嬉しくないお風呂シーン(エゼルから見ての感想)
家の近くまで戻ってきた。
このまま警察──この世界では警察はいないので憲兵の詰め所だな、そこに行って事情を話せばこの娘達は親元に帰れるだろう。
ただ、獣人の国は遠い。
それなのにぼろい麻袋をかぶせただけの服に、汚れた体はかわいそうだ。
なのでまずはオレの家に連れて帰って風呂に入れてあげて、綺麗な服も着せてあげよう。
一緒に入りたいとか裸を覗き見たいと言う考えはない。
2人は確かに美少女と言っていいほど可愛い。
しかし、まだまだ子供だ。子供はオレの好みじゃない。
オレが考えているのは、これだけ可愛ければ美人のお姉さんや親類の子がいるのではないかと思った。
それを紹介してもらうためには好感度を稼がなくてはいけない。
覗きや不用意なボディタッチで不審に思われてはいけないのだ。
幼馴染ミリーをオレの花嫁にする計画は失敗に終わった。
あれで分かったが、女の子ををゲットするのに長い年月をかけても何の意味がないと気付いた。
だから、電光石火の作戦。すなわちチャンスがありそうなら全力で行き、少しでも駄目だと感じたなら次にいく。
多方面に唾を付けていく、それがこれからのオレのスタイルだ。
意識を失っていた黒髪の子が起きたので2人に説明してから、家に迎え入れた。
「でもいいんですか?ご迷惑になるのでは・・・。」
黒髪の子は申し訳なさそうに言う。
「でもマナちゃん、ワタシ達他に行く場所ないよ。このお兄ちゃんにお願いしよ?」
それを金髪の子が諭した。
こちらとしては出来るだけ恩を売って、出来るだけナイスバディなお姉さんを紹介して欲しい。
一人につき一人ずつ紹介してくれるなら、どれだけ迷惑かけられても文句は言わないぞ!
「親元から離されて大変だったな。大丈夫だ、ちゃんと役人さんに届けて家族のもとに返してあげるからな。」
だからこの恩を忘れるんじゃないぞ。
「いえ、あの・・・私たち実は・・・。」
黒髪の子がなにやら言いにくそうだ。
「家族が全員死んで、それでさらわれて売られたの。
だから役人さんや兵隊さんに引き渡されても行く所がないの・・・。」
金髪の子が淡々と言う。
その言葉で、黒髪の子が泣き出してしまった。
それにつられて金髪の子も泣き出した。
この空気、苦手だな。
「と、とりあえずお風呂に入ろう。体が温まれば、ほっとするぞ。」
どうあやしていいか分からず、風呂場まで連れて行った。
しかし、そこで
「お兄ちゃんも一緒に入って。」
金髪の子にそう頼まれた。
これがあと5年後10年後なら喜んで、と言うのだがなぁ・・・。
美少女なら体の隅々まで洗ったんだが・・・うーんめんどくさい。
「自分で体洗った事ないから・・・お願い。」
ずいぶん過保護に育てられたみたいだな。
もう美人のお姉さんを紹介してもらえる可能性は無くなったからな・・・そこまでこの子達に入れ込む理由もないんよな・・・。
ただ、助けると言ってしまった。力になるとも言った。
ここで見捨てられる程、鋼の心臓をオレは持っていない。
こうなったら妹が2人出来たと思って最期まで面倒見よう・・・。
とりあえず風呂の入り方を教えてやらないといけないか・・・。
しょうがない、洗ってやるか・・・。
覚悟を決めたが、黒髪の子がなにやら恥ずかしそうだ。
「わ、私は別にいいので・・・。」
「えーでもマナちゃんだって一人では入れないよね?」
「そ、そんなことないよ。ミーちゃんのことだって私が洗ってあげるよ。」
2人で入ってくれるなら手間が掛からずありがたいが、金髪の方がオレの服をつまんでいる。
脱衣場から逃げることは出来そうにない。
「分かった。マナちゃん恥ずかしいんだ。」
「うー・・・そうだよ、恥ずかしいよ。男の人と一緒にお風呂なんて無理だよ。」
そう言って黒髪の子がオレから隠れるように金髪の子の後ろに回った。
おいおい、せめて5年は経ってもらわないとそんな目で見てやれないよ。
「なら、タオルをつけたままで入っていいよ。」
大き目のタオルを渡し、後ろを向いた。
「うー・・・でも・・・うー・・・」
うーうー唸っていたが、いつしか聞こえなくなり衣擦れの音がした。
「いいですよ。」
