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89.霊子崩壊刃

二人は、このまま睨み合いを続けた。どちらからともなく、攻撃の手は出ない。しかし、時間が経つにつれて、不利になるのは吸血鬼の方だ。彼は、覚悟を決めたように、俺に向かって突進してきた。


心臓めがけて、短剣が突き刺さる。


俺の攻撃が効かないと悟り、力ずくでねじ伏せようという魂胆か。だが、生憎と、俺も、その程度で見くびられるような相手ではない。


俺は、彼の姿を見ることなく、その攻撃をかわした。そして、すかさず異次元ポケットから、あるものを取り出すと、彼の体に突き刺した。次の瞬間、背中に、引き裂かれるような痛みを感じた。どうやら、完全に攻撃をかわしきることはできなかったようだ。


だが、それで十分だ。


彼は、自分の傷口を見て、驚愕の表情を浮かべた。傷は、今までのようにすぐに塞がることはなく、青い光を放ちながら、ボロボロと崩れ落ちていく。


これは、ロボットメイドからもらった「霊子崩壊刃」だ。効果は抜群のようだ。もし、柄が付いていれば、もっと使いやすかったのだが……。


俺は、自分の指を見た。二本の指が、先ほど刀に触れてしまったせいで、青い光を放ちながら、崩れ始めている。


「まずい、拡散するのか……!?」


彼の傷は、さらに深刻だった。腹部に深々と突き刺さった刀身は、彼の再生能力を完全に上回っている。彼は、ただただ、自分の体が崩壊していく様を見つめることしかできない。


俺は、迷わずアークを振るい、侵食された二本の指を斬り落とした。激痛が走る。しかし、ここでためらえば、手遅れになる。


一方、彼は、そうはいかない。腹部を貫かれたのだ。指を斬り落とすように、簡単に解決できる問題ではない。


「ば、馬鹿な……! な、何が……!?」


彼は、一瞬、何が起きたのか理解できなかったようだ。しかし、すぐに状況を把握すると、顔色を変えて、後退りした。そして、再び闇の中へと消えていった。しかし、彼の体からは、まだ青い光が漏れ出ている。居場所は、丸わかりだ。


奴は、逃げる気だな……。仲間を呼ぶつもりか?


だが、そうはさせない。


アークが、不気味な黒い光を放つ。次の瞬間、周囲が闇に包まれ、無数の黒い手が、彼に向かって伸びていった。


「逃がすかよ……」


俺は、三本だけ残った指で、鼻をこすった。我ながら、悪役のようなセリフだな。


深手を負った彼は、そう遠くまで逃げられない。案の定、すぐに黒い手に足首を掴まれ、身動きが取れなくなってしまった。他の手も、その隙を見逃すまいと、彼に襲いかかる。


しかし、油断はできない。吸血鬼が、そんな簡単に倒せる相手なら、人間は、とっくに奴らを滅ぼしているはずだ。


「おい……! 中に……!」


「わかってる!」


俺は、ロアの言葉を遮るように叫ぶと、後方に飛び退いた。次の瞬間、黒い手に拘束されたはずの彼の体が、まばゆい光に包まれた。とてつもないエネルギーが、辺り一面に炸裂する。


「来たか……」


私は、自分の傷を確認すると、敵に視線を向けた。


彼は、先ほどの黒ずくめの姿ではなくなっていた。長く伸びた金髪が、宙を舞い、真紅の礼服が、妖艶な光を放っている。周囲には、生臭い血の匂いが、立ち込めていた。


「これが、奴らの真の姿か……。なかなか、恐ろしいものだな……」


私は、アークを握りしめ、身構えた。


完全体となった彼の再生能力は、さらに強化されているようだ。しかし、霊子崩壊は、まだ彼の体を蝕み続けている。時間さえ稼げれば、勝機はある。


問題は、そこまで持ちこたえられるかどうかだ。


彼は、先ほどのように、短剣で襲い掛かってくることはなかった。ゆっくりと右手を掲げると、そこに魔力を集中させている。


吸血鬼は、血を操る魔法が得意だと聞いたことがある。あれは、生身の人間にとっては、かなり厄介な魔法だ。


どうやら、一人で勝てる相手ではなかったようだ。魔法に対抗するには、魔法を使うしかない!


「ライトから、合図が来たわ。出発の準備を」


オシアーナは、椅子から立ち上がると、杖を構え、皆に言った。


「え? ですが、何も聞こえませんでしたが……?」


その場にいた全員が、不思議そうな顔をした。


「念話よ。それに、どうやら、彼は今、かなり危険な状態みたい」


オシアーナは、自分の武器を確認すると、真っ先に下水道へと続く階段を下りていった。


他の者たちは、まだ状況を把握しきれていない様子だったが、それでも、オシアーナの後に続いて、下水道へと進んでいった。


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