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とある世界の覆盆話  作者:
勇者様の女遊びが回り回って、元夫への仕返しに繋がりました
3/5

前編:元妻視点

タイトル通り、前話の派生エピソードとなります。三話完結。

サリナやレットも地味に登場。


子供がいないことや不妊に関して因縁をつけられるような場面があるので、不快な方はリターンバック推奨です。

「あの、よろしければその件、私に受けさせてもらえませんか?」


 軽く挙手して申し出れば、ある「緊急の依頼」に頭を抱える勢いで悩んでいた、職場の先輩にして冒険者ギルドの看板娘サリナさんは、いつもの鉄壁の笑顔をどこかにやってしまったらしく、綺麗な目を何度もぱちくりと瞬きさせる。


「……えっ? で、でも。失礼ですけどティルカさんは確か、結婚経験がありましたよね? その、ご存知でしょうけど、()()()()()は──」

「はい。でも、婚儀の夜から離婚当日まで徹頭徹尾、完全無比に名ばかりの夫婦生活でしたから」

「ええええええ!?」


 事実を言っただけなのに、オーバーすぎるのではと思うくらい驚かれてしまう。


 とりあえず依頼内容に関わるからと、防音設備付きの個室に移動した上で、話を続けることになった。


「……大声を上げてごめんなさい。でも、こんなに可愛らしいティルカさんを妻にしておきながら……すみませんがその元夫さん、頭か体のどちらかに大問題があったんじゃ? あるいは同性愛者だったとか。それなら責められませんけど」

「サリナ。それはちょっと勘繰りすぎだよ」


 真顔で訊ねてくるサリナさんを軽く(たしな)めたのは、冒険者兼彼女の恋人のレットさん。依頼主から手紙を預かってきた当人であり、今回の「緊急の依頼」に深く関係する()()()()()の保護施設まで、参加者の送迎と護衛を務めてくれるうちの一人でもある。

 その施設は王家直轄地域にあり、保護対象が伝説級の存在なので、施設の正確な場所は本来、部外者が知ることは許されない。そんな場所へ近づくことを許可されているのだから、レットさんたち護衛のメンバーへの王家の信用は絶大だということだ。


「ええと、そういうわけでは多分なくて。実は彼には、結婚前からの深く真剣なお付き合いの恋人──従業員の女性がいて、いわゆる『白い結婚』を三年間、強要されることになったんです」

「あー……なるほど。何で普通にそっちと結婚しないのか、襟首ひっ掴んで問い詰めてやりたくなるケースですね?」

「ええ、まあ。とは言え、私としても彼に普通以上の好意があったわけでもないので、それだけなら気楽でよかったんですけど。事情を何も知らない彼の両親からのプレッシャーもありまして……」

「「ああ……」」


 カップルお二人の声が綺麗にハモった。冒険者や彼らの集まるギルドの職員として、家庭内のいさかいやトラブルに関する話はよく耳にするのだろう。

 その安心感からか、私はつい一ヶ月前、元夫とその両親から離婚を宣告された時のことをすらすらと話し始めた。




『三年経っても孫を産めないだけでなく、金づるにもならん嫁などもう要らん』

『気前よく援助してくださったご両親も不幸な事故で亡くなられて、後を継がれた弟さんは、とてもケチ……いえ、財布の紐も頭も固い方ですものねえ。正直、親戚として付き合うには厄介と言うか……』

『そういうわけだから、今月中にはこの家を出ていってくれ。慰謝料は請求しないから感謝するんだな』


 ……慰謝料も何も。

 結婚初夜から素肌に触れてくることさえなかったのに、どうすれば孫を身籠ることができたというのか、よろしければ是非とも教えていただきたいところだ。

 まあ、別に恋愛結婚でもなかったし、そもそものお見合いは、夫の両親が、実家の財力と商人同士の付き合いを目当てに申し込んできたという、完全に欲得ずくの代物。

 いくら結婚自体が不本意であれ、彼だって実家からの援助を素直に受け入れていた立場なのだから、夫婦関係は結ばないにしても、せめて同居人としてのごく一般的な友好関係を築く努力くらいはすべきだったはず。なのに、その程度のことすらまともにしようとしなかった相手に対する情などは、とうの昔に尽き果てている。そんなわけで離縁そのものは願ったり叶ったりだから、迂闊なことは言わないけれど。

 むしろ慰謝料と言うなら、本来はこちらががっぽりゲットできる案件だ。とは言え、軽く一年は遊んで暮らせるだけの額を一括払いできるほど、この家の羽振りがいいはずがないのは分かりきっているので、変にこだわって長々と関わりを続けるよりも、面倒な縁はここですっぱりと切っておきたい。そもそも彼らからは最終的に、きっちり全額を得られるかさえ怪しいのだし。

 昼日中からの夫と愛人との情事を何度も目撃していた、数少ない有能な従業員たちは、既に彼ら一家には愛想を尽かしているので、私が出ていくのと同時に退職し、弟夫婦が営む実家の商会に転職する予定だから、それを慰謝料代わりと考えることにしよう。

 問題は私個人の今後だ。このまま出戻って冷飯食いの立場になるのは弟夫婦に申し訳ないので、何とか自立して職を見つけたいと思う。


 そんなことを考えながら、私は物の少ない自室で荷物の整理にかかった。

 途中、暇なのか元夫がわざわざ顔を出してきて、何やらぐだぐだと難癖をつけて来るものの、その程度は右から左。三年間で培われたスルースキルをここぞとばかりにフル活用しつつ、手を止めることなく作業終了。

