戦士以外は要らないと追放された『吟遊詩人』、実は世界唯一の『古代魔法』使いにつき〜超強化も天を割る魔法も使い放題、気ままに歌って世界最強!〜
「バード、貴様のような戦士になる気もない奴はこの領地に必要ない! 貴様は勘当だ。毎日毎日下手くそな歌ばかり歌いおって……グランドヒーローは必ず我が領土から輩出するのだ!」
その日、俺は唐突に屋敷を追われる事になった。その屋敷というのが俺、バードの実家……領主の館だ。
俺は大陸最強を誇るスレッド領の次男で、毎日剣の腕やら魔法の勉強をこなしていたが、どれも最低のGランクの技や魔術しか習得できなかったのだ。
だけど、楽器の扱いだけは得意で、よく酒場で歌っていた。それが俺の生きがいだった。
「ははっ! このクソ雑魚がやっと居なくなるのか! 父上、懸命な判断だよ。僕さえいればあのグランドヒーローにだってなれるさ!」
そう言うのは兄のジャック。昔は仲良く遊んでいたけれど……訓練を重ねる毎に会話することも減っていった。きっとジャックも弱い弟が嫌いだったのだろう。
ちなみにグランドヒーローというのはこの世界に住む者みんなの憧れで、西の魔大陸の奥地に居ると云われる魔王を倒せばその称号を得られるらしい。そうなれば世界一の財宝と未知の力、そして皇帝より国王より上……最強の座が得られるのだ。
そこへ、緑のインナーカラーの入ったツインテールの妹、シーシャが口を挟んだ。
「待って下さい。兄さんは確かに戦いこそ向いていませんが、文学や人望もあります。きっと立派な『吟遊詩人』になれるはずです」
「ハッ。吟遊詩人の歌が音痴で話になるかよ。街でも皆言ってるぜ、バードの歌はひどいもんで笑えるってな」
「良いじゃないですか。皆を笑顔にするのも貴族の仕事です。兵達も言ってるじゃないですか。バードの歌を聴くと安心するって。ここの兵士達が元気に仕事できているのも、兄さんの貢献が無いとは言わせませんよ」
そんな物言いに、父さんは机を叩いて起き上がった。
「シーシャ、多少魔法が上手いからっていい気になるでないぞ。そのゴミの味方になるならそれなりの罰則を与える!」
「ええ、ええ結構です! 兄さんはこの領地に絶対に必要な人材です。どうして誰も分からないんですか!?」
シーシャはそう庇ってくれるが、俺はこれ以上家庭内で言い争うのが辛かった。
「いいよ、シーシャ。ありがとな、そこまで言ってくれて。だけど、歌ならどこでも歌えるんだ。無理矢理この屋敷に居座ろうとは思わねえよ」
「兄さん……」
「旅の吟遊詩人だって悪くねえ。じゃあな、あんたらともこれっきりだ。何かあっても、もう戻って来ねえからな」
俺はそう言い残して、荷物をまとめて夕方には屋敷を出た。持って行くのは古ぼけたリュートだけ。こいつは今は亡き母さんから唯一遺されたものだ。
そして夕暮れを目の前にしながら、腰に手を当てて自分の黒髪をかき上げると、奮起するように声を張った。
「そいじゃあ……行くか!」
「はい、兄さん。行きましょう」
「……えーと? 何でお前まで旅の支度をしてるんだ、シーシャ?」
俺が外に出ると、もうそこにはパンパンに物を詰め込んだリュックを背負ったシーシャが立っていた。
「兄さんを追い出すような家には居られません。全く、兄さんがどれだけこの領土に貢献しているかも知らずに……」
「はは、俺なんか音痴な歌を流してるだけの人間だぜ。そんなに買いかぶってくれるなよ」
「いいえ。兄さん自身も分かっていません。自分にどれだけの力があるのか……」
シーシャはやけにそれを主張するが、当人の俺にはさっぱりだった。
だけど、正直嬉しい。たった一人で家を追われるよりは、味方が居てくれたら助かる。
◇
そして、今度こそ王都へ繋がる森の中へ入って数日経った頃の事。
「さて、それじゃ王都あたりで仕事を探して――」
