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整理番号 新A68:異世界盆踊り(Ver.丸の内)

 パーチーというものは、社交を楽しみにしているものでなければずいぶんと退屈なものだ。

 と、エドワードは目の前の状況を見ながら思うわけである。


「いやに場内が明るい。目がちかちかする」


 魔法石で作られたランプは、エドワードの目には明るすぎた。エドワードはこっそり、その場を抜けようとする。と、その時、貴族の一人に声をかけられた。


「エドワード閣下ですな。ラッセル家の」


 その男は嫌味な笑みを浮かべて、エドワードの手を引いた。


「今からはダンスの時間です。どうぞ踊っていってください」


 横の女も、そんなことを言い出す。エドワードはきわめて不愉快だった。


「私はそう言うのは心得ていない」


「またまた、ご冗談を。あなたは東の国に留学なさっていたと聞きました。東方はこの世界でもダンスの盛んな地域です。さぞ、素晴らしいものを見せていただけるかと」


 そう言う彼女は笑っていたが、目は冷えていた。エドワードの腹の中にふつふつと怒りが湧いてくるが、しかしここでケンカをおっぱじめても一銭の得にもならない。

 エドワードは堪えに堪えて、いきなり手を叩き出した。


「私が滞在したのは辺境の辺境であるから、諸君らの求めるものと違うものかもしれん」


 彼はおもむろに二歩下がると、前へ向かって歩みながら手で丸を作ったり、左右の手をそれぞれ前に突き出すなどの行動を始めた。

 そして彼はその節々で必ず手を叩く。


「ちょちょんがちょん、ハイ!」


 それは日本人が見れば誰でも一目でわかる、盆踊りスタイルだった。


 彼は彼自身が丸の内音頭と呼ぶその歌を大声で歌いながら、パーティー会場のど真ん中で盆踊りを、それも燕尾服を着ながらやってのける。


 当然、彼自身もそれが場違いな行為であることは知っていた。だが、彼に出来る踊りはこれか阿波踊りぐらいしかないのである。


 エドワードは、もしこれで文句を言われたり嘲笑されたりしたら、それは東国への差別だと言いがかりをつけ、ひと悶着を起こしてやろうと思っていた。


 だが、彼の音頭が終わると、エドワードの予想に反して彼らは拍手でそれを歓迎した。


「すばらしい民族舞踊だ。地元のエスニック文化まで会得してくるとは、並々ならぬ勉強をされたのだろう」


 彼らはそんな事を口々に言い出した。


―――さすが国鉄スワローズの応援歌だ。この世界でもこの歌は受け入れられるようだな―――


 エドワードはそんなことを思いながら、パーティーを抜け出した。




 エドワードは会場を出たところにある庭に佇んでいた。夜はすっかり更けていて、見たこともない星空が空に浮かんでいた。


―――この世界に天の川は無いのだな。もしかしたら銀河系がないのかもしれん―――


 星空に思いをはせていると、後ろから声をかけられる。


「エドワード様、ですよね?」


 彼が振り返ると、そこには可憐な女性が居た。エドワードは少し驚きながら、彼女に挨拶をした。


「いかにも、私がエドワードです。あなたは?」


 エドワードが少し慇懃に挨拶をすると、彼女も淑やかに返した。


「私はマリーヌ・マックレーでございます。エドワード様、お噂はかねがね」


 そう聞いて、エドワードは背筋が凍る思いだった。


 アリアルによれば、エドワードがエスパノ家相手に大暴れをしたその余波で、とばっちりを食う形で婚姻の話が持ち上がった人物である。


 彼女に望まない結婚を強いた遠因が自分にあると思うと、エドワードは背筋が伸びる思いだ。


「この度は申し訳ない。私のせいで、あなたにも、あなたの親父さんにも迷惑をかけた」


 エドワードは貴族が嫌いだ。だが、あの気のいい親父は嫌いではなかった。そして、彼女は全く関係のない赤の他人である。そんな二人に迷惑をかけたとあっては、エドワードは挙げる顔がない。


 エドワードは深々と頭を下げた。


「いえ、これもなにかの運命ですから。どうか、エドワード様はお気になさらないでください」


 さあ、お顔を上げてください。彼女はそう言って微笑んでくれた。


 エドワードの心に、そのやさしさが染み渡る。


―――あの気のいい親父さんの娘だけあって、とてもいい人じゃないか―――


 エドワードが顔を上げると、マリーヌはくすりと笑った。


「先ほどは、とても素晴らしい踊りをなさっていたそうですね。私はちょうど外していまして、見れませんでしたの」


 彼女は残念そうにそう言った。


「なに、見るほどのものではありません。どうせ宴会の余興程度のものです」


 彼は自嘲気味にそう言う。だが、それでもマリーヌは見てみたかったというのである。


「いずれ、見せてくださいね」


 今度は、エドワードに向けてにっこりと微笑んだ。エドワードはなぜだか、心が跳ね上がる。


―――女はあいつ一人と決めたのだがな。まだまだ精進が足りん―――


 エドワードは彼女からプイと顔をそむけた。そのまま見続けていると、謎の感情が彼を蝕んで悶えさせそうだったのだ。


「マックレー家とラッセル家は手を取り合って生きてきたと聞きます。どうかこれからも、よろしくお願いしますね」


 彼女はそう言い残して、夜闇に消えた。

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