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5.私は才能がありません

日本語訳:


「どうにも海賊船に乗せられたような気がするが、今のところ行く当てもないし、ここで暮らしていくしかないだろう」


そもそも私だって善良な人間じゃない。この手にかけた命の数は、もう自分でも覚えていない。戦場では殺した人数を数える暇などなく、犯した罪を悔いる機会だって与えられない。


手に血を塗った時点で、罪はすでに心に根を下ろしているのだ。


「そういえば、今何時だ?」


「12時……あ、そうだ!お前たちを食事に呼びに来たんだった!」


私の言葉で、親分はようやく自分の目的を思い出したようだ。


「さあさあ、俺の手料理を味わってみてくれ」


テーブルに並んだ料理は実に質素で、決して豪華とは言えない。ひら豆と羊肉のクリーム煮、それにアサリのスープ──ひら豆の若芽が浮かんでいる。主食は黒パンで、親分は気を利かせて各席に小さなバターの小鉢を添えていた。


野菜は確かに新鮮で、畑から引き抜いて30分も経たず鍋に入れたのがわかる。羊肉も臭みがなく、ただクリームが少し多すぎて、甘ったるい味がした。


評価に困ったのは、アサリのスープだ。


美味しいかどうかはわからない。エルエンヤは内陸国で、水産物は極めて珍しく、あっても川魚程度。運が良ければエビが獲れるくらいだ。だがここフェーレン王国は海に面し、食事も海産物が中心。初めて口にするこの味を、美味いか不味いか判断するのは難しい。


要するに、私の口に合わないのだ。


それでも飲み込める。戦場では温かいものなど口にできず、補給が断たれれば草の根や樹の皮で飢えを凌ぐしかなかった。運良く獲物がぶつかってくるのを待つ以外は。


ましてやこの6年間、私がやってきたことは単なる兵士の仕事なんかじゃない……


まあ、過去の話だ。今は引退したも同然で、親分たちと一緒に畑を耕して、のんびり暮らせばいいじゃないか。


「内地から来たお前のために、親分が今日はわざわざ羊肉を用意してくれたんだ。海の物が苦手じゃないか心配でな」アランは私の隣に座り、背中を強く叩いたので、むせそうになった。


「大丈夫です、何でも食べられます」内心、ほんのり温かいものがこみ上げた。エルエンヤを出てから、これが初めて他人の善意を感じた瞬間だった。


あの国では、他人の親切に触れる機会など、指で数えるほどしかなかったから。


ここで各国の特性について触れておかねばなるまい。伝統的な国家とは異なり、どの国も一見独立しているようで、実際は全て「王」の命令に従っている。


その理由はこの世界の成り立ちにある。この世界には多くの種族が存在する──高慢で古の竜族、人類を憎む魔族、器用なドワーフなど。


彼らは多かれ少なかれ特異な能力を持ち、いずれかの分野で他種族を圧倒する力を持つため、それぞれがこの世界で一定の領土を確保している。


だが人類は違う。


力では獣族にすら及ばず、知恵と技術ではゴブリン、魔法では竜族に劣る。敵対する魔族でさえ、人類をはるかに凌駕している。


その結果、人類の領土は極めて小さい。むしろ、今でも生存圏を保てていること自体が奇跡なのだ。


その奇跡を支えているのが「護国大陣」である。


この陣が誰によって残されたのか、その目的が何なのかは誰も知らない。だがこの陣は異種族を遮断し、弱い者なら触れた瞬間に灰となり、たとえ強者でも陣内では力を大幅に削がれる。


これによって、人類はかろうじて命脈を保ってきた。


しかし護国大陣だけでは不十分で、人々の協力と努力が必要だと考えるかもしれない──


もしそう思うなら、それは間違いだ。


先に述べた「王」が全ての国から「王」と崇められる理由は、ただ一人で人類種族全体を守り続けてきたからである。


「王」の能力は誰も知らない。個人の名前なのか組織のコードネームなのか、直属の者以外にはわからない。人々の口承の中で、「王」は人類の守護神として語り継がれている。


実は私は幸運にも「王」と面会し、一戦交えたことがある。結果は惨敗で、逃げ出すのが精一杯だった。幸い「王」は武徳を重んじる方で、逃げる私を追ってはこなかった。あの時追われていたら、確実に命はなかっただろう。


だが言っておきたい。私はあの時逃げられただけで、自分でも十分凄いと思っている。「王」と対峙して初めて、真の強者とはどれほど恐ろしいものか理解できたのだ。


まあ、これだけ語っても実は何もわかっていないのだが、話を元に戻して、私の故国について語ろう。


先述の通り、各国は独立しているようで、それぞれが役割を分担し、人類を守る重責を担っている。


そしてエルエンヤは「暗殺」の名を冠せられた。


誰かを守りたい、何かを護送したいなら、この国の者に頼むべきではない。できないわけじゃないが、「保護」を担うガート王国の方が適任だ。


同様に、誰かの命を奪いたいなら、エルエンヤは間違いなく第一の選択肢となる。


常人を超えた訓練強度、口が堅い素養、そして90%に迫る任務達成率が、エルエンヤの評価を常に高い水準に保っている。


もちろん、これは暗殺者を雇う側──つまり我々のサービスを必要とする者たちの間での話だ。表向きはエルエンヤは過街老鼠(通りを歩くネズミ=衆人に憎まれる存在)も同然で、周辺国との衝突も絶えず、誰もがその滅亡を願っている。


だがエルエンヤが今も滅びず、むしろ勢力を拡大している理由は、お察しの通りだろう。


政治家や富豪の不審死の背後には、多かれ少なかれ我々の影が潜んでいる。だからこそ、我々を必要とする者は後を絶たない。もし本当にエルエンヤが消えれば、彼らは私以上に慌てふためくだろう。


ん? なぜ私がこんなに詳しいのかって?


自己紹介が遅れた。私はエルエンヤ暗殺組織「冥府」の──首席である。

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[良い点] 伝統的な西洋のファンタジー、がんばってください
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