表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/78

整理番号 新A72:日本人組合の野望

「さて、そろそろ本題に入ろう」


 日下はそう言った。


「本題とはすなわち、我々の計画についてだ。我々サンロード日本人組合―――サ日組(サニッソ)―――は、この世界に大いなる計画を立てている」


「計画? それはなんだ」


「この世界に、日本人町を作ることさ」


 日本人町。


 それは朱印船貿易の時代、世界各地に散らばった日本人たちが、生きるために身を寄せ合って出来た街だ。アユタヤやビルマなどに、多数の日本人町が興り、鎖国政策によって帰れなくなった日本人たちを救った。


 それは東南亜のみならず、西はスペイン、東は米国にまで至った。


 そして開国の時代においては、ハワイ、サンパウロへと日本人は海を越えて渡った。彼らはそこで、日本人町を作った。


 その最たるものが、米国のリトル・トウキョーである。


 彼は、それをこの地に作ろうというのである。


「ここに、街を」


「そうだ。ここにアユタヤやリトル・トーキョーのような立派な日本人町を創るんだ」


 素晴らしいだろう、と彼は言った。しかし、エドワードはつい口をついて疑問を呈してしまった。


「この四人のための、か?」


 驚いた顔のエドワードに、日下は人差し指を立てた。


「君の認識には二つの間違いがある。一つは、君を入れて五人だ。そしてもう一つ、我々は五人だけではない」


 そして日下は、それを今日確信したというのである。ハテナを掲げるエドワードに、日下は極めて簡潔に言い放った。


「我々は今日、君という新しい仲間に出会えた。ということはつまり、この世界にはまだ出会えていない邦人がいるはずじゃないか」


 エドワードはハッとした。エドワードはここに至って、四人しか、ではなく、四人もと捉えるべきであったことを思い出した。

 なぜならここは地球の僻地ではなく、一度死した者が至れる異界の地であるからだ。


「我々のようにやってきたものが、他にもいるはずだと。あなたはそう考える」


「いかにも。そして、そんな彼らのためにも、我々は日本人町を作り、彼らの受け皿とならねばならない」


 日下はそう言った。


「まるであなたは政治家だ」


「いかにも、私は政治家だ。市民のためなら、なんだってやる」


「ああ、そうだった」


 エドワードは納得した。そして同時に、彼らの想いに答えてやらなければならない気がした。それは、彼らに救われた自分の、ある意味での恩返しのようなものであった。


「私の名前は御岳篤志。江戸で生まれ、国鉄機関士として生涯を閉じた」


 御岳はそう言うと、深々と頭を下げた。


「これから、よろしく頼む」


 御岳は決意した。彼らの助けになることを。彼らの仲間として、同じ境遇にあるまだ見ぬ誰かを助けることを。


「よろしくお願いします!」


 田中が勢い良く頭を下げた。御岳はそんな彼に手を差し出した。


 田中はその手を取って、しっかりと握り返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