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整理番号 新A73:閉塞を確保せよ!

 それは、ある夜のことだった。 




 サウスサンロード鉄道本線下り終車第3321列車は、始発のサンクトル駅を五分遅れて発車した。これは第3321列車が終車、すなわち最終列車であったことによる。

 この列車は、帝都議会での会議が長引いてしまった貴族数名を待ち合わせるために、ダイヤを変更して発車を遅らせたのだ。


 余談であるが、この列車の主な乗客はバラドクス・エリコンとカトチス・ブリルである。


 バラドクス・エリコンはサンロード皇国の王令審議会(日本における国会に相当)の議長である。そして彼の属するエリコン伯爵家はエスパノ公爵家と同じく、ボフォース大公家の系譜に連なる、この国の最重要貴族のひとつであった。


 カトチス・ブリルはこのサウスサンロード鉄道の所有者である。彼は遅くまで鉄道に関する庶務を執り行ったあと、最終列車である第3321列車で帰宅する。


 この日は第3321列車がバラドクスを待ち合わせる為に遅れる関係上、カトチスは第3321列車が本来走るはずのダイヤで走行する列車を仕立て、その列車で帰宅した。

 その列車は便宜上、臨時第0001列車とされた。



 さて、この第3321列車は終車ではあるのだが、それはあくまでも旅客扱い上での話である。

 貨物第40404列車。実際上はこの貨物列車が最終列車である。

 平時には、この列車は第3321列車の五分後ろを走行するはずであった。


 しかしながら、第3321列車が五分遅れての発車となることから、第40404列車は先行して発車することとなった。


 この日の発車の順序はサンクトル駅基準でこうである。


 臨時第0001列車(所定第3321列車ダイヤ)

 第40404列車(所定より数分前倒し)

 第3321列車(所定より五分遅れ)




 さて、サウスサンロード本線の帝都サンクトル側においては、起点サンクトルを出ると次はベス(サンクトル)、タブリン、そしてシロッコとなる。

 本線はこの区間において複線であり、上下線が別々の線路を走る。


 この時、各駅間に進入出来る列車は一列車のみと決まっている。

 例えば、平時において、3321列車がサンクトル~ベス間を走行しているとき、40404列車は同区間に進入することができない。


 3321列車がベスを通過すると、ベス駅からサンクトル駅に伝話連絡が行われ、40404列車に出発合図が成されるという仕組みになっている。


 これを徹底することによって、例えば速度の遅い列車が速い列車に追突される、などということを防いでいるわけである。


 これはダイヤグラムが流行する前から、サウスサンロード鉄道にて脈々と受け継がれてきた伝統ある手法である。

 この方法を使えば、事故は起きないはずであった。


 しかし、それは起こってしまった。




  ベス駅では駅員であるステバンがプラットホームに立っている。これは通過する列車に対し信号を送るためでもあり、列車の通過を確認して隣駅と連絡を取り合うためでもある。


 さて、この時臨時第0001列車が通過した。


 次の駅であるタブリン駅からは先行列車がもうすでに進発しているという報告を受けている。よって規則によれば臨時第0001列車はこの先の区間に進入できることになるため、駅員は臨時第0001列車に向けて通過ヨシの合図である青色の信号を送った。


 列車が通過すると、駅員は「ベス駅列車通過、後続通過用意ヨシ」とサンクトル駅に向けて通告する。


 しばらくすると、ダイヤグラム上の最終列車である第40404列車がやってきた。


 暗闇の向こうに、40404列車の先頭機関車が発するヘッドライトの灯りがうごめく。


 しかし、タブリン駅からは通過用意ヨシの連絡がないため、駅員は黄色の灯火を掲げた。これは、駅への進入を許すものの次の区間への進入は許されていないことを示す合図である。


 40404列車は速度を落として駅に進入する。すると、その途中でタブリン駅から通過用意ヨシの連絡が入る。


 駅員は40404列車に対し、青色の灯火を示した。40404列車機関士はそれを認めると、駅を通過するために速度を上げた。

 列車はそのままゆっくりと、ベス駅を通過した。


「40404列車通過、業務終了」


 駅員であるステバンはそう歓呼を行うと駅舎に戻る。そして駅舎の灯りを消し、帰り支度を始めた。


 その時、汽笛の音がした。ステバン駅員は慌ててホーム上へ駆け上がる。すると、第3321列車が駅を通過していた。

 ステバンは慌てて赤色の灯火、すなわち列車を緊急に停止させるための合図を送るが、しかしそれは機関士には届かない。

 第3321列車はベス駅を颯爽と通過してしまった。


 ステバン駅員は異常を認め、直ちに次駅であるタブリン駅に連絡をした。タブリン駅では40404列車の次に遅れている3321列車が存在するということを確認し、3321列車に対し停止信号を送るつもりであった。


 しかしそれは間に合わなかった。


 ステバン駅北方で大きな金属音が鳴り響く。ステバン駅員は急いで現場へ向かうと、そこには無残にも破壊された列車が横たわっていた。




 第3321列車は、第40404列車に追突。列車は大きく衝撃し、脱線。


 バラドクス・エリコンは心肺停止の状態で発見され、その後サンクトル中央病院にて死亡が確認された。

 最終的に三十九名が負傷、五名が死亡。サウスサンロード鉄道としては有数の大事故となった。




【事故概要】 調査報告書A-112番


 事象:第40404列車と第3321列車が追突、脱線。

 関係列車

  第40404列車:第二号機関車けん引、貨車十五両

  第3321列車:第一号機関車けん引、客車三両


 備考:第3321列車と第40404列車は運転順序を変更して運転していた。

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