 どうせこの部屋は間もなく、結婚前からの元夫の愛人が好き放題に使うことになるのだろう。別にいい思い出もないので、さっさと部屋と家を後にした。


『ふん。三年間を一つ屋根の下で暮らした相手に、ただ挨拶の一言だけでさよならか。薄情な女だ』


 聞こえよがしの意味不明なつぶやきも当然スルー。一体何を期待していたんだろうか、彼は。




「そういうわけで晴れて独身になり、その日はひとまず宿屋に泊まりまして。翌朝登録した職業斡旋所から、ここでの事務仕事を紹介されたわけです」

「それが一ヶ月前の話ですか……何と言うか、三年に渡るろくでもない男との生活、本当にお疲れ様でした」

「お気遣いありがとうございます。それで、私でもそのお仕事は大丈夫でしょうか?」

「ええ、問題ないかと。こんな言い方も良くないですけど、そんな生活をしていたことを周囲にしっかりと隠せていたのは、対外的な口の固さや振る舞い方がきちんとしていたということですし。……ただ私としては、せっかく仲良くなれそうだった、年の近い同性の同僚がいなくなるのは寂しくなります」


 サリナさんにとても嬉しいことを言われ、照れくささとくすぐったさを覚えてついつい笑ってしまった。

 そんな私を見て、サリナさんは何故かその場に突っ伏してしまう。


「ああもう、本当にティルカさんは可愛い! だからこそ残念すぎるわ! あんまりにも度が過ぎたあの女好きが、本来ユニコーンの世話係になるはずだった女性に手を出したりなんかするからこんなことに!」

「それも、一人だけじゃなくて複数、中には地方貴族の令嬢もいたからね……他の女性たちのこともあって、流石の陛下も、魔王討伐の誉れを取り消す勢いで激怒なさったと、王女様とシリウスさんが仰っていたよ」


 それは確かに怒るに違いない。

 ……しかし、『魔王討伐の誉れを取り消す』って……つまりそれは、英雄であるはずの勇者様が色々とやらかしまくったということで。


「……ええと。今のは聞かなかったことにしておきますけど……お二人は、勇者様とは親しくされていたんですか?」

「と言うより、私も彼から軽い被害を受けたってだけなので。一応、恋人ってことになってはいたんですけどね」


 さらっと事も無げに答えてくれたサリナさんに、こちらが恐縮してしまう。


「それは……余計なことを聞いてしまってすみません。ろくでもない男性って、わりとあちこちにいるものなんですね。ああ、勿論そうじゃない人がほとんどなのは分かっているつもりですが」


 誤解を招いたかもしれないと慌てて付け加えれば、この場で唯一の男性であるレットさんは、分かっているとばかりに優しく微笑んでくれた。……その顔を見て、ちょっぴりサリナさんが羨ましくなったのはここだけの秘密。


「でも、ティルカさんの元夫の愛人や母親みたいに、ろくでもない女性もそれなりに存在しますよ。ただ、ティルカさんが実り皆無な結婚から抜け出せた原因でもありますから、怪我の功名みたいなものでしょうけど。

 さて、それはそれとして本題に入りますか。改めて説明しますね。今回の依頼は、国営の保護施設におけるユニコーンの世話係で──」


 例によってとても聞き心地のいい頭に入りやすい声で、サリナさんの説明が流れるように紡がれていく。

 途中と言うか最後の方で、予想外のことを聞かされてついつい顔を赤らめてしまい、サリナさんにまで赤面が伝染してしまったりもしたけれど、よく考えれば別に悪い話でもないので、依頼から手を引く理由にはならなかった。


 そういうわけでとんとん拍子に話が進み、その三日後からお世話に向けての研修が開始されたのだった。




 ……研修終了後、お世話相手として引き合わされたユニコーンの一頭にびっくりするほど懐かれてしまい、やがて彼に(つがい)認定をされて、可愛い角のついた赤子を産むことになるのはそう遠くない未来の話。


ティルカ視点はここまで。残りは元夫視点となります。


この世界では、ユニコーンやドラゴンのような高い魔力持ちの幻獣は、人型に姿を変えて他種族(人間や亜人)との繁殖行為が可能という設定です。ただし相手は番限定。

なお、もともと本来の姿に近い一般動物なら(ユニコーンなら馬)、変身の必要もなく子供を作れたりも。同族同士の純血よりも他種族ハーフの方が、受胎率の関係で数が多いです。

生まれた時は母体に似た外見のハーフですが、生後一年ほどからどちらかの種族に性質が寄っていきます。ティルカの最初の子は分かりやすくユニコーン側で、十五年くらいでほぼ完全に一角獣化します(変身は可能)。

確率としては、ハーフは八〜九割が非幻獣寄り。姿形は幻獣ではない方の親の種族と同じになりますが、軽いチートがつきます。

人間寄りハーフの場合、見た目と寿命はほぼ人間ながら、身体能力や魔力は桁外れ。なので魔術師や騎士、冒険者等の特殊な職業につく傾向にあります。……そうすると、レットあたりは実は、人外とのハーフだったりするのかも?

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