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170.俺は自爆覚悟の攻撃を仕掛ける

彼は自分の頭に振り下ろされてくるアークを見て、体勢を立て直す暇もなく、残った片腕で防ぐしかなかった。


両者がぶつかり合い、甲高い衝撃音が響く。だが意外なことに、この状況でも俺は彼の腕を直接切断することができなかった。……やはり俺はまだ少し弱いらしい。


とはいえ、これまでの準備は無駄ではなかった。


彼の注意は完全に俺との対峙に向けられており、自分の背後で放たれた金色の光には気づいていなかった。気づいた時には、すでに一発の【天威】が背中に直撃していたのだ。


「なんだと!?」


彼が振り返ると、俺は手に白紙のカードを持っており、すでに二枚目を取り出していた。


アークの分身能力は、今や単なる幻影にとどまらず、簡単な命令なら実行できるレベルにまでなっている。俺はあの男の店をほぼ丸ごと買い占め、あらゆる属性・効果の魔法を揃えていたのだ。


ただし、この【天威】の効果はそれほど大きくない。防がれたわけではないが、この魔法は人間の間では最高位の光明魔法に分類されるものの、以前、聖剣一本分のエネルギーを使い切って放った時ですら、倒せたのは吸血鬼の王だった。ましてや目の前の悪魔に致命傷を与えるなど不可能だ。


つまり、この一撃は弱すぎて決定打にはならない。


だが、数で押せばいい。【天威】だけではなく、【光明剣陣】や【光の祝福】など、手持ちのカードを惜しげもなくまとめて奴に叩きつける。


このまま押し切れば勝てる……そう思いつつも、俺は奴がまだ何か切り札を隠している気がしてならなかった。戦う者にはいくつかの段階がある。最初は余裕、次に相手の実力を知って本気を出し、そして全力を尽くす段階。


さらにその先には、「勝てないと悟った時の命懸けの一手」がある。


俺のそれは逃走だ。アークで分身を作るにせよ、暗黒領域を展開するにせよ、俺の潜行スキルは他者に察知されにくい。たとえ竜族でも追いつけないだろう。


では、彼の最後の一手は何だ?


そう考えた瞬間、目の前の悪魔が不意に動きを止めた。嫌な予感がして、俺はすぐに後退し、オシアナを抱きかかえて後方へ跳んだ。


結果、それは正解だった。


彼の周囲5メートルほどの地面が、いつの間にか消失していたのだ。そして俺は、彼の体から放たれる複数の元素を凝視した。


風、火、木、土、金、闇——光以外のすべての元素が揃っている。……さすがは超越種族の悪魔といったところか。


悪魔の脅威は、人の心を誘惑すること以上に、その戦闘能力にある。さっき自分の部下を殺した技について、ロファは「純粋な闇」だと言っていたが、実際はそれだけではない。


正確には、悪魔は自然界に存在する元素を極限まで純化し、その最強の形で攻撃やその他の用途に使うことができる。外部の力も、複雑な詠唱も必要ない。ただの“元素”こそが、彼らの最恐の必殺技なのだ。


そしてこの技は、おそらくまだ彼の最終奥義ではない。今が本気を出したところで、命を懸けた切り札はまだ隠しているのだろう。……くそ、俺の策はこれで全部使い果たしてしまった。


ティファニーを呼んでおくべきだったか……。今回は“成神”のための試練だと思い、彼女の安全を考えて外してしまったのだが、まったくそうではなかったらしい。いや、断言はできないが……。


オシアナは俺の前に立ち、杖を地面に突き立てた。すると、空中に六色の魔法陣が出現。木属性以外の全属性が揃っている。


どうやら、俺の可愛いオシアナの魔法適性は常人をはるかに超えているようだ。木属性こそ扱えないが、それ以外はすべて習得している。


だが、それで終わりではない。六つの魔法陣の背後に、巨大な紺碧の魔法陣がゆっくりと浮かび上がった。見たこともない形式だ。


俺も負けじと、すべての魔法カードを取り出す。魔法には魔法で対抗するしかない。こんな時に肉弾戦を仕掛けるのは、ただの自殺行為だ。まだ百枚以上は残っている。さあ、勝負してみろ!


瞬く間に、戦場は七色の光に包まれた。知らない者が見れば、まるで花火大会のようだろう。


オシアナの魔法は強力だが、純粋な元素の力と比べればやはり劣る。普通なら押し負けるはずだ。だが、俺が大量のカードで補助することで、互角に渡り合えていた。


しかし、この状態は長く続かない。カードの消耗は予想以上に早い。このままでは決着がつく前に手札が尽きる。……やはりあの店の商品、全部買い占めておくべきだったな。


……そうだ!


俺は再びアークを取り出し、ためらわずに奴の顔へ投げつけた。これは極めて卑劣な一手だ。奴はこれをコントロールすることはできず、かといってその威力を無視することもできない。まさに進退窮まる状況だ。


唯一の難点は、アークが認めた主は俺であっても、奪われない限り自ら戻ってくることはないという点。以前に試したことがある。これさえなければ、延々と同じ手を繰り返せるのに。


そして、これから行う行動は一か八かの賭けだ。成功すればいいが、失敗すれば死ぬ。


アークは当然のように彼に弾かれた。その隙をつき、オシアナがさらに圧力をかける。そして、俺はすでに奴の目の前に躍り出ていた。この急な展開に、奴もオシアナも驚いたようだ。


「ライト!何をしているの!?危険だから戻って!」


オシアナの心配はもっともだ。今は魔法同士の衝突が極めて不安定な状態で、少なくとも十以上の魔法がぶつかり合っている。少しでも異変があれば、俺はその中に巻き込まれて大ダメージを受けるだろう。


だが、俺は吸血鬼だぞ?


血さえあれば再生できる。どれほどの重傷を負おうともだ。しかも相手は光明魔法を使えない。手が塞がっている今、俺にとってそれほど大きな脅威にはならない。


このまま消耗戦を続ければ、確実に不利になる。だからこそ、俺は自爆覚悟の攻撃を仕掛ける。これが唯一の打開策だ。


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