「そこ行くお兄さん方。待ちなよ」
俺にそう声をかけてきたのは、木の枝に座っている藍色の毛並みをした猫型獣人族の少女だった。俺達が立ち止まるのを見ると、優雅な動きでするすると木を降り目の前までやってくる。
「ボクはチェルシー。お兄さん、今日は歌わないのかい? いつも広場でソイツを奏でて歌ってたじゃないか。ボク、あれを聴くが毎日の楽しみだったんだぜ?」
「そりゃ悪い事したな……何、もうあそこじゃ歌えなくなったから別に移るだけだよ。何ならお前も一緒に来るか?」
「ボクはもうそんな歳じゃないよ。でも、そうかい……なら、ちょっとした小話を聞いて行きなよ」
チェルシーは一旦深呼吸すると、まるで俺の歌のようにこんな話をした。
「かつて、音楽に魔力を込めた魔物がいた。笛を吹けばドラゴンを喚び、弦を弾けば全てを壊し、一声鳴けば枯れた大地に豊潤をもたらした。現代では失われた呪文……『古代魔法』だ」
語り終えたチェルシーは一息吐くと俺の目をまっすぐ見つめた。だけど、あり得ない。
「おいおい、まさかそんなバケモノみたいなのが俺だって言わないよな?」
「当然さ。ボクだってそんなバケモノみたいなのが居たらすぐに逃げるよ。だけど……君はその力を少しだけ使えるみたいだ」
「やめやめ、付き合ってらんねえよ。詐欺に引っかかるような性格じゃねえんだ。残念だったな」
そう言って踵を返そうとした俺の手を、シーシャが止めた。
「待って下さい。私、その話にすごく興味があります。もしかしたら、あの謎が解けるかも……」
「おや、お嬢さんは気付いていたかい。あそこの皆は耳が聞こえないのかと思ったよ」
「それはありませんよ。兄さんの歌を聴いて笑顔にならない人はいないです」
何だか二人だけでわかり合ったように笑い、俺は置いてけぼりだった。
「さて、まずは兄さんに信用してもらわなきゃねえ……そうだ。お嬢さん、そのリュートを持ってごらん」
「はい……持ちましたけど」
「これからボクの言う通りに弦を弾くんだ。そこ、こう、そうそう……」
と、俺のリュートで演奏を始めた途端……シーシャはバタリと倒れ込んでしまった。
「シーシャ!? おい、おい!」
「落ち着きな。魔力不足で倒れただけだよ」
「魔力不足って……シーシャの魔力は宮廷魔導師レベルだぞ!?」
「そうだね……丈夫な腕をしていても、逆立ちして全力疾走したら、そりゃ倒れるだろう? 今のはそんな感じだ」
そして、今度はリュートを俺に手渡して「いつもの歌を聴かせておくれよ」と言いのたまった。本心から言えば一発ぶん殴りたい所だったが、ぐっとこらえて弦を弾き始めた。
――昔々の蛇と杖。死人を蘇らせ神に厭われた。それでも病に立ち向かい、彼は地獄へ堕ち……。
「~♪ あいつぁ昔から優しい奴でな。神様なんかよりよっぽど上等なヒーラーだったのさ。そいつが気に食わなかった神ってのは偉いのかねえ」
そこまで歌い上げた所で、ぱちくりとシーシャが目を覚ました。何があったのか覚えていないのか、キョロキョロと周囲を見渡している。
やがて、俺達の姿を見てハッとしたように口を開く。
「私、寝ちゃってました!? すみません……兄さん、弾いてたんですか?」
「ああ、まあ……俺の歌で起きたのか?」
「何だか、白い衣を纏った人が起こしてくれたような……暗闇の中、兄さんの声がする方へ歩いていたら、目覚めました」
これは一体どういうこと……なのかは、これからチェルシーがしてくれるだろう。
「うーん、いつ聞いても笑えるくらい下手くそだねえ」
「うるさいな。聞きたくないなら耳を塞いでな」
「でも、これで分かったんじゃないかい? そのリュートはもはやお嬢さんほどの魔力を持った者でも扱えない。魔力の質が違うんだ。バード、君が使っているのは別の魔法……」
