84.急にプレッシャーが
「ひぃぃ……そう言われると、急にプレッシャーが……」
不穏な話を聞いて、私は思わず弱音を吐いてしまった。だが、だからと言って依頼を断るつもりはない。
「ですから、最初に依頼を拒否する権利もあると申し上げたのです」
「いや、それでも俺は、この依頼を引き受けると決めた。ただし、条件をいくつか変更させてもらう」私は自分のカップを取り、一口水を飲んだ。
「言ってみたまえ」
私はカップを置き、5本の指を立てた。「5人。戦闘能力が高く、絶対に裏切らない仲間を5人用意してくれ。それと、全員生きて帰れない可能性も考慮しておけ。それができるなら、俺は依頼を引き受けよう」
「それは問題ありません。しかし、それで十分でしょうか?もっと人数を増やした方が……」
「十分だ。多すぎると、かえって邪魔になる」
私の言葉を聞いて、彼女は私の目をじっと見つめた。私が虚勢を張っていないことを確認すると、彼女は席から立ち上がり、言った。「かしこまりました。では、私はこれで失礼いたします。ライト様、今回の作戦開始時期について、何かご希望はございますか?」
「俺はいつでも大丈夫だ。準備ができたら、いつでも呼んでくれ」
私の言葉を聞いて、彼女は深々と頭を下げた。「ありがとうございます、ライト様。あなた様のご厚意、決して忘れません」
「お互い様だ。できれば、俺もお前たちに手を貸したくはないんだがな」私は以前、教会の連中に散々邪魔をされた時のことを思い出し、血圧が上がっていくのを感じた。
彼女は微笑むと、窓を開けた。どうやら、来た時と同じように、窓から帰るつもりらしい。
「送って行こうか?」私は、彼女がここまで息を切らせてやって来たことを思い出し、送っていくかと尋ねた。私にとって、屋根の上を走るくらい、朝飯前のことだ。
「お気持ちは嬉しいのですが、大丈夫です。私一人で帰れますので。では、また後日」そう言い残すと、彼女は窓から飛び降りていった。
彼女を見送った後、私はベッドに倒れ込み、大きく伸びをした。そして、オシアーナの方を振り返ると、彼女はすでに湯船に浸かっていた。
あれ?バスタブって、浴室にあったはずなのに……。なんでここに、ベッドがあった場所にあったっけ?
「転送魔法を使ったのよ」オシアーナは幸せそうに言った。私はというと、小さな浴室の中に無理やりベッドが押し込まれている様子を想像して、ゾッとしていた。
きっと壊れてるだろうな……。まあいい。後で宿の主に多めに金でも払っておけば、問題ないだろう。
オシアーナは湯船から上半身を起こすと、私に尋ねた。
「今回の件、どう思ってるの?」
「問題は山積みだ。特に厄介なのは、あの吸血鬼たちも、俺と同じ闇の力を操ることだ。奴らにダメージを与えるのは、かなり難しいだろう」私はため息をつきながら、最も懸念していることをありのままに伝えた。
「で、どうするの?」深刻な状況を伝えたにもかかわらず、オシアーナは全く動揺した様子を見せない。むしろ、余裕綽々な表情で私に尋ねてきた。「何か、いい考えがあるんでしょう?私にできることがあれば、何でも言って」
「もちろんある」私はベッドから飛び起きると、異次元ポケットからこの街の下水道地図を取り出した。「今は敵が闇に潜み、こちらは光の側だ。暗殺で勝負を挑むのは、明らかに分が悪い。そこで、我々の強みを生かす。つまり、主導権はこちらが握る。今回は、発想を転換して、正面突破を狙う」
「ふむふむ、なんとなくわかったわ」オシアーナは頷くと、続けた。「じゃあ、私がここを更地にしてしまおうか?本気を出せば……」
「ちょっと待て!俺たちは人を助けに行くんだぞ!」彼女が本当にそんなことをする気であることに気づき、私は慌てて彼女の言葉を遮った。これ以上、恐ろしいことを言わせないためだ。
「でも、あなた、ここが嫌いなんでしょ?」
「それは否定しない。こんな場所にいるくらいなら、野宿の方がマシだ。俺にとっては、ここは地獄のような場所だ」
「じゃあ、壊しちゃえばいいじゃない」オシアーナは不思議そうに私を見た。
彼女の言いたいことはわかる。敵は排除するのが一番手っ取り早い。しかし、残念ながら、ここではそうはいかない。
人間社会の複雑さは、他の種族の想像を絶するものだ。世界で最も弱い種族でありながら、常に他の種族から虐げられているにもかかわらず、人間は団結しようとせず、様々な勢力を形成している。
大きく分けると、王室、教会、冒険者の3つだ。その他にも、貴族や商人など、様々な勢力が存在する。そして、その頂点に立つのが、人間を守護する「王」だ。
「王」は人間の存続を守る以外には、ほとんど何も口出ししない。そのため、この3つの勢力は、互いに牽制し合いながら、均衡を保っている。もし、このバランスが崩れれば、計り知れない影響が及ぶことになるだろう。
それに、教会は……。確かに、裏の顔もあるだろう。だが、彼らは多くの民衆を癒し、多くの命を救ってもいる。個人的な感情はさておき、彼らの行いは、「救世主」の名に恥じないものだ。
「あー……とにかく、教会がなくなったら、俺たちの面倒事も増える一方だってことだ。だから、面倒を避けるためにも、壊すのはやめておこう」
彼女はわかったような、わからないような顔で頷くと、先ほどの話題に戻った。
「で、私の考えはこうよ。下水道が拠点ということは、逃げ道は限られているはず。だから、火攻めにするのはどうかしら?燃え尽きなくても、煙で窒息するはずよ。吸血鬼だって、呼吸をしないわけにはいかないでしょう」そう言うと、私は火をつける方法を考え始めた。
「火をつけるのは、任せて。可燃物は……ティファニーの木魔法を使えばいい。彼女なら、簡単に用意できるはず……」
そこまで言って、私はある重大な問題に気がついた。そして、オシアーナの方を見た。
「待てよ、そういえば、ティファニーはどこにいるんだ?」
私の言葉を聞いて、オシアーナも何かに気づいたようだ。少し考えてから、彼女は答えた。
「えーっと、確か、門の前で待機してて、何かあったらすぐに迎えに来るように言ってたわ。今のところ、あそこで待ってるんじゃないかしら……」




