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94.闇の祭壇

「ふぅ……今回の勝負、俺の勝ちだな」目の前の敵が青い欠片となって消えていくのを確認すると、俺は息を吐き出し、戦闘態勢を解いた。


「ば、馬鹿な……まさか、貴様ら、ジラールを……!」


男は、自分の体に力が失われていくのを感じながら、驚愕の表情を浮かべている。


「驚くなよ。俺の仲間は強いんだ。舐めるなよ?」


俺は異次元ポケットから飴玉を取り出し、口に放り込みながら、言葉を続ける。


「ところで、お前の力、ただの闇の力とは違うよな? 俺と同じ、闇の神からもらった力だろう?」


「それがどうした」


「いや、だから聞いているんだ。どうやって、遠隔で加護を授かったのか教えてくれよ。結構、便利そうだからさ」


「貴様に教えると思うか?」


「思わないけどさ。どうせ、お前はもう長くは生きられないだろう? 同じ穴のムジナとして、教えてくれてもいいんじゃないか?」


「断る!」


男は、頑なに口を割ろうとしない。俺は、なんとかして、奴から遠隔加護の方法を聞き出そうと考えていた。そうすれば、俺がいなくても、仲間の安全を守ることができる。確かに、彼女たちは俺よりも強い。だが、油断すれば、オシアーナでさえ、危険な目に遭う可能性はゼロではない。


それに、今のところ、俺たちの仲間には回復魔法を使える者はいない。ここは地上だ。もし、彼女たちが怪我を負えば、面倒なことになるのは目に見えている。


だから、俺は、どうにかして彼女たちの身を守る方法をずっと考えていた。だが、今のところ、これといった解決策は見つかっていない……。


しかし、今日、俺は、驚くべきものを見た。それは、あの男が見せた、霊子崩壊を防ぐほどの防御力と、俺と同じ闇の力だ。まさに、俺が探し求めていたものだった。


だが、よりによって、敵が使っているとは……。


「……わかった。教えてくれなくても構わない。おおよその見当はついた。後は、自分で何とかする」

俺は、口の中の飴を噛み砕き、甘さを口いっぱいに広げる。


男は、もはや立つことすらできない。体は半分以上が消滅し、この世に存在しているのが不思議なほどだ。俺は、教会でもらった聖剣を抜き放つと、容赦なく男の心臓に突き刺した。


「さよなら」


「ら、ライト様ぁぁぁ!! どこに行ってたんですかぁぁぁ!! 心配しましたぁぁぁ!!!」


「ああ……ちょっと、遠くまでね……」


俺は、オシアーナたちと合流した。彼女たちの様子は、思ったよりも元気そうだ。ただ、周囲の気温が異様に低いのが気になる。


「怪我は? 大丈夫?」


オシアーナは、心配そうに俺を見つめる。【精神感応】で、俺の現状を把握しているのだろう。指が二本、失われていることも、知っているはずだ。


「ああ、問題ない。地上に戻ったら、なんとかなるさ。それに、利き手じゃないから、今後の戦闘にも影響はない」


俺は、包帯でグルグル巻きにされた手を見ながら、メイドロボが、指を再生させる技術を持っていることを祈った。


「で、今はどんな状況だ? 敵は、あと何体いる?」


「最初は五体いたんだけど……今は、残り二体。どちらも、一番奥にいて、何かをしているみたい」

オシアーナが答える。


「え、あの……オシアーナ様? なぜ、そんなことが……? 私たち、何も聞いてないのですが……」

聖女は、オシアーナの言葉に、目を丸くしている。


「この街のことは、全て、彼女の掌の上さ」


俺は、少し得意げに言いながら、オシアーナの帽子を直し てやった。


オシアーナは、代々伝わる魔法を使える。それは、街全体を“眼”で覆い、あらゆる情報を把握する魔法だ。


「残り二体か……ライト様は、何体相手にしたのですか?」


「俺は一体だけだ。お前たちは?」


「わ、私たちも一体だけですが……。では、もう一体は……?」


「あなたの仲間よ」


オシアーナは、そう言うと、周囲を見回し、言葉を続ける。


「彼らは重傷を負っているわ。今は、地上で治療を受けている。命に別状はないみたい」


「そうか……よくやってくれたな。だが、まだ油断はできないぞ。気を引き締めていくんだ」


俺は、聖女に笑いかける。


「は、はい!」


彼女は、まさか自分たちが連れてきた兵士たちが吸血鬼を一体倒せるとは思っていなかったのだろう。まだ、驚きから立ち直れていないようだ。


「おい、しっかりしろ。これからが本番だ」


俺は、聖女の頭を軽く叩き、現実に引き戻す。これから先が、最も危険な場所なのだ。ここで気を抜いているわけにはいかない。


「は、はい! わかりました! では、私たちは、どこに進めば……?」


聖女は、気を取り直して、前方の道を指差す。


「いや、俺たちが行く必要はない」


「え?」


「向こうから、やってくる」


俺がそう言った瞬間、周囲の景色が、ガラリと変わった。


薄暗かった下水道は、まばゆい光に包まれ、狭かった通路は、広々とした広場へと変貌した。周囲には、色とりどりの花々が咲き乱れ、とても下水道の中とは思えない。


「こ、ここは……一体……?」


「おそらく、空間転移魔法か、空間具現化だろう。状況から判断するに、後者の可能性が高い」


俺は、あくびを噛み殺しながら言った。


空間具現化。それは、術者のイメージを現実世界に投影し、空間そのものを変容させる魔法だ。


空間転移魔法は、文字通り、別の場所に移動する魔法だが、空間具現化は、空間そのものを作り変えてしまう。そのため、転移魔法よりも高度な技術が必要とされる。


「ようこそ、招かれざる客たち」


広場の奥から、軽薄な声が響く。明るい口調だが、敵意は隠せていない。


まあ、こんな状況で、友好的なわけがないか……。


広場の中央に、一人の男が立っている。その背後には、漆黒の祭壇があり、見たこともない古代文字が刻まれている。


俺は、それが何なのか、さっぱりわからなかった。オシアーナは、何も言わない。俺と同じように、わからないのかもしれないし、あるいは、わかっても、気にしていないのかもしれない。しかし、聖女は違っていた。


「そ、それは……! 闇の祭壇……! 貴様ら……! まさか、闇の神を復活させようとしているのか!!!」


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