振り返ると、タオルを巻いた黒髪の子と全裸の金髪の子がいた。
「君はタオル使わないのか?」
「ワタシはミルシャ。ミーちゃんってよんで。猫の獣人なの。」
「うん。オレはエゼル。タオルは・・・」
タオルを目の前に出すが、取ろうとしない。
「こっちはアマナちゃん。マナちゃんだよ。犬の獣人さんだよ。」
「おう、よろしくな。じゃなくてタオルを・・・」
「じゃあお風呂入ろうねっ!」
このミルシャという子は人の話を聞かないみたいだ。
手を引っ張られ、風呂場に入る。その後ろをアマナがついてくる。
「大人だったら3人で入るには狭くて無理だけど・・・小さいから大丈夫か。」
オレは蛇口をひねった。するとお湯が出てくる。
前世では当たり前の物がこの世界にもある。それが少し嬉しい。
生まれ変わった時に木造の家を見て前世と同じ生活を諦めたが、実際にはほとんど変わらなかった。
ただこれは科学ではなく魔法。
技術ではあるが元の世界とはちょっと違う物だ。
排水溝はあるが、お湯は水道管につながっていない。水道管自体がないのだ。
お湯は魔道具と呼ばれる物から出てくる。
魔力をこめるだけでいろいろなことが出来る石、それが魔石だ。
それを使いやすく加工したものを、魔道具と言う。
魔石だけで使おうとすると、魔力の操作に長けた者でなければ暴発したり魔力だけ吸われて発動しなかったりするらしい。
蛇口型の魔道具を使って風呂にも湯をためる。
魔法で出しているので、ほんの30秒ほどで浴槽にお湯がたまる。
「うわぁすごい!」
ミルシャがお湯に手をつけて、ばしゃばしゃとお湯をかき回す。
この子は本当に自由だな。何事にも物怖じしない。
逆にアマナという子は縮こまって、タオルをぎゅっとつかんでいる。
極端な二人だ。
「こっちで洗ってやるよ。」
椅子を指差し、即座にミルシャが座る。
シャワーからお湯を出して、頭からかけてやった。
猫って水をかけられたり熱いのは苦手じゃなかったか?
まあ、猫部分が耳と尻尾だけだから関係ないのか。
シャンプーを手で泡立ててから髪を洗ってやる。
しかし、頭頂部に耳がついているので少し難しい。
耳の中にシャンプーが入ってしまう。入っても・・・大丈夫なのか?
「うにゃー目に入ってきて痛いよー。」
耳に入ってもいいようだが、目には効くようだ。
「あいにくシャンプーハットはないぞ。男2人だけの家だからな。」
しょうがないから片手で目元をぬぐってやる。
本当に手のかかる娘だ。どれだけ甘やかして親は育てたんだ?
何とか頭を洗って、次はボディータオルで体をこする。
尻尾以外に変わった部分がないのでこちらは楽だった。
いや、楽なはずだった。
「うにゃっ!?うにゃにゃにゃにゃ!!?」
尻尾を洗いはじめると、途端に声を上げて、体をくねらせる。
「くすぐったいならやめるか?」
しかし、首を横に振る。
優しくゆっくり拭いても、
「うにゃーん・・・・にゃにゃーん・・・。」
体をびくびくして身悶えている。
ならば、ささっと素早く拭くと、
「ふぅっふぅっふぅっふぅっ!」
体を硬くさせる。
・・・ある程度拭いたのだしもういいだろう。
そう思ってシャワーに手をかけると、
「まだだよ・・・尻尾は丁寧に、愛情をこめて、ネ。」
まだ満足してないようだ。
だが、知るか。終了だ終了!
シャワーからお湯を出し、ざばーっと泡を流す。
「よーし、終わり。次は・・・アマナちゃんだっけ、ここに座ってくれ。」
と言うが、ミルシャが椅子からどこうとしない。
「おいおい、どうした?」
「はぁはぁはぁ・・・ねえ、ここを洗い忘れてるよ。」
ミルシャはそういって尻を突き出し、手で尻尾を持ち上げた。
猫は尻尾の辺りが敏感で尻辺りをトントン叩くと喜ぶのだとか。
「おりゃー!」
オレは声を上げて、冷水シャワーをミルシャにかけてやった。
「きゃー冷たい冷たい!」
ふんっ!もう少し大人になってから出直すんだな。
いくら突き出されてもガキのケツに興味はないぜ。
「うーぐるるるるるるっ!」
やばい・・・水をかけられた猫娘が激怒したようだ。
オレはさっさと浴室から去ることにした。
「すまん、服が濡れたんで着替えないと。続きは自分でやってくれ。」
あとはダッシュで逃げた。返事など聞かない。