5.スケープゴート
(信じられない)
安斎りあは昨日も思ったが今日も思った。
こんな優しい世界あるわけが無い。
りあは騙されないように心の扉をぎゅっと閉めた。
昨日捕まった子どもたちは、あの後、どうするべきか話し合った。
障がい者が集まるような所で手伝うなんて、よく考えたら危ない。なにさせられるんだろう。でも、食べ物は欲しい。
そう。食べ物は欲しい。
中学生はまともなバイトも出来ない。朝3時の新聞配達なんて、そんなに朝早く起きられるわけがない。
最近の給食はネットニュースにもなったぐらい、ほんとに少ない。あのあと持たせてもらったパンで朝も食べれた。こんなに元気な日は久しぶりだ。
きっとあの女社長は、警官の手前、いい人ぶってあんなにいっぱいくれたのだ。
世の中、そんなに甘くないことを子どもたちはすでに知っていた。
怖い。
話が進まない中、人一倍身長が高い、姉御肌の安斎りあは覚悟を決めた。
「わたし1人で行って、様子を見てくる!」
もらえる食べ物の量は少なくなるだろうが、それでもないよりマシである。
りあは業務員用の扉に向かう。
突然、内側から開いた。
ひぇっ
りあは、すくみ上がってしまった。
店の扉を開けたのは昨日パンをくれた女性だった。
「いらっしゃい。よく来たね。」
梨奈は、気軽な笑顔でりあを出迎えた。
その気軽さで、りあの警戒心が上がっていく。
「迷って帰っちゃったらどうしようかと思って、慌てて開けたんだけど、驚かせたねー。ごめんね。」
どうやら、りあを待ちかまえていたらしい。
そんなにりあに来て欲しいなんて、どんなことをされるんだろう。
りあはもう自分の想像で倒れそうだった。
歩きながら、梨奈はりあに話を聞いていく。
「このお店入ったことある?」
「ありません。」
「障がい者の人と話した事ってある?」
「ありません。」
「そっかー。もしかして、他の子たちはみんな来るの怖がって来なかったの?」
「はい」
「?なんでそんなに怖いの?」
ロッカーの前についた。立ち止まる。
「…………」
どうやら、答えないと、進まないらしい。
「怖いから。」
「普通のドラッグストアだよ?」
「だって障がい者の人が働いてる。」
「…………えー……」
りあの言葉に、梨奈は固まってしまった。
たしかに私たちが学生の頃はそんなことを周りが言ってた気がするが……
そうか、世間はまだそのイメージを持っているのか。
なるほど。それで客が少ないのか。
目の前の小さな先生に梨奈はとっても感心した。
「そうだったんだ。……教えてくれてありがとう。」
微笑んだ梨奈に、今度はりあがびっくりした。
そんな対応は生まれて初めてだった。
「そしたら…………あ、名前教えてもらっていい?」
「りあです。安斎りあ。」
「りあちゃんね。今日1日で、障がい者をどう思ったか、良かったら教えてね。」
そういって、梨奈が開けたロッカーから、りあの人生が飛び出てきた気がした。
……気がしただけで、気のせいなのは、りあが1番よく知っていた。
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