155.礼服持ってなくね
最後の言葉を終えると、オシアナは再び私に目を閉じさせ、周囲から迫りくる圧迫感を感じさせた。次の瞬間、私は部屋に戻っていた。
なんて速さだ。
頭の中に先ほど気付いたことがよみがえり、慌てて首を振って気持ちを切り替えた。こんなことを考えすぎると正気を保てなくなりそうだ。
私はオシアナを抱きしめた。ただし今回は以前とは違う。寝る準備だ。いつも通り彼女を抱いて眠ることにした。今日もそうする。
…………………
目が覚めた時、太陽はすでに沈んでいた。
「こんなに寝てたのか……」時計を見ると、眠りについてから17時間が経過していた。最近本当に疲れていたのだろう。そうでなければもっと早く目が覚めていたはずだ。
オシアナに関しては、この子は一度も時間通りに起きたことがない。
彼女の頬をつねると、よだれが口元から垂れ、まだ起きる気配がない。両手で頬を揉み始めて、ようやく彼女を夢から覚ませた。
「ふぁあ……どれくらい寝た?」
「17時間」
オシアナは目をこすりながらベッドから起き上がった。
約30分後、彼女を連れて階下へ降りると、焦った様子で行き来している男が目に入った。私の姿を見るなり、救世主でも見たかのような表情を浮かべた。
「ライト様!ついにご起床ですか!宴に遅れますよ!」
ああ、確かにそんな予定があったな。そしておそらく開始30分前だろう。入場前の諸手続きを考えると、もう間に合わない。
「あの王自ら『私の都合に合わせる』と言ったはずだ。遅れるなら待たせておけ」私は気にも留めず手を振ったが、ある重要な問題に気づいた。
俺、礼服持ってなくね?
今の格好で行っても全く問題ないし、礼儀作法も気にしないが、行くからには万全を期したい。それも一種の風格というものだ。
「チャールズ、礼服持ってるか?貸してくれ」
「俺が持ってるように見えるか?」呆れたような視線を向けてきた。
チャールズは貴族とは名ばかりで、貴族らしいことは一切していない。宴も社交も全て門前払いで、エリソンと家に籠もってばかりだ。だから彼に借りるくらいなら、むしろエリソンに借りた方がましだ。本物の名家の令嬢なのだから。
「じゃあ今から買いに行くか?」私の言葉に、使者の目が白目になりかけた。まあ、彼も大変だ。これ以上困らせるのもな……
「魔力で服を作ってあげられるよ」オシアナが私の袖を引っ張り、期待に満ちた眼差しを向けてきた。
「他人にも使えるのか?」
「うん」
オシアナの服はいつも自身の魔力で作られている。私はこのことをすっかり忘れていた。しかも彼女の服は好みに合わせてデザインを変えられる。これは良い解決策だ。
「じゃあもう少し待ってて。すぐ戻る」私はオシアナの手を引いて再び階上へ向かい、使者の苦悶の表情を無視した。
…………………
「どんなデザインがいい?」
「わからないから、任せるよ」
よくある会話だが、今回は立場が逆だ。私は服のコーディネートに関しては本当に無知で、オシアナ以下だ。
服を脱ぎ、鏡の前に立つ。私の体は以前のように傷だらけではなくなっていた。これが吸血鬼の治癒能力だ。筋肉のラインはほとんど変化なく、以前と同様だ。
なかなか良い出来だ。この状況に私は満足していた。人間ではなくなったが、失ったものは何もない。これが最善の結果だろう。
オシアナが私の背中に手を当てると、白い光が輝き、真っ白な礼服が現れた。
感触は非常に軽く、空気のようだ。デザインもフォーマルで、優雅さを保ちつつ動きやすさも損なっていない。
「だけどなぜドレスなんだい、我が愛しきオシアナ嬢?」私は彼女の小さな頬を両手で揉みながら、少し不満げに言った。
「えへへ……見たかったんだもん」頬を揉まれながら、オシアナは舌足らずに答えた。私の気分とは対照的に、彼女は私のこの姿にとても満足しているようで、私は再び鏡を見た。
わあ、滝のような白髪が腰まで流れ、完璧な顔立ちが一点の曇りもなく、純白のドレスと相まって、実に見事な美人だ。
なぜそれが俺なんだ!!!!!
くそっ、前言撤回。この吸血鬼の血統は災いだ。怪物になったことを気にしている。失ったものが多すぎる。
幸いオシアナはただの冗談だった。もしこのドレスで宴に出席しろと言われたら、私は喜んで王宮ごと爆破するつもりだ。
すぐに、オシアナは黒のタキシードを作ってくれた。こちらは大満足だ。フォーマルであれば十分で、良し悪しの判断など私にはできない。
「じゃあ行こう」オシアナも礼服に着替え、出かけようとした瞬間、私に引き戻された。
「これは君に似合わない。着替えよう」
「え、どうして?」
目の前のオシアナを見る。女性のしなやかな腰肢を強調し、美しいプロポーションを披露するはずのイブニングドレスが、彼女の身上ではどれほど不釣り合いか。
オシアナは背も低ければスタイルもない。外見から連想されるのは「可愛い」という言葉だけだ。このドレスを着た彼女は、幼い娘が母親の服を着て大人ぶっているようだった。
理由はわからないが、ライトがそう言うのならきっと意味があるのだろう。オシアナはそう考え、プリンセスドレスに着替えた。これでずっと自然に見える。
本来なら化粧もするべきだろうが、私たちにはそんな気はない。それでも私たちは今夜の宴で最も注目を集める存在になるだろう。
私たちがもたらすのは優雅さだけではない。無限の血と、慟哭なのだから。




