表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/178

146.何かまだ用が

「こういうことはやはり本人の同意が必要だ。たとえ蘇ったとしても、人間として生きられるわけじゃない。痛みも感じなければ、空腹も感じず、疲れさえ感じないかもしれない。


怪物として戻るか、そのまま死ぬか——この選択権は私にはない。せめて彼の意思を聞くべきだろう。」


私の言葉を聞いた彼は長い間黙り込み、やがてゆっくりと口を開いた。


「もし……本当に可能で、彼女を連れ帰れるとして……彼女が望まない場合、再び送り返すことはできるか?」


「できない。しかも、今回の代償は非常に大きい。」


アリソンの時、あんなに簡単に魂を召喚できたのは、私たちが戻ってきたのがわずか30分後で、彼女の魂がまだ冥界へ渡っていなかったからだ。


だがアナは違う。私がここに戻った時点で、彼女はすでに2日間死亡していた。さらに時間が経った今、彼女の魂はおそらく死神に回収されているだろう。


「仮に彼女が望まなくても、もう戻せない。冥界から引き戻した魂は、二度と帰れない。」


「……数十年後でも?」


「それはわからない。私も試したことがない。」


正直、私自身にも確信はなかった。冥界から魂を呼び戻すことなど、普通の人間には不可能だ。私にできたのは、闇神からの加護と、ロワが教えた方法を賭けたからに過ぎない。成功するかどうかは誰にもわからなかった。


「……実行しろ。」


劫は目を閉じ、覚悟を決めた。


「もし彼女が恨むなら、俺を恨め。全ては俺が守れなかったせいだ。」


(恨むわけないだろうが……)


私は心の中で呟いた。アナと彼の関係は、私とオシアーナにも劣らない。いや、年月を経てさらに深まっていたかもしれない。たとえ守れなかったとしても、彼女は恨みなどしない。アリソンと同じく、最も愛する人を恨むことなどありえない。


もし彼女に意識があるなら、きっと「悲しまないで」と伝えるだろう。


だが、この言葉は口にしなかった。直接会って話すべきことだと思ったからだ。


劫はアナの身体を魔法陣に安置した。私はオシアーナに結界を張らせ、外部の干渉を防いだ。


「陰陽の輪廻を司る無上の神よ、我は闇神の名において汝を召喚す。我が願いを聞き届けたまえ——」


言葉が終わらないうちに、不気味な冷風が周囲を包んだ。


「闇神の継承者、我を呼んだ理由は?」


その存在の出現に、私たちは皆震撼した。何の前触れもなく、気づけば眼前に立っていた。声を発するまで、その存在に気づきさえしなかった。


「我が寿命と引き換えに、この子を蘇らせてください。」


「陰陽を逆転させることは許されぬ。」


(やっぱりな……)


闇神の加護があるからこそ召喚できたのであって、さもなければそもそも応じてもらえなかっただろう。


だが、陰陽の逆転は世界の理に反する。ましてや私のような“偽物”にできるわけがない。これは最初から予想していたことだ。


交渉の基本は、まず過大な要求を突きつけ、段階的に条件を緩和すること。相手は折衷案を受け入れやすくなる。この手はこれまで何度も成功してきた。


だが、それが“本物の神”に通用するかどうか……。


(ダメなら諦めるしかない。殴り倒すわけにもいかん。)


「では……せめて魂だけでも?」


「…………よかろう。」


(効いたか!)


「汝の寿命百年を受け取る。」


死神は謎の素材でできた書物を取り出し、アナの名を探し出して抹消した。


(百年!? そんなに!? ぼったくりだろ!!!)


この要求の異常さに私は内心で叫んだ。私以上に“黒い”存在がいるとは……。さすがに働きアリでもここまで酷使はしない!


幸い、今の私は吸血鬼だ。寿命は少なくとも千年単位で計算される。そうでなければ、これで即死だったろう。


取引が完了すると、死神は何の未練もなく消え去り、アナの魂だけが残された。


「アナ……」


劫は状況を理解していないアナを見つめ、苦悶に満ちた表情を浮かべた。


「二人きりにしとくよ。あとで来るから。」


感動の再会の邪魔をしてはいけない。私はオシアーナの手を引き、その場を離れた。


「百年の寿命……」


オシアーナは私が払った代償に明らかに不満だった。だが、私の決断を止めるつもりはないらしく、ただ小さく呟いた。


「気にしないよ。今の俺、めっちゃ長生きできるから。むしろ長すぎるくらいだ。」


私は彼女の頭を撫でて、意に介さないことを伝えた。


(生きたいとは思うが、ここまで長くは要らんわ……)


オシアーナは生まれつきの長命種だ。彼女にとって千年単位の時間は“短い”のだろう。だが、元人間の私にはまだ感覚が馴染まない。


「次に使うなら、私の寿命を使え。」


「ダメだ。そうしたら、次はない。」


もし何度でも魂を呼び戻せるなら、私は最早死霊術師だ。今回できたのは、闇神の顔を借りたからに過ぎない。死神と取り引きを繰り返すわけにはいかない。


何より、オシアーナの寿命を使ってまでするつもりはない。これが最も重要な点だ。


「これで後は……オシアーナ?」


ふと、周囲の“何か”が消えた気配を感じ、振り向くと——


あの死神が、すぐ背後に立っていた。


「え、何かまだ用が……?」


(まさか百年では足りないとか言い出すなよ? 商売人としてあるまじき行為だぞ!)


「汝…………なぜここに堕ちた?」


「は?」


(何を言ってるんだ? 私に聞いているのか、それとも……ロワに?)


「我が意志にあらず。止むを得ざる状況なり。」


突然、私の口が勝手に動いた。どうやらこれはロワへの問いかけらしい。


(なるほど、こいつとロワは知り合いか……)


別に驚くことでもない。リリスの名を教えてくれたのも彼だった。ただ、ますます疑問が湧く——


(彼は一体何者なんだ?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