86.助けてください
「それで、あなたは私に助けを求めに来たというわけですか?」目の前のロボットメイドは、無表情のまま言った。
「もちろんですとも!こんな難題、あなたに頼るしかありませんよ!」私は、図々しくも言い切った。
私はオシアーナを連れて、タカに戻ってきたのだ。目的はただ一つ、メイドさんに、何か未来のハイテクで役に立つものはないか、相談するためだ。
仕方ないだろう。今回の任務は、あまりにも困難すぎる。他人の家の地下で暴れて、ついでに爆弾まで仕掛けるなんて、バレずに済むわけがない。
私はこれまでの経緯を、包み隠さずメイドさんに話した。すると彼女は、長い沈黙の後、口を開いた。
「……どう考えても、自業自得じゃないですか?」
「ちょっと待ってくださいよ。これは、俺のせいじゃないでしょう」
「簡単な話です。あなたが最初に依頼を断れば、こんなことにはならなかったはずです」
「そ、それは……」図星だった。確かに、なぜ俺がこんな面倒事に首を突っ込むことになったのか。しかし、少し考えた後、やはりこれはやるべきだと自分に言い聞かせた。
「仕方ないんです。教会には、俺たちの医療資源を確保してもらう必要がある。でないと、怪我をした時に治療が受けられない」
私の言い訳を聞いて、メイドさんは呆れたようにため息をついた。そして、一語一句、ゆっくりとこう言った。
「……だったら、どうして最初に、私に医療設備の有無を確認しなかったんですか?」
気まずい沈黙が流れた……。
「……申し訳ありませんでした!私のミスです!」
「猛省してください」
完全に頭が回っていなかった。この塔には、奇妙だけど効果抜群のアイテムがたくさんあることは予想していた。しかし、医療設備まであるとは思ってもみなかったのだ。
しかし、一度引き受けた依頼を反故にするわけにはいかない。信義の問題だ。
「だから、そういうことなんです……。どうか、助けてください!」
「……情けない」
私の姿を見て、メイドさんは諦めたようにため息をつくと、奥の部屋へと消えていった。しばらくして、彼女は両手にたくさんのものを持って戻ってきた。
「お二人の作戦内容まではわかりませんので、的確なアドバイスはできませんが……。これは、狭い空間でも使用可能なものと、少々危険な武器です。説明書もつけておきますので、帰ってからよく研究してみてください」
「ありがとうございます!さすがは、うちの頼れるメイドさん!」
私は、受け取ったアイテムを、オシアーナと一緒に確認し始めた。メイドさんは、私たちの様子を窺うと、自分の部屋へと戻っていった。
「これは……光学迷彩マント?役に立つ?」オシアーナは、銀色のマントを手に取ると、説明書きを読んだ後、私に尋ねた。
「確かにすごい技術だけど、今回は役に立たないだろうな。これはあくまで姿を消すだけで、魔力反応や呼吸までは隠せない。吸血鬼の目をごまかすことはできないだろう」
「じゃあ、これは?『霊子崩壊刃』……敵を原子レベルで分解できるって書いてあるけど」
「確かにそう書いてあるけど……問題は、柄がないことだな……」
私は、刃先しかない刀を見て、困惑した。確かに、こんなもので斬りつけられたら、跡形もなく消し飛んでしまうだろう。だが、使う方も、同じ運命を辿る可能性がある。
まずい、どれもこれも、一筋縄ではいかなそうなものばかりだ。私は、モニターのような機械を手に取ると、じっくりと調べてみた。
「お、これは使えそうだ!」
それは、周囲の地形を表示できる装置だった。いわば、魔法の地図のようなものだ。下水道の地図を登録すれば、周囲の状況がリアルタイムで表示される。たとえ道に迷っても、これがあれば安心だ。しかも、どうやら周囲にいる生物も感知できるらしい。奇襲を受ける心配もない。これはまさに神器ではないか!
「あの……一応、言っておきますけど、吸血鬼って、生物というより、精神体に近い存在なんですよ?だから、多分、これは効かないと思いますよ?」オシアーナが、私の耳元で囁いた。
「そうなのか?まあ、いいさ。地図として使えるだけでも十分だ」私は、その装置を丁寧に仕舞った。これはきっと、後で役に立つだろう。
その後も、私たちはオシアーナと二人で、アイテムを探し続けた。しかし、どれもこれも強力だが、不確定要素が大きすぎるものばかりだった。実際に役に立つものは、それほど多くないだろう。
それでも、何もないよりはマシだ。
結局、私たちは、全てのアイテムを持ち帰ることにした。私とオシアーナには、それぞれ異次元ポケットがある。どんなに荷物が増えても、問題なく持ち運べるのだ。
私たちが神殿に戻ると、不安そうな顔をした聖女が、まるで救世主を見るかのような目で、私たちに駆け寄ってきた。だが、すぐに騎士たちに止められてしまった。
「どうでしたか?」
「作戦は、大体変わらない。ただ、最後は火計はやめて、吸血鬼の始末は俺たちに任せてくれ」
「……大丈夫ですか?」
「まあ、なんとかなるだろ……。できれば、吸血鬼に有効な武器とかがあれば、ありがたいんだが」そう言うと、私はあることに気がついた。俺自身、闇の力を操る者だ。そんな俺が、闇の力で戦うなど、自殺行為に等しい。
教会ならきっと、吸血鬼に対抗するための、何かを持っているはずだ。まさか、何もないとは言わせないぞ。
私の言葉を聞いた聖女は、少し考えた後、席を立った。どうやら、私たちを案内してくれるらしい。
「ライト様、お気持ちはわかります。しかし、私たちでは、どのような武器がお気に召すのか判断がつきかねます。よろしければ、こちらへ。専用の武器庫にご案内します」
私とオシアーナは、聖女の後をついていった。しばらく歩くと、鍵のかかった倉庫の前に到着した。ここまで厳重に保管されているとは、よほどの代物なのだろう。
しかし、ここで問題が発生した。倉庫の前に来た瞬間、私は、周囲から押しつぶされるような圧力を感じたのだ。そして、倉庫に近づくにつれて、その圧力はどんどん強くなっていく。
「あの、聖女様……。一つ、お伺いしたいのですが、この中には、吸血鬼に特効のあるものと、闇全体に効果のあるもの、どちらが保管されているのでしょうか?」
「それは……もちろん、効果があるに越したことはありませんが……」聖女も、私が異変に気づいていることに気づいたようだ。しかし、彼女にできることは何もない。ただ、隣で見守ることしかできない。
仕方ない。私自身が闇の力を操る以上、この場所に近づくだけで、圧力を受けてしまうのだ。こんな状態で、まともに戦えるはずがない。




