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整理番号 新A54:鉄路に臥す(バフロス貨物線脱線事故1)

「爆発だ! 学園の方だ!」


 帝都の人々は口々に叫んだ。


 帝都の北、ガリフールと呼ばれる地区には、貴族の子女が通う学園がある。爆発はその学園の近傍で発生した。


「サン・ガリフル学園周辺で大規模爆発! 帝都騎士団は直ちに急行せよ!」


 その煙は帝都の屯所でもはっきりと確認することができた。治安維持の担当官であるギムリーは直ちに騎士団に出撃を命じる。


 騎士団は最初、学園が襲撃を受けたものだと思い込んだ。なぜならサン・ガリフル学園は皇国有数の学府であり、国内貴族はもちろん、諸外国からの留学生までもを抱える世界有数の学校である。


 故に、いつ何が起こってもおかしくない、そんな危険性に曝された場所でもあった。帝都騎士団は有事に備え、慣れない完全武装で事に当たった。


 王宮ではすでに学園事件対策本部が設置され、帝都には緊張が走っていた。そんななかで、騎士団の先遣隊は学園へとたどり着いた。


 だが、そこで担当の騎士は目の前の状況に困惑する。


 なぜなら、目の前で生徒たちが平然と談笑しながら下校をしていたからである。


「騎士さん、爆発はここじゃないよ! 駅の方!」


「ガリフール駅かい?」


「ちがうちがう、東ガリフール駅の方」


 生徒達にそう指摘され、担当の騎士は慌てて馬を引いた。


 生徒の通報通り、騎士は東ガリフール駅に馬を走らせた。しかし、馬はある一定のところから先に進もうとしない。

 騎士は鞭を入れるが、それでも馬は前に進まなかった。


 仕方がないので担当の騎士は馬を降り、重い鎧も脱ぎ捨てて、自分の足で東ガリフール駅へ向かった。


 途中で、馬がこれ以上近づきたがらなかった理由が分かった。騎士の嗅覚にもはっきりわかるほどに、焦げ臭いにおいが辺りに充満し始めたのだ。


 それからしばらくして、騎士は目の前の光景に愕然とした。


「駅が、無くなっている……」


 そこにあるはずのものが、無かった。粗末だがかなりの大きさの駅舎が、線路が、プラットホームが。


「なんだこれは、意味が分からない」


 そこ代わりに、辺りには燃えくすぶっている残骸が散乱していた。ただ、それだけだった。










 シグナレスの屋敷の伝話が鳴ったのは、事故が起きてからしばらくたった夜半すぎだった。それは、ギムリーからの、捜査協力願いだった。


「スイザラス鉄道で原因不明の爆発事故があったそうよ」


 シグナレスは寝入っていたエドワードを起こすと、そう言ってメモを渡した。


「スイザラス鉄道……。またあそこか」


 先日、アリアル卿の頼みで事故を調査したばかりである。エドワードは少し嫌な顔をした。


「今回は事故とは限らないわ」


 彼女はそう言うと、エドワードに渡したメモの文章を指でなぞった。


「現着した騎士団の担当官によると、現場付近は国際的な学院の近傍で、この学園を狙った武力的示威行為の可能性を否定できない……。って、そこには書いてあるでしょう?」


「担当官は、ギムリー・アッサルト。ああ、この前の事故で一緒になった人だ」


 エドワードはそう言いながらメモを机の上に置いた。


「その学園とやらは、そんな狙われるようなところなのかい?」


「世界中の王族や貴族がやってくる、この世界でも有数の学府よ。狙われない方が不自然だわ。平和を国是とするこの国が武力を有する騎士団を持っているのも、この学校が存在するからよ」


 彼女はエドワードの疑問にそう語った。


「へえ、そんないい学校がこんなところに」


「ここは物流の中心だもの。人の流れも当然ここに集まってくるわ」


 それに、とシグナレスは付け加える。


「あの学校は、外交の舞台も兼ねてるの」


「外交?」


「ええ。世界中から将来を嘱望される血筋の人間を集める。そこで外交ごっこをしたり、コネを作ったり。将来の国際社会を担う人材を育成する、そんな役割もあの学園は持っているわ」


「子供にそんなことをやらせるのか。物騒な世界だな」


「一昔前まで戦争ばかりだったわ。今はいい世の中になったものよ。今は」


 彼女は何かを含ませたようにそう言った。


「ともかく、エドワード。今回の捜査は、ちょっと難しくなりそうよ」


「ああ、そうだな」


 事故がもし、事件だったら。その可能性が一つでも混入すると、事故調査は途端に難しいものへと変貌する。エドワードは国鉄でそれをいやというほど経験した。


「今からいやになるよ」


 砂川米軍タンク車事故、下川事件、境事件……。事故調査が外圧により乱された例は、全世界的に枚挙にいとまがない。


「まあ今回は学園の近くで発生したというだけの事故だから、そこまで問題にはならないとは思うけれども。それでも、かなりセンシティヴな場所だから、慎重にね」


 彼女はそう言って、エドワードの頬に手を添えて目線を合わせた。。


「自身を、そして自信を見失わないこと」


「ああ、わかってるさ」


 それだけ言って、エドワードは眠りについた。

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