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ベタな死に方と異世界転生

「■◆◇〇〇〇〇〇!!!!」

 ふと目を開けると、目の前の女がわけのわからない言葉でしきりに何か叫んでいる。どうやらあのコンサルタントとかいうやつが言っていた転生というのは成功したらしい。町の通りのど真ん中にいきなり放り出されたようだがまあ許してやろう。

 それにしても前の女がうるさい。だんだんと人も集まってくるし、そいつらの遠慮のない視線が地味に痛い。それに、どこか体に違和感を覚える。体が妙に軽いのである。そして気づく、自分が全裸で繁華街のど真ん中で立ち尽くしていることに________


 人の死というのは、思っていたよりも何倍も唐突に訪れる。20の時から無職引きこもり生活を始めて早二年。食料の買い出しに外に出たわけだが、どうやら信号に気づかずそのまま渡ろうとしていたところを車にはねられたらしい。社会不適合者の最後にしてはべたべたな展開には感心すらする。よくいわれる走馬灯とかフラッシュバックとか後悔とか懺悔とかは全く浮かばなかった。そんなもんは全部置き去りして、意識する間もなく一瞬のうちに過ぎ去ってしまったようだ。じゃあなんでこんなことを考えることができているのかというと、俺にもよくわかっていない。

 

ついさっき目を覚まし、ふとそんなことを考えたわけだが、どうやらここは古い小部屋のようである。あたりを見渡す限りでは、ちょうどカトリックの教会にありそうな懺悔室のようである。四方を木の壁に囲まれ、真ん中に机と二つの椅子が対面するように並べられているだけのこの部屋ではどこか息苦しさを感じる。壁にはドアもあるのだが、ドアノブはいくらひねっても手ごたえがなく、こぶしを握りドンドンと叩いてみる。


「いやー災難でしたねー」

「ぎゃああああああああああああ!!」

 

 声に驚き、声がした机の方を振り向く。するとそこには、髪の長い、白衣を着た女が椅子に腰かけていた。


「まあ、災難だったのはドライバーさんもですよねぇ、信号無視した歩行者轢いてそのまま死なれたんですからー あっはっはっはっは!!」

「誰だよお前!」

「私はこういうものでして」


 すると、白衣の彼女は名刺のようなものを取り出し自己紹介を始めた。


「わたくしは、死者向け異世界コンサルタントを務めているものです。サクラと申します、どうかよろしくお願いします。」


 先ほどの驚きからまだ平常心を取り戻せていないが、改めて観察してみると、なかなかに目を引く容姿をしている。腰よりやや高い位置まで下した黒髪に白い白衣がよく映えている。顔つきから察するに、年齢は二十代前半ほどだろうか。やや釣り目で切れ長の瞳からは大人らしさをうかがわせるが、所作やしゃべり方からは若さを感じさせる。同年代らしい見た目はある程度の落ち着きを取り戻させるには十分だった。


「で、ここはどこでお前は誰なんだよ、俺はお前も知っての通り車に轢かれて死んだはずだ!」

「ですから、先ほども申し上げましたが、わたくしは死者の異世界転生手続きを執り行うコンサルタントでございまーす」

「はぁぁ?」

「あなたも耳にしたことはあるでしょう、今流行りの異世界転生ですよ! 現世でなぜこの概念が成立したのかは謎ですが、あれは死後の世界としてはごくありふれたものなんですよねー」

「じゃあなにか、俺もこれから異世界転生するっていうのか?」

「その通りです! 話が早くて助かりますねぇ、そして死んだ人間がどの異世界に転生するのがいいかコンサルティングするのが私の仕事ってわけですよ」


 その後も、白衣の女はごちゃごちゃと説明を続けたが内心ではこれ以上ないくらい喜んでいた。正直半信半疑、怪しさはかなりあるがそれでも異世界転生という言葉の前にはそれらがかすむのである。俺が生きていた世界における異世界転生とは、まさに男の夢。ファンタジーな世界観で、時に敵を討伐し己を高め、時に悠々自適なスローライフを送り、時に女の子に囲まれムフフな生活を送ったりとまさに理想郷である。しょうもない人生を送り、しょうもない死に方をした俺だが、こんなことがおこるなら許してやろう。

