出会いは突然にやって来る
2年後
ブエナス村から、バルクレイオス領の都市エントリオに移り住んでから2年が経った。
村から出る時は生まれ育った場所から出て行くなんてイヤな気持ちで一杯だったが、結果的には良かった。
何せ住んでいたあの村と違って、自分と同い年くらいの女の子がそこかしこにいる。
その中に、オレと同じ学園に通う娘もいるだろう。
学園・・・父はオレを通わさせたがっている。
国に仕える武官もしくは文官を育てる為の教育機関、つまり士官学校のようなものだ。
貴族や有力者が集まる学校で、平民で入れるのは一芸を持った秀でた人間のみ。
オレは平民なんだが、父が一代限りの貴族なので入れてもらえるのだ。
入学式がまだ先なので、普段は父を相手に剣の練習だ。
朝から晩まで、ほぼ休みなし。
稽古が無い稀な休日は、街を散策している。
たまの休みで羽を伸ばさないとやってられない。
ここまで稽古を付けるのは学園に入る為にやってるのではなく、家族が自分だけになってしまった父がかなり過保護になっているからだ。
もう12歳になるというのに、一緒に出かけようとしたり、街中なのに剣を持って行けと言ったり・・・色々と口喧しいのだ。
ここに越してきてもう大分経つが、街中で剣を使うような荒事に出くわした事は一度もない。
なので武器なんてダサい物は持って行かない。
女の子と仲良くなるために街に出るのにはオシャレじゃなくちゃいけないからな。
可愛い女の子を探して街を散策していたんだが、気付いたら見たことのない場所に来ていた。
「ここはどこなんでしょうね?」
迷った。
2年も住んでいるんだしこの街はオレの庭だ、と思っていたのだがここがどこか分からない。
いや、慌てる事はない。
少し見たことのない所に来ただけ、少し人気が少ないだけだ。
この街は周りを壁で囲っている。つまり壁越しに行けばいつか門まで行ける。そこで憲兵に道を聞けばいい話だ。
焦ることはない。こんな休日があってもいいだろう。
ただ気になるのは臭いだ。
なんだろう少し、いやかなり臭う場所だ。
それに自分が住んでいるところより、道や家の壁がみすぼらしく汚い。
鼻をつまみながら進むと、前から誰か来た。
女の子が2人走ってくる。
麻袋を体から被ったような汚い布を着て、靴は履いておらず裸足だ。
物乞いかと思ったが違う。
顔や手はきれいで、着ている物との違和感を覚える。
オレの体にしがみついてきて、こう言ってきた。
「うにゃにゃにゃっうみゃーみゃお!」
猫だ。猫のように鳴く女の子だ。だけど猫じゃない。
駆け寄って来た小さな女の子は頭頂部にふわふわのけもの耳が生えていて、ついでにふさふさな尻尾が生えているがそれ以外はオレと同じ人間と同じだ。
話には聞いたことがある。この娘達は獣人だ。
一人は金髪でショートヘア。茶と金の色をした縞々尻尾のネコの女の子。
もう一人は黒いロングストレートで髪と同じ色の黒い垂れ耳の犬の女の子。
ふわふわそうな尻尾は激しく揺れている。
何やら困り顔で焦っている様だが、何とか耳や尻尾を触らせてもらえないだろうか?
「お願い助けて、助けてください!」
「どうした?何か困りごとか?」
オレは多少臭う二人に優しく接することにした。
耳と尻尾をモフるために。
「!言葉が分かるんですね。お願いです、人攫いがワタシ達を追って来ているんです。助けてください。」
「なんだってぇっ!!!!!!!!」
なんてことだ・・・これは絶対に許す事は出来ないっ!
何故なら、この国では人身売買は禁止されている。
奴隷制度はあるがあくまで就業形態に過ぎない。
双方の同意がなければ契約出来ない。
契約のない奴隷は違法で破ったらきつい罰則を喰らう事になる。
何故こんなに詳しいかと言うと、徹底的に調べたからだ。
許されるなら、かわいくて、美少女の、奴隷を、買おうとしたからだ!
だというのに・・・オレは我慢したのに・・・この子達を狙っているという悪党は、絶対に許せん!
「分かった、絶対に助ける。全力で力になるよ。」
そう言うと2人は安心したようだ。緊張して怖がっていた顔に笑顔が出た。
そこに、
「おいっ、どこ行こうってんだぁ?!」
刃物を持った小汚い男が走ってきた。
奴隷商人か・・・成敗してくれる。
オレは腰の剣に手をかけた。
しかし、ない。腰に剣はない、ないのだ。
街中を歩くのにはダサいと置いてきたのはオレだ。
「あれ、やばい・・・。」
かっこよく決めたが、武器がないのに刃物を持った相手と戦うのはちょっと無理かな・・・。
オレの後ろに回った2人も笑顔が消え、少し困惑している。
となれば、方針転換だ。
「おい、小僧さっさとどっかへ行け!痛い目みてぇのか?」
汚らしいおっさんが、威圧して走ってくる。
だからオレは言う通りにどっかへ行くことにした。。
ただし2人の少女を脇に抱えてだ、おっさんが来た方向とは逆にな。
「あーどっか行ってやるよ、じゃあな悪党のおっさん。」
「ごらぁっ、待てやガキッ!」
追っては来ているが悪党は足が遅いようで問題ない。
こちとら父にしごかれて、逃げ足には自信がある。
さらに、
「身体強化魔法発動!」
魔法でさらに速く走れる。
そうだ、この世界には魔法がある。
空気中に魔力があり、それを体内の魔石に溜め込み集中すれば魔法が使える。
と言っても、オレが使えるのは身体強化の魔法だけだが、それでも充分な性能だ。
後ろを見るとおっさんが豆粒みたいにしか見えなくなっていた。
このくらい引き離せれば安全だと思うが、用心に越した事はないだろう。
オレは飛んで家の屋根に飛び乗り、屋根から屋根へ飛んでいく。
「わははははは。」
脇に抱えた金髪猫娘が笑う。
「たのしいー。」
金髪の娘はご満悦だ。
上から飛んで見たら自分の現在地が分かった。
これなら自宅に帰るのは何の問題もない。
ただ、黒髪の犬娘が静かなのが気になった。
「どうしたんだ?」
見ると黒髪の犬娘は白目をむいて気絶していた。