2.ごみ捨て
「志郎さん、どうしたんです?」
鍋島志郎に腕を引っ張られて、山本和弘は困惑しながら歩いていた。ここは日本初、福祉×ドラッグストア「スミヨシ」である。店員である山本和弘は鍋島志郎の介助スタッフでもある。
鍋島志郎は発語がほぼない。知的障害と診断されている。
介助スタッフといっても、和弘が介助することなどほとんどない。基本的に見守りと、発語が難しい志郎に対して、発語を促すことくらいだ。
先ほど、ゴミ出しから帰ってきた志郎が無言で和弘の腕をつかんで引っ張り出した。和弘はまだ志郎の表情を読み取ることが出来ないため、どんな感情かまでは分からない。
しかし、和弘が声を出すと、志郎はしーっと口に手をやった。どうやら、何かが起こっているようだ。出入口にこっそりと置いてある棒を掴み、スマホはいつでも緊急連絡出来るようにしておく。
志郎に促されるように、2人は静かにゴミ捨て場に行く。
次第にガサゴソと袋を漁る音が聞こえてきた。どうやら、ゴミを漁る現場に出くわしたらしい。この辺りはわりと治安がいいのだが……
首だけ覗かせると、何人かの子ども達がゴミを漁っていた。見張り役らしい子まで、ゴミを食い入るように見ている。
服はみんな小綺麗な服を着ているが、よく見れば、みんな身体が細い。ガリガリだ。
和弘は思わずうるっときてしまった。
このまま漁らせてあげたいと和弘は思った。
去ろうとする和弘を見て、志郎は理解できず、ゴミ捨て場を指す。
「行きましょう、志郎さん。ゴミは後でぼくが片付けておきますから」
足を動かさない志郎を、和弘は後ろから押して、その場を後にした。