周囲に誰もいないのに、チェルシーはそこで一度呼吸を整えて声を抑えて言った。
――かつて大陸を二つに割ったと云われる『古代魔法』だ。
◇
「古代魔法って……そんなもの扱えるわけないだろ? 冗談言ってくれるなよ」
「いやいや、馬鹿にしたものじゃないぜ。気になるなら、街の人間全員にそのリュートを持たせてみればいい。全員倒れるし全員バードの歌がないと目覚めないだろうぜ」
「そんなもの……」
と、そこでシーシャがぐいっと俺の方へ身を乗り出して離しを遮った。
「いいえ。昔、倉庫整理をしていた私にのし掛かった大型のナタ……あれに足を半分以上切られた時、兄さんの歌を聴いて治った事があるんです」
「……そんな事あったか?」
「兄さんは怪我も気付かず、私が駄々をこねてるように見えたので、元気づけようとしてくれただけかもしれません……ですけど、その時以来、兄さんの歌には何かがあるって思ってたんです」
本当に覚えてないな……というか、子供だったからにしろ馬鹿みたいだな、俺……。
「ほう、既にその頃からそこまでの治癒魔法を……病院の魔法師が聞けば発狂するだろうね」
「だけど、そんな奇跡があちこちで起きてたら俺だって流石におかしいって気付くはずだぜ」
「それはそうさ。、キミは願ったのだろう。領民の健康を。その思いが強化魔法になったというわけだ。奇跡と呼べる現象が起こらなかった理由も説明できるよ。古代魔法に大事なのは呪文でも魔力でもない。イメージだよ。本来、自分の魔力をやりくりするのが魔法だ。だけど、古代魔法は神から力を受け取る。なら、どんな魔法が欲しいかを伝えないといけないだろう?」
それは……確かに、頷けない話でもなかった。つまり、今は……。
「俺が、シーシャを回復させたいと願って歌ったから、こうなったのか?」
「そういうわけさ。その祈りの歌を神様が受け取って、古代魔法が発現したのさ」
「……古代魔法、か」
本当に突拍子もない話だが……シーシャの件がある。シーシャは嘘を吐けない。性格的にだとか性分だとかではなく、本能的に嘘を嫌うのだ。
そのシーシャが言うのだから……本当、なのか?
「ははっ。そうなると、俺の音痴が問題だな。戦闘中に調子外れな歌が聞こえてきたら気が抜けちまう」
「上手く歌えないのも当然さ。そいつは世界中の人間が数百年かけて研究し鍛錬しても口に出すことすらできなかった伝説の呪文。君はそれをいくつも歌えるのだろう? 何百、何千と歌い続けてきたのだろう? 君に足りないのはただ、イメージだけだったんだよ……君は、無能なんかじゃない」
「俺はただ……皆を楽しませたかった。その気持ちは、伝わってたのか?」
「うん。だからこそ、あの領土の民はあんなに強いし元気なんだ。君のおかげだせ、バード。音痴だ何だと嘲られても。自分を貫いたのだろう。ボクはそんな君を心から尊敬しよう」
何故だろう、出会ってすぐのこいつに……そんな事を言われただけで、俺はどうしてかグッときてしまった。
シーシャが付いてきてくれた時とは別の喜び。ああ、見てくれてる人はいるんだ……。そう思うと、心が温かくなった。
「じゃあ、この力は――」
その時、轟音のような叫びが聞こえた。人間やそこらの魔物じゃない、もっと巨大で強大な何か……。
「見て下さい、あれ……ドラゴンです!」
「何っ!?」
叫んだシーシャの指さす先を見てみると……確かにそこには赤い鱗を纏ったドラゴンがスレッド領の方へ飛んでいくのが見えた。
ドラゴンは鱗の色によって強さが変わる。青色が一番弱くて金色が一番強い。緑は下から二番目あたりだ。
もちろん、神話に出てくるような龍なんかとなると話は違うけど……魔物としてのドラゴンは大まかにそう分けられている。
何が言いたいかって? 俺達を追い出した父……あの領主の元へヤバイ魔物が飛んで行ってるって事だ。
