生まれ変わったチャンスを二度と無駄にはしない!
「このまま死んでたまるか・・・まだ彼女も出来てないし、キスもなんだぞ・・・」
俺は死に掛けていた。
だが死ぬ気なんてさらさらない。だってまだ素敵な青春をしてないのだから。
「俺はっ!!死なないっ!!」
俺は死んだ。
駄目だった。やる気を出して気合を入れたが、何の意味もなかった。
もう何も見えないし、何も聞こえない。これが死後の世界か・・・。
いや・・・違うな・・・何か暖かいものを感じる。
これは・・・温水のウォータースライダーだ。
俺の体は出口まで一気に流された。
「おぎゃあぁおぎゃあぁおぎゃあぁおぎゃあぁ!」
赤ん坊の泣き声が聞こえる。出口を抜けて目も見えてきた。
「ba─── w─── bo───。」
声がした。大人の女性の声だ。
でも外国語だろうか?何を喋っているか分からない。
ここは病院なのか?命ぎりぎりで助かったのか?
よく目を凝らして周りを見回すと、そうではない事に気付いた。
木造の部屋にベッド。そこに女性が寝ていて、オレはその女性に抱き上げられている。
赤ん坊の声は俺だった。
俺は死んで記憶を持ったまま、オレの新しい人生が始まったのだ。
「L──d──H───s─c───l──b───。」
産婆らしき婆さんが扉を開け、外に声をかけた。
すると笑顔の若い男が出てきた。
金髪で金色の瞳、顎には少しヒゲがあり、少し長い髪を後ろで束ねている。
「生まれたのか・・・よく頑張ったね、ありがとう。」
多分、オレの父だ。
・・・?さっきまで分からなかった言葉が、いきなり理解できるようになった。
どういうことだ?・・・まあ考えても分からない事は置いておこう。
「ええ、あなたの子よ。抱いてあげて。」
そう言ってオレを抱いていた女性は、オレを父に渡す。父に話しかけているから、この人が母なんだろうな。
その時にやっと母の姿が見えた。
赤茶色の髪が背中まであるロングヘアーの女性。
二人ともまだ若い。だが、メイドまでいるのならお金持ちの家なのだろうか?
死んだときは、絶望で心がいっぱいだったがこれはチャンスだ。
金があり、両親の顔も美形。
自分が死んでからどのくらい経っているか分からないが、今回の人生はイージーモードだと笑いが出てくる。
「あら笑ったわ、この子。」
「笑顔は君に似てるかな。ははは。」
「ねえ、名前なのだけれど、エゼルってどうかしら?」
「エゼル・・・いい名前だけど、どうして?」
「笑顔が良かったから、そう呼びたくなったの。駄目かしら?」
「・・・いいや、今日から君はエゼルだ。」
父がオレを高く抱き上げ、オレはエゼルとなった。
オレは赤ん坊になったんだが、食事はもちろん母乳となる。
気恥ずかしい気持ちがあるが、まあ喋れないし、何も口にしないと死んでしまうのだから致し方ない。
そう緊急避難というわけだ。
ぐへへ、父よ息子に妻を取られるとはどんな気分だ?
まさか息子の人生が二度目などとは思わんだろうな。
おっと、そろそろ腹が減って来たぞ。
「うあぁ・・・ふぎゃああぁぁぁっ!」
「あらあら、おっぱいが欲しいのかしら?まっててね。」
「じゃあボクは食事の準備をしてくるよ。一緒に食べよう。」
父が部屋を出て、母が服をはだける。
しかし、
「・・・!だれっ!?」
窓から男が部屋に入ってきた。汚らしい格好で手には刃物を持っている。
「大人しくしろ。」
刃物を向けてきたおっさんが仲間と共にぞろぞろと部屋になだれ込んできて、ベッドのオレ達を囲い込んだ。
ヤバイ・・・待ってくれ。生まれて一日でまた死ぬなんていやだ。
どうにか・・・出来ればオレだけでも助かりたい。
「貴様ら、盗賊かっ!?」
声と共に不審者の一人が、血しぶきを飛び散らせて倒れた。
その後ろから、武器を持った父が現れた。声の主は父だった。
男達が武器を構えたが、次の瞬間には男達の腕や首がずれて倒れた。
いつの間にか父に斬られて、盗賊たちは死体に変わっていた。
「大丈夫かい?」
「ええ、私達は大丈夫。」
「良かった・・・。」
本当に良かったよ・・・と言うか父めちゃくちゃ強いんだな。剣筋が全然見えない高速の斬撃だ。
「ぐうぅぅ・・・くそっ・・・。」
「人の家に武器を持って踏み込んだのだ、極刑は免れないぞ。何のために人の家に押し入った・・・言え!」
一人だけ生かされた男は父に詰め寄られた。
悪人とはいえ腕から出ている血が痛々しく見てられない。
「へへへ・・・あんたが終わらせちまった戦争のせいで食っていけない奴らが、あんたへの報復に来たんだよ。
負けるのは分かっているが、少しくらいはやり返すために結構集まったぜ。」
「何だと!?」
ふーむ、父はとんでもなく強く、そしてちょっと前まで戦争があったと。
あと、家に武器があるし、賊なら殺してもOKな世界か・・・・。
オレはとんでもない所に生まれ変わったかもしれないぞ。
「この村はどうなるかなぁ・・・くっくっくっ。」
「くそっ・・・すまない、ボクは村の様子を見てくる。君は・・・。」
「大丈夫よ。私だってやれるわ。」
母も杖を持ち、オレを大き目のバスケットに入れクローゼットを開いた。
「少しだけ静かにしててね。」
母にクローゼットの中へと隠されたオレにやれることはない。
両親が頑張って勝つ事を祈りながら、寝た。
赤ん坊だからね、仕方ないね。
結果からいって村に被害は出なかった。
何十人もいた賊は父と村の人間で全て倒された。
だが、オレの目の前にいる男は死んだ目でオレを見ていた。
「・・・・・・。」
何も話さずにただオレを見ているのは父だ。
その横には、母の遺体がある。
今回の件でただ一人の被害者、オレが寝ている間に家へ賊が押し寄せて死んだ。
「マルロス様、赤ちゃんが起きたようだよ・・・。」
「・・・・・・そう。」
おい、腹が減ったぞ父よ。
妻が死んで悲しむのも分かるが、こっちは赤ん坊だぞ。
あと、その顔でずっと生きていくのか?やめてくれ、そんな顔の人間とは暮らしたくないぞ。
「ふぎゃあふぎゃあふぎゃあ。」
「多分ご飯だな・・・マルロス様?」
「ん?・・・・・・ああ、そうかボクが用意しないといけないのか。」
おいおい、しっかりしてくれ父よ。
食事は何とかなった。ヤギの乳だった・・・。
腹がいっぱいになって、また寝た。