 心にあるワクワクを漏らさないようにサクラとかいう女に聞いてみる。


「で、俺はどんな異世界に転生できるんだ?」

「そうですねー、基本的に望まぬ死に方をした人間は、理想を教えてくれればそれに近い異世界に転生できますよ」

「本当か!!」

「ただ、それだとコンサルタントの意味がないので、そこにその人自身の生前の思いなども考慮されますかねぇ。あと理想にも限界はありますね、その辺は前世の徳とかその辺が影響してきます」

「じゃあ、お前のコンサルティング的にはどんな異世界が俺に合うんだよ?」

「あなたは死ぬ直前酷く落胆されていますね、特に自分の死にざまについて。手垢にまみれたべたべたな死に嫌気を感じていたみたいです」


 そりゃあそうだ。無職引きこもりが外に出たらいきなり車に轢かれて即死亡だ。ベタだし、あまりにやりきれなすぎる。


「そんなあなたにぴったりの異世界がありますよ!基本的にはよくある異世界転生ってな具合かもしれませんが、転生者を未知の世界を見せてくれること間違いなし!!ぜひここにしましょ、ねっねっ!」


 どうにも態度がおかしい。なんだか無理やり決めさせようとしている雰囲気すら感じる。


「お前、なんか押し付けようとしてないか?」

「そんなことないですよ、飽きさせないこと間違いなしですって!」

「いや、断る。俺はもっと普通に異世界を楽しみたいの!もっと別の世界を紹介しろって」


 するとサクラは渋々といったかたちで説明を始めた


「はぁ~仕方ないですね…説明して差し上げます。いいですか、はっきり言ってあなたレベルの人間に紹介できる異世界なんてほとんどないんですよ!!この無職の引きこもりが!」


 突然の豹変っぷりに怒りよりも驚きが勝つ。美人にすごまれるという経験は生前もしたことがなかったがなかなか迫力があるものである。


「ふっ、ふざけんなよ!俺だって死にたくて死んだわけじゃないんだよ!」

「信号無視で死んだんだから自業自得ですよ!それにさっきも言いましたがどのみちあなたの生前の行いで紹介できる異世界なんて限られているんですよ!諦めてください!」


 そしてすこし口調を和らげてサクラは説明を続ける。


「それに、この世界はほかのあなたに紹介できる異世界に比べたらだいぶましですよ。少し一般的な異世界とは異なる点もありますが他はほとんど一緒ですしなんならチート能力も付きますよ?」


 チート能力、その言葉に耳を失う。異世界転生といえばチート、チートといえば異世界転生、それぐらいこの二つは同列に語られるものであり、また異世界転生にはなくてはならない要素でもある。

 正直めちゃくちゃほしい。


「これでファンタジーも思いのままですよ?戦闘で無双するもよし、ハーレムつくるもよし、ちょっと世界があれでもいいじゃないですかぁ}

「……………………………………」

 

 まんまと口車に乗せられている気もするが仕方ない。実際、異世界転生ができてチート能力もあるなら十分だろう。


「よしのった!じゃあその異世界に連れてってくれ}

「ほんとですか!いやーよかったよかった、これでコンサルティング契約成功ですねー。」


 早速、サクラに転生の仕方を尋ねる。


「で、俺はどうすればいいんだ?」

「それじゃあ、この椅子に座ったまま目を閉じてください。絶対に開けちゃだめですよ、まぁ意識がなくなってそんなことできませんけど」


 いわれるまま椅子に座り、目を閉じる。なんやかんやあったが、いざ異世界転生だ。胸の鼓動もだんだんと高まりをみせる。


「それじゃぁいきますよー。あなたはだんだん眠くなーる、眠くな______


 こうして俺は再び意識を手放した。

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