「……兄さん、民に罪はありません」
そんな俺の心境を察したように、くいくいとシーシャが服の袖を引っ張る。俺は後ろ頭をガシガシとかいて叫んだ。
「チェルシー、俺はあいつを殺せるか?」
「もちろん、殺意さえあれば君に殺せないものはない」
「なるほど……なら、良いこと考えたぞ」
俺とシーシャはドラゴンの後を追うように急いで駆け出した。
◇
スレッド領では大パニックが起きていた。それはもちろん、ドラゴンの襲来。
だが、いかにグリーンドラゴンと言えど大陸最強を誇るスレッド領ではよく狩られてくるクラスの魔物だ。
問題なのはそこではない、兵や民の攻撃魔法やら弓矢の精度やら呪文の威力……全てが驚くほどに低下していたのだ。
街を破壊しながら火を吹くドラゴンに、ただ逃げることしかできない程に。
「何やってんだよ! Bクラスの魔物なんか、ただの金袋だったろうが!」
「分かってるわよ! 集中が乱れるから黙っててくれない!?」
兵達は必死に戦うが、どうしても力が出ない。民も怯えて避難もままならない状態。
「待たせたねっ!」
そこで、ヒーローの到着だった。短く刈り込んだ金髪で大剣を背中にジャックが現れた。周囲はまだも混乱しているが、どこかほっとしたような表情を見せた。
「僕が来たからにはもう安心だよ! Sランクの魔物と比べればこんなもん……!」
ジャックは両手剣を大ぶりに振り回し、たったそれだけでオリハルコンゴーレムだって真っ二つにする斬撃を放った――はずだった。
「……えっ?」
――GYAAAA!
そこにはまるで無傷のグリーンドラゴンがいた。呆けているジャックに尾を振り回すだけでジャックは軽々と吹き飛びノックアウトされてしまった。
――じゃ、ジャック様がやられた!
――嘘でしょ、ただのBクラス魔物よ!?
その後も兵たちは必死にグリーンドラゴンを食い止めるが、傷一つ与えるには至らなかった。
「うぐっ……!」
「だめ、無理だ! 何だこいつ、変異種か何かか!?」
「どこを見ればそうなるんだよ、ただのグリーンドラゴンだ! 異常なのは俺たちの方……!」
バタリ、バタリと一人ずつ倒れていき……もはや、戦える者は残っていなかった。
大陸最強を誇った領地が、Bクラス魔物なんかに滅ぼされるなんて……そう誰もが嘆いた時、空気に沿わない飄々とした声が皆の耳に入ってきた。
「魔物さん、一曲聴いていきなよ」
同時に、グリーンドラゴンを上空へ放り投げるように氷の柱が現れた。周囲の建物よりも高く上った後、調子外れな歌が聞こえてきた。
――彼の者はただ一人で剣を打ち、襲い来る魔物を皆打ち倒し、汗と血が染み込んだボロボロの剣を神剣と人は呼んだ。神もまた、それを認めたのさ。
「~♪ 俺はあいつの事はよく知らねえが、えらく努力家だったらしい。一本の刃も極めりゃ拝まれるようになるんだな」
たった数分の歌。酒場でずっと歌われる英雄の唄だ。だが、それだけで……地の底からせり上がってきたような光り輝く巨大な剣がグリーンドラゴンを貫いた。
――ドゴォン!!
それだけに収まらず、グリーンドラゴンを空高くまで打ち上げて、大爆発を起こした。
相当な高さで爆破したはずなのに、その爆風に人々はなぎ倒され、聞いた者は二度と忘れられないであろう轟音がした。
「おい、見てみろよ……空が」
今もまだ歌い続けるバードの歌により力を取り戻した民が見たものは……。
「空が、割れてやがるっ……!」
天を真っ二つに切り裂いたような跡。太陽さえも割れたのではないかと錯覚するほどに。
「へえ、これが古代魔法……あいつを殺したいって思い歌うだけでこうなるのか……」
そんなことをやらかした張本人はまるで他人事のように自ら持ったリュートをまじまじと眺めていた。
――バード様だ……バード様が空を割ったのか!?
