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148.言葉なんてものさ

扉を開けると、そこには奇妙な形をしたカードが所狭しと並んでおり、それぞれに文字が記されているのが見えた。


【火球】【水流】【岩壁】といった初級魔法が刻印されている。これが彼の商品【魔法カード】だ。つまり、すでに発動された魔法をカードに封じ込め、いつでも使えるようにしたものだ。


私の個人的な使用経験から言えば、確かに使い勝手がいい。詠唱も不要で、発動時の威力も通常の魔法と何ら変わりない。このカードで何度も命を救われた。


ただ、値段がどうにも不親切で、たった一枚の初級魔法カードに1000ゴールドも取られる。普通の人にはとても手が出せない。


「珍客ですね、ライトさん。前回のご来店は2年前でしたね」マントをまとった男が、無地のカードの山から現れた。「もう来ないかと思って、VIP特別通行証を誰かに譲ろうかと考えていたところですよ」


彼はカラスの仮面を被っており、素顔がまったく見えないが、別に興味もない。


「もしこれがどこでも使えるようにしてくれたら、もっと頻繁に来るかもよ?」


「はは、そんな技術はありませんよ」


このカードはずっと私の手元にあったが、今までの危機的状況で使おうと思ったことはない。理由は単純で、このカードが使えるのはエルンアヤ国内だけだからだ。


私の言葉に彼は困ったように手を広げて笑った。空間を超越して人間を転送できる道具など、作れるわけがない。


「で、今日はどんなご用件で?」


「報酬は心配無用。あの王を倒すのを手伝ってほしい」


「お断りです!」


彼は私を見て、ため息をついた。「ライトさんの目的はわかりますが、これは私が助けたくないわけではありません。おっしゃるあの王の噂は私も聞いています」


「それに私は戦闘能力がありません。私のカードが強力に見えるかもしれませんが、それはあくまで私の能力でしかないのです」


まあ、断られるのは予想通りだった。誰もわざわざ危険を冒したがらない。ましてや今回のリスクは大きい。彼は私とは違う。私は利益さえ見込めれば、どんなに強い敵でも挑戦するが、彼は明らかに安定を重視するタイプだ。そうでなければ、ここでまっとうな商人をやっていないだろう。


「わかった。じゃあカードを買うだけなら問題ないよね?」


「もちろんですとも!」


実は最初からこれが目的だった。彼を巻き込めなくても、カードを多めに買っておけば戦いの助けにはなる。


私の言葉を聞くと、彼はすぐに笑顔になった。来る商売を断る者はいない。売った後の使い道は、彼の管轄外なのだから。


彼は私を奥へ案内した。外に並んでいるカードは基本的な魔法ばかりで、私たちにはあまり役に立たない。


ところで彼のカードには面白い特徴があった。使用者の力量によってカードの真の姿が見えるかどうかが決まるのだ。封印されている魔法が実力をはるかに超えている場合、表示されるのは「???」だけだ。


私が最後に来た時もまだ「???」のカードが多かったが、今回はそれらを買い占めて、いざという時に使おう……待て、これは何だ?


私は足を止め、目の前の黒いカードをじっと見つめた。記憶が確かなら、これが当時認識できなかったカードだ。まさかこれが……


深海魔法【鎮魂曲】


オシアナと初めて出会った時に使われた深海魔法だ。あの時は本当に死ぬかと思ったので強烈に記憶に残っている。カードに封じられていても、すぐにわかった。


このカードは私が追放される前からここに掛かっていた。いったいどこから手に入れたのだ?


「君のカードはどうやって作っているんだ?」


「ええ、それは企業秘密ですよ。教えられません」


「じゃあ質問を変えよう……この【鎮魂曲】はどこで手に入れた?」


彼は驚いたように私を見た。カードの魔法が認識できること自体は予想していただろうが、具体的な魔法名までわかるとは思っていなかったようだ。カードに名前など書いていないのだから。


「それは……これもお答えできません」


「それは私が作ったのよ」


優雅な女性の声が階上から響き、真っ白なロングドレスを着た女性が降りてきた。青白い肌、虚ろな瞳、そしてぼさぼさの髪。


間違いない、深海族だ。


「ガーファ? 降りてくるなと言っただろう?」彼は慌てて彼女に声をかけた。


ガーファは困惑した表情を浮かべ、両手を振って大丈夫だと伝えようとしている。


この光景、どこかで見たような……!


オシアナと初めて会った時も、こんな感じで身振り手振りで会話していたっけ。でもおかしいな、この二人の付き合いは私とオシアナよりずっと長いはずだ。


「君たち……まだ言葉が通じてないのか?」


「そうなんです……私は彼女の言語が話せないし、彼女も人間の言葉が話せない……こんな感じでコミュニケーションを取っています」


「『幼児向け会話教本』でも買ってあげたら?」


「買いました。覚えられませんでした」


ガーファの出現を見るや、オシアナはすぐさま彼女に飛びついた。


「ガーファ!! 無事だったの!」


「オシアナ!? どうしてここに!?」


うーん……感動の再会シーンだろうが、この国にもう一人深海族がいたとは思わなかった。陸地にはオシアナだけだと思っていたのに。


「じゃあ彼女とゆっくり話してくるといい。同族に会えるのはいいことだ」私はオシアナにそう言うと、彼女はうなずいてガーファの手を引き、階上へと向かった。


二人がいなくなると、彼は驚きの表情で私を見た。


「どうして話せるんだ!?」


「ああ、別に不思議じゃないだろ? 言葉なんてものさ」

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