81.下水道だ
「よっしゃあああああ!!!」彼の返事を聞いて、私は内心でガッツポーズを決めていた。提示した金額は破格もいいところ、本来払うべき額をはるかに上回っている。
ああ、でも私の本音は、相手が値切り交渉してくることだった。そうすれば、たとえ一発で決まらなくても、まだまだ儲けは十分にある。なのに、彼女はあっさり原価で受け入れてしまった…。これはもう、私のせいじゃない。
「その値段で納得していただけるのであれば、今回の依頼は…」
「非常に困難です」彼女は私の言葉を遮るように言った。
彼女は少し座り直してから、続けた。「ライト様、どうかご理解ください。今回、私たちが手を引いているのは、他に方法がないからです。あの吸血鬼たちは本当に厄介で、この街の戦力だけでは到底太刀打ちできません。だから、私たちはあなたの力が必要なのです」
「しかし、あなたたちでさえ無理なら、もはや普通の人間にできる仕事ではないのでは?」
「だから私たちは、ライト様に依頼したのです」
やっぱりそうか。こんな高額報酬にあっさり同意するなんて、命を落とす危険性だってあるってことだ。いくら報酬が高くても、命がなければ意味がない。
まあいい。今の私は、もう以前の私ではない。私たちの力は、もはや普通の人間とは比べものにならない。
主な自信の根拠は、オシアーナと、あの空を飛ぶ巨大都市の存在だけど…。
「では、そうしよう。明日、詳細について話し合いに来る。今日はこれで失礼する」私は席を立ち、オシアーナも私の様子を見て立ち上がった。
「えっ、もうお帰りになるのですか?よろしければ、今夜はここに宿泊されては…」
「いやいや、夜中に誰かに裏切られるのはごめんだ」私は手を振った。立場が違う以上、ここに泊まれば面倒なことになるに決まっている。さっさと立ち去るのが一番だ。
たとえ彼女に悪気がなくても、他の奴らはそうはいかないだろう。身の安全のためにも、急いで逃げよう。
私たちは神殿を出て、人気のない薄暗い場所へと向かった。
周囲に誰もいないことを確認してから、私は小さな通信機を取り出した。オシアーナが不思議そうに私を見てくる。
「どこでそんなものを?」
「こほん、前に塔に登った時、役に立ちそうだったから、もらってきた」
もちろん彼女のことも忘れていない。もう一つ通信機を取り出して、彼女に渡した。
「もしもし、あの腹黒執事ロボットはいるか?君たちって、寝る時間とかあるのか?」私は通信機を開き、呼び出した相手はただ一人。今、私たちの頭上にいるあのロボット執事だ。
「あなた様ったら、そんなひどいことを。私ときたら、この街の偽物の地図を送りつけようかと思案していたというのに」
「すまん、悪かった」
さすがと言うべきか、私が何をしようとしているのか、まだ何も言っていないのに見抜かれていた。
夜が明ける前に、あの吸血鬼たちの居場所を突き止め、もっと多くの情報を得る必要がある。今は教会の連中と共闘関係にあるとはいえ、彼らを100%信用することはできない。むしろ、私たちが今回の件を片付けたら、ついでに私たちも片付けようとしているのではないかと疑っているくらいだ。
少なくとも、逃げるための準備はしておかなければ…。
「かしこまりました。しかし、地図の映像をどのようにお伝えすればよろしいでしょうか?」
「ああ、そのディスプレイに映してくれればいい」私はもう一台、ディスプレイを取り出した。
オシアーナはさらに驚いた様子で私を見つめる。
「あそこで手に入れた」
地図がディスプレイに表示された。私とオシアーナはそれを注意深く分析し、受け入れがたい結論に至った。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ…この街の設計者、頭おかしいんじゃないのか?」
「…まさか、私たちが」
地図には、全く同じものが並んでいる。最初は気づかなかったが、この街は神殿を除けば、どの家も同じ形、同じ高さ、同じ色で統一されているのだ。
そうか、ここは宗教都市だった。禁欲と平等を説いている以上、特別な場所があるはずがない。少なくとも、表向きは。
まあ、それは別にいい。重要なのは、どこも同じなら、どこから調査を始めればいいのかわからないということだ。
「いや、一番の問題は、吸血鬼は日光を浴びることができないということだ。つまり、彼らは24時間常に暗闇に包まれた場所に違いない」
「しかし、ここにはそんな場所はありません」
「ある」
私はオシアーナを連れて、人気のない場所へと向かった。地図を見る限り、その場所はそれほど遠くはない。
ここの家はどれも同じ作りなので、24時間暗闇に包まれた場所を作るのは難しい。もしあるとすれば、それは…
下水道だ。
私たちは今、排水溝の前に立っていた。
実を言うと、私は多少の潔癖症持ちで、こういう場所に潜り込むのは好きではない。オシアーナは言わずもがなだ。ずっと汚染されていない海水の中で暮らしてきた彼女にとって、下水道など論外だろう。
私たちは排水溝を前に、揃って考え込んでしまった。
しばらくして、オシアーナが口を開いた。
「えーっと…絶対とは言えませんが、私の知る限り、吸血鬼はプライドの高い生物です。腰を曲げることすら嫌う彼らが、こんな場所に入るなんて考えられません」
「同感だ。だが、他に方法がない。今回の任務は非常に困難で、事前に準備を怠れば、ここで命を落とす可能性だってある」
私はリモコン操作式の小型車両を取り出した。オシアーナは、もうこの状況に驚かなくなっているようだ。言うまでもなく、これもあそこで手に入れたものだ。
この小型車両には撮影機能と、周囲の音声をディスプレイに伝える機能が搭載されており、偵察にはもってこいだ。
「とは言っても、俺、これ使ったことないんだよな」私はリモコンを手に、一人考え込んでしまった。この時代の技術レベルを考えると、機械を遠隔操作するなど、あり得ない話だ。
「あ、ここに自動運転機能がありますよ」オシアーナが近づいてきて、ボタンを押した。
小型車両が自走し、下水道の中へと入っていく。
「ハイテクってすげぇな…」
私はディスプレイを見つめていた。画面は真っ暗で、本来ならこの小型車両には暗視機能が搭載されているはずなのに、何も見えない。
「これはもう、中に吸血鬼がいると見て間違いないだろう」
「そうかもしれませんね」
しばらくすると、画面が突然砂嵐状態になり、音も聞こえなくなってしまった。
「どうやら、小型車両は破壊されてしまったようだ。仕方がない」私はディスプレイを片付け、立ち上がって荷物をまとめ、ここを去ることにした。