――あの刃も纏ってた感じたこともない魔力……今も、バード様から感じる。すげえ、すげえよ! バード様ってこんなに強かったんだ!
――普段はあんなに風来坊みたいにしてるのに……最近、彼の歌を聴かなくなってから元気も出なかったのよね……でも、これでスレッド領も安泰ね!
そんな歓声の中、バードとシーシャに近づいてくる男がいた。領主だ。そして、両手を広げて声を大にして民衆の前で言う。
「素晴らしい、バードよ。これだけの力を持っていたとは……これからも是非、スレッド領のさらなる発展を目指そう!」
「……あんたには、聞かせる歌もねえよ。俺とあんたはもう他人同士なんだろ? 俺を追放したのはあんただぜ」
それを聞いて、ざわつく領民。今の一戦で皆わかったはずだ。バードの持つ何かしらの力がなければ、自分たちはBクラス魔物にも勝てないのだと。
それなのに、そんな人材を追放した……? そんな怪訝な目線が領主に集まる。領主は脂汗をかきながら、言葉を続けた。
「あんなもの、一時の冗談ではないか。いや、そうだ。お前を奮起させるために言ったに過ぎない。あんな魔法を放てるのなら、いくらでも……」
領主は必死に言い訳を並べるが、それを見つめるバードとシーシャの目は冷たかった。
「あんた、それでも最強領土の領主なのか? ま、俺はあんたの言いつけ通り、俺は出て行くよ。そして、二度と戻らねえ。そういう約束だったろ?」
きっぱりと、そう言い切った。その瞬間の領主の絶望を映したような表情はひどく間抜けに見えた。
――何だって……バード様を追放?
――血が繋がった子供をよくも……しかも、こんなにすごい人なのに!
――俺なんか、冒険帰りにあいつの歌を聴きながら飲む酒が好きだったんだぜ。
今まで、ただの音痴な吟遊詩人の昼行灯だと言われていたバードの評価が、完全に逆転した今、負の感情は全てたった一人……領主に向けられていた。
「ま、待ってくれ! お前に出て行かれたら……いや、そうだ。こんな事ができるなら先に……!」
「言ったはずですよ、お父様。兄さんはこの領地に絶対に必要だと。それを無視したのは貴方でしょう。もう何を言っても無駄です。兄さんの力が無くても、熟練の戦士が集うここならやっていける事でしょう……もっとも、無茶な内政をしてる領主様は知りませんが」
へなへなと倒れ込む領主……ボロボロになった兵や民から向けられる視線に耐えきれないように頭を抱えてへたり込んだ。
「んじゃ、行くか……ああ、まあ……俺の歌を聴いてくれてた皆に恩返ししとくか」
バードはリュートを奏で、童謡を歌いながら領民の傷を癒やし体力を回復させていく。しかし、歩く先は領地の外へだった。
「もう良いんですか? ジャック兄さんにもお父様にも何でも言えますよ?」
「俺は吟遊詩人。やべえ魔物をぶっ倒して皆を元気付ける歌を歌って、下手くそだと笑われながら去って行く。そのくらいがちょうど良いんだよ。別に、いちいちその歌に古代魔法の効果があるなんて知られなくていい」
バードはそう告げると、おそらくこの騒ぎを聞きつけてきたのだろう乗り継ぎ馬車に乗り込んだ。シーシャが本当にバードを慕っていた理由は……古代魔法でもなく歌だけでもなく、その心意気だった。
「それじゃ帝都にでも行きますか? 私はどこまでも兄さんについて行きますよ」
「そうだな……旅をするにも拠点は欲しい。帝都ならいくらでも仕事はあるだろ」
そして二人は領土を去って行った。後にバードが伝説の吟遊詩人と謳われるのは、もう少し先の話……。
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