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勇者の血反吐を見るまでは!  作者: 太陽寺すう
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魔侯・ベラローズ

--旧魔領。

デスザイアァの死後、6国はジャスティア・アール条約に則り、戦争という手段を用いずに、魔皇によって滅ぼされた地域の分配を取り決めた。

その際に、一部開発の余地すら残っていない廃地が所有国保留とされ、「旧魔領」と呼ばれた。

言うなれば魔皇時代の残滓である。

当初まだ魔皇の使い魔は各地に生息していたが、各国は開発のためにこれを駆逐、生き残りの使い魔たちは追われるように旧魔領に集っていった。


そしてこの旧魔領には、魔侯・ベラローズが定住したこともあり、その下で小さな国家のようなものが構築されていた。


木炭と灰を敷き詰めたが如き焼け野原に、それらを固めて築いたような簡易的な砦が建っている。


「人間どもの軍隊がこちらに迫っております。恐らくは、ベラローズ侯のお命が目的かと」


「で、あろうな。しかし、もう退く道はない。生き残る術などもはやないのだ」


ひどく痩せた紫色の身体に、大きく、しかし傷だらけの羽を生やした魔族。

今にも口から魂が抜けていきそうな表情だが、佇まいには僅かに高貴さを残している。

イービルスプラウトの煙草を燻らせ、憂いと共に宙空に煙を上らせると、跪いた魔将に告げた。


「ぬしらも逃げ場など既になかろう。もしこの戦いに勝ったとて、すぐに更なる大軍が攻め寄せおる。ここが我の死に場所であろうな」


「はっ、我ら使い魔、皆お供いたします」


「だが我も魔皇の血族。この首、ただではくれてやらん」


ベラローズ侯は、傍に立て掛けてあった黒い長剣を掴むと、それを杖のようにして立ち上がった。


「蝋燭の火は消える直前に最も燃え盛る。デスザイアァが伯父ベラローズの残火、見せて進ぜる」


北側の塀上に登ると、遠くから迫り来るアール=アライア連邦の一団を一瞥し、城砦の内側に向き直った。


「者どもよ、我ら魔族の時代は終わった。我らは滅びゆくのみである」


決して大音声ではない。

寧ろ低く、しかし腹まで響いてくる魔侯の声であった。


「よき時代であった。あの頃、我ら魔族はこの世界を謳歌した。20年前、力を蓄えた人間が、我らが主を害し、世は変わり果てた。多くの同胞が逝き、我らもまた同じ道を行くであろう」


初めは歩くのがやっとに見えたベラローズであったが、気付くと表情も姿勢も凛とした気高さに覆われ、決意の眼差しは見る者の胸を貫いた。


「だが、座して死を待つか。否!主を失えど我らは魔皇の軍勢。平和慣れした人間どもに、再び恐怖を思い出させてやろうではないか」


沈痛な面持ちで見上げていた中級および上級使い魔、そして魔将たちの眼に、闇黒の炎が灯る。

デスザイアァ万歳、ベラローズ万歳。

言わずとも、聞こえてくるようであった。

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