺たちを見下ろす。
「失礼、君たちの協力が必要だ」
男は、名刺を差し出した。そこには《CIA-PX特別調査部》の文字があった。
「あの廃病院で姿を見たそうだな。奴らの正体を突き止めるには、国際協力が不可欠だ」
俺たちは顔を見合わせた。世界規模の事件が、俺たちを巻き込み始めていた。