整理番号 新A72:日本人組合の野望
「さて、そろそろ本題に入ろう」
日下はそう言った。
「本題とはすなわち、我々の計画についてだ。我々サンロード日本人組合―――サ日組―――は、この世界に大いなる計画を立てている」
「計画? それはなんだ」
「この世界に、日本人町を作ることさ」
日本人町。
それは朱印船貿易の時代、世界各地に散らばった日本人たちが、生きるために身を寄せ合って出来た街だ。アユタヤやビルマなどに、多数の日本人町が興り、鎖国政策によって帰れなくなった日本人たちを救った。
それは東南亜のみならず、西はスペイン、東は米国にまで至った。
そして開国の時代においては、ハワイ、サンパウロへと日本人は海を越えて渡った。彼らはそこで、日本人町を作った。
その最たるものが、米国のリトル・トウキョーである。
彼は、それをこの地に作ろうというのである。
「ここに、街を」
「そうだ。ここにアユタヤやリトル・トーキョーのような立派な日本人町を創るんだ」
素晴らしいだろう、と彼は言った。しかし、エドワードはつい口をついて疑問を呈してしまった。
「この四人のための、か?」
驚いた顔のエドワードに、日下は人差し指を立てた。
「君の認識には二つの間違いがある。一つは、君を入れて五人だ。そしてもう一つ、我々は五人だけではない」
そして日下は、それを今日確信したというのである。ハテナを掲げるエドワードに、日下は極めて簡潔に言い放った。
「我々は今日、君という新しい仲間に出会えた。ということはつまり、この世界にはまだ出会えていない邦人がいるはずじゃないか」
エドワードはハッとした。エドワードはここに至って、四人しか、ではなく、四人もと捉えるべきであったことを思い出した。
なぜならここは地球の僻地ではなく、一度死した者が至れる異界の地であるからだ。
「我々のようにやってきたものが、他にもいるはずだと。あなたはそう考える」
「いかにも。そして、そんな彼らのためにも、我々は日本人町を作り、彼らの受け皿とならねばならない」
日下はそう言った。
「まるであなたは政治家だ」
「いかにも、私は政治家だ。市民のためなら、なんだってやる」
「ああ、そうだった」
エドワードは納得した。そして同時に、彼らの想いに答えてやらなければならない気がした。それは、彼らに救われた自分の、ある意味での恩返しのようなものであった。
「私の名前は御岳篤志。江戸で生まれ、国鉄機関士として生涯を閉じた」
御岳はそう言うと、深々と頭を下げた。
「これから、よろしく頼む」
御岳は決意した。彼らの助けになることを。彼らの仲間として、同じ境遇にあるまだ見ぬ誰かを助けることを。
「よろしくお願いします!」
田中が勢い良く頭を下げた。御岳はそんな彼に手を差し出した。
田中はその手を取って、しっかりと握り返した。




