160.感動したぞ
デートか……別に悪くないな。最初から彼女を遊びに連れて行くつもりだったが、ちょうどエリソンの事件に巻き込まれてしまった。
今は状況が違う。これまでの経緯から、あの王には遠隔で人を殺す能力があるようだ。だが少なくとも媒介が必要で、【傀儡の王】はもう倒した。さらに実力者がターゲットにならない限り、アンナではなく赤王が殺されていただろう。
チャールズの実力は低くない上に、ティファニーが警護している。王があいつに手を出せるとは思えない。もしそれでもできたなら、私たちはもう降伏した方がいい。
宣戦布告したばかりなのに遊びに行くのは奇妙に思えるが、暇なら気分転換に街へ出て、決戦に備えた方がいいだろう。
ただ、この言葉を誰が教えたのか気になる。考えてから口にした様子から、彼女は最初から知っていたわけではなさそうだ。たしかこれは恋人同士でよく使う言葉だったような……
「ああ、明日一緒に出かけよう」私もベッドに横になり、オシアナを抱きしめた。
どこに行くかはよくわからないが、エルンア最大の市場が近くにあるはずだ。そこに連れて行ってみよう。
………………
翌日はあっという間に訪れた。私とオシアナが起きたのは昼過ぎだった。かつて勤勉だった私がいつからか彼女に感化され、こんなに長く寝るようになってしまった。
オシアナがよく眠るのは理解できる。彼女はいつもそうだ。だが、十数時間寝た後、3時間起きて、また十数時間眠れる私の体はどうなっているのだろう。
普通じゃない。ましてや夜行性の吸血鬼なのに、この時間帯に眠いのはおかしい。何かの前兆だろうか?何かが起こる予感なのか?
「ボス、出かけるのか?」早起きのチャールズは、私たちが遅くまで寝ているのにもう慣れていた。エリソンが隣に座り、手を振ってくれた。
「ああ、ちょっと遊びに行く。ここ数日疲れたからな」私は頷いた。「お前は自分の身を守れよ。王が何をするかわからない」
「心配するなボス。俺がいれば絶対大丈夫だ」
すぐに私たちはチャールズの馬車に乗った。自分たちのもあるが、ティファニーを残す必要があるし、【生命の木】で作られた馬車は目立ちすぎる。
30分後、市場に到着した。意外なことに、入り口で見覚えのある顔を見かけた。
「お前、こんなところで屋台やってるのか?それもポップコーン?」
ルートは声を聞いて顔を上げ、私を見て驚いた様子だ。
「この前あなたたちが戦ってた時、外で飲み物とポップコーン売ったら好評でさ。だからここで店開いたんだ」
黒王のナンバー2がこんなことに!?私の部下は一体……いや、今はヒモ同然の私が言える立場じゃないな。まあいいか。
「金儲けは卑しむべきじゃねえ……」私の考えを見透かしたように、彼は屈託なく笑い、ポップコーンの袋を差し出した。「食ってみろ。うまいぞ」
遠慮なくいただこう。
袋を受け取り、いくつか口にした。確かに美味しいが、甘いものはあまり好みじゃない。
オシアナは気に入ったようだから、全部彼女にあげた。私が食べ終えると、ルートは手を差し伸べた。
「何だ?」
「代金くれよボス。タダじゃないぜ」
「ふざけるな!!今まで何度飯をおごったと思ってる!?今更金を取るだと!?」
「別の話だろボス。俺がおごるのとボスが食うのは関係ねえ」
この恩知らずめ。養ってやったのに。文句を言いながら財布を出す。こいつらはいつもこうだ。昔から金を巻き上げる口実を見つけてくる。
袋にはかなりの金額の金貨を入れた。ポップコーン一袋の値段をはるかに超えている。だがこれが最後になるかもしれないから、多めにやっておこう。この1年分のつもりで。
「そういやボス……本当に手伝わせなくていいのか?」多額の金を受け取り、ルートは一瞬戸惑ってから本音を口にした。
「死にたいのか?あの王の実力はお前の想像を超えてる。全員一緒にかかっても一瞬でやられる」
私にとって、お前たちにできる最高のことは自分を守ることだ。邪魔にならないでくれればそれでいい。
「まあいい、もう行くぞ。お前はしっかり商売してろ」
「ああ」ルートは夢中で食べるオシアナを見て、何かを悟った。「ボス、結婚する時は絶対呼べよ」
「お前、そんなこと気にしてたのか?感動したぞ」
「いや、ごちそうにありつきたいだけ」
「出ていけ」
やはりこいつらに良心などない。私から搾り取ることしか頭にない。
オシアナを連れて先へ進む。衣類や花を売る店など、彼女にとっては目新しいものばかりだ。以前は見たこともないらしい。
私の記憶とほとんど変わっていない。そういえば誰かここにいたような……また知り合いか。今日は天気がいいからみんな出てきたのか。
「あ!ライト兄ちゃん!」こう呼ぶのは一人だけだ。アンナがジェイの傍で手を振っている。
私を見てジェイも驚いた様子:
「お前も遊びに来るのか?珍しいな」
「うちの子が遊びたいってさ。それに休むのも必要だ」緊張し続けるのは疲れるだけだ。適度に楽しむのが正解だ。
また「子」呼ばわりされたオシアナは不満そうだったが、頭を撫でられるとすぐに機嫌を直した。




