85.ずいぶんと待遇が違うわね
「ライト様たち、ひどすぎるわよ!!私は一晩中、外で待ってたのよ!?しかも、すごく心配してたんだから!!!」
「そ、そ、そ、それは……不測の事態だったんだ!!!」
翌日、私たちはティファニーの元へ戻った。しかし、まさか彼女がここまで怒っているとは……。おそらく、私たちが昨晩、ぐっすりと眠っていたことを知っているのだろう……。
ああ、なぜ昨晩、私たちはティファニーを置き去りにしてしまったことに気づきながら、迎えに行かなかったのか、疑問に思っている人もいるだろう。その答えはただ一つだ。
ベッドが快適すぎたのだ。
私はベッドに倒れ込んだが最後、全く起き上がる気になれなかった。オシアーナも、水に戻った途端、動く気が失せてしまったようだ。そこで私たちは話し合った結果、明日の朝に迎えに行くことにしたのだ。
その結果が、今の惨状である。
「エルフのお嬢様、どうかご冷静に。ライト様も、深く反省されていることと思います」騎士たちに囲まれた一団の中から、声が聞こえてきた。ここまで丁重な扱いを受けているところを見ると、やはりあの聖女だろう。
「反省なんて、全然してないわよ!!あの人、今何してるか、見てなさいよ!!」
「ああ、こんなところに美味しそうな屋台があったとは。オシアーナ、食べるか?」
「食べる」
信じてほしい。私は深く反省している。ただ、今は食事の時間なのだ。私はオシアーナと一緒に、近くの屋台を物色していた。
おそらく、私の顔はすでにバレているだろう。だが、聖女が隣にいる以上、誰も私に手出しはできないはずだ。
こうして、奇妙な光景が生まれた。私とオシアーナは、小麦粉で作った屋台料理を片手に持ち、ティファニーは隣で抗議を続けている。そして、姿の見えない聖女が、二人の間を取り持っている。
しばらく歩いていると、一行は神殿の前に到着した。
「よし、ここなら誰もいないだろう。そうあってくれ」神殿の中に入ると、私は食べかけの屋台料理をゴミ箱に捨てた。私の様子を見て、オシアーナはすぐに状況を理解した。しかし、彼女の分はまだ残っている。彼女は周囲に悟られない速度で、残りの料理を全て口の中に詰め込んだ。
「あちっ……」
「気をつけて……」
私は彼女の口元をハンカチで拭うと、氷水を持ってきてやった。これで少しは火傷が治まるだろう。
私がそうしている間、聖女はこちらをちらりと見て、一人寂しく立っているティファニーに視線を向けると、微笑んで言った。
「ずいぶんと待遇が違うわね」
「そんなこと、わかってるわよ……」ティファニーは泣きそうな声で言った。
しばらくして、全員が円卓に座り、今回の作戦会議が始まった。
「それで、何かいい案はあるか?」口火を切ったのは、私だ。すでに基本的な作戦プランは立てていたが、今回は重大な案件だ。全員でよく話し合わなければならない。
「ありません」
「ないです」
「お前に任せる」
息ぴったりである。
「じゃあ、俺の考えを言おう」私は自分の作戦プランを皆に説明した。
簡単に言うと、ティファニーは地上で援護、他のメンバーは私と一緒に下水道に突入する。敵のホームグラウンドでの戦いとなるため、全滅の可能性も十分にある。
そこで、全てはエルフのお嬢様にかかっている。彼女の能力をもってすれば、木々の枝を下水道の中にまで伸ばすことなど容易いだろう。それを脱出ルートとし、もし戦闘不能になった場合は、その枝までたどり着けば、ティファニーが地上まで引き上げてくれる。
しかし、これはあくまで第一段階だ。
最も重要なのは、これから説明する最終兵器である。
全員が下水道から脱出したのを確認したら、オシアーナに火魔法で下水道全体を焼き尽くしてもらう。枝もろとも焼き払ってしまえば、下水道は酸素のない空間と化す。吸血鬼がいくら強くても、呼吸を止めることなどできないだろう。
他の生物に被害が及ぶ可能性もあるが、今回はそれ以上の大事だ。背に腹は代えられない。
私の話を聞き終えると、その場にいた全員が沈黙した。しばらくして、ようやく誰かが口を開いた。
「すごい大胆な作戦ね……」
「リスクが高すぎる気がするけど……」
「現状では、これが最善の策でしょう」
他の3人は、私の作戦に対して、危険だが仕方がない、といった様子だった。しかし、私もわかっている。この計画には、まだ多くの穴がある。
まず、不確定要素が多すぎる。そもそも、人間は吸血鬼よりもはるかに弱い。しかも、今回は敵のホームグラウンドでの戦いとなる。全員生きて帰れない可能性だって十分にある。それに、街全体の下水道を焼き尽くすなど、どう考えても騒ぎが大きすぎる。必ず情報が漏れるだろう。
もし、この街の住人たちが、自分たちが住んでいる場所、それも教会の中枢に、吸血鬼が巣食っていることを知ったら、どう思うだろうか?
本当にそんな大騒ぎになったら、わざわざ私たちを呼ぶ必要もなく、軍隊を送り込めば済む話だ。
「これはあくまで最終手段だな……。他に方法がないか、考えよう」私はため息をつくと、皆に尋ねた。「ところで、このまま何もしないでいたら、どうなるんだ?」
「今のところ、特に問題は起きていません。あの吸血鬼たちは、人間を襲うどころか、むしろ私たちを避けているかのようです」
それはつまり、何か大きなことを企んでいる前兆ではないか!
まずい、時間がないかもしれない……。私は焦燥感に駆られ、髪をかきむしった。すると、オシアーナが私の様子に気づき、私の頭を撫でて慰めてくれた。
彼女の優しさは嬉しいのだが、方向が逆だ。
とはいえ、彼女に頭を撫でられたおかげで、私は不思議と冷静さを取り戻した。そして、再び思考を巡らせると、新たな作戦が頭の中に浮かび上がってきた。
「よし、いい方法を思いついた。詳細は後で伝える。俺はちょっと、試してくることがある」私は席から立ち上がり、皆に告げた。
「ああ、それと、これは極秘事項だ。だから、誰にも話さないでくれ」他のメンバーが興味津々にこちらを見てきたので、私は念を押した。
もしもの時は、あの空飛ぶ都市に助けを求めるしかないだろう。何と言っても、私はあの都市の主なのだから。




