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整理番号 新A51:トレビン信号所正面衝突事故(2)

 飲酒運転。と、いうと自動車を思い浮かべるとこが多いだろう。しかし、事はより速度が出る鉄道の方が深刻である。


 飲酒、すなわち体内にエチルアルコールを摂取すると、胃や小腸、若しくは様々な消化器からそれは吸収され、血中へと運ばれる。

 血中においてはそれは速やかに肝臓へと送られアセトアルデヒドという毒物へ変質させられるが、一部においては身体中に拡散し、そして脳へ至る。

 脳に至ったエチルアルコールは、たとえ少量であったとしても脳を麻痺させる効果を持つ。


 例えば、体重70キログラムの御岳篤志(45)の場合、500mlのビール瓶を空けたとして、この時の血中アルコール濃度は0.04%である。

 酒飲みから言えば、微々たる量である。しかし、研究によれば脳に一時的な障害をもたらすには十分な量である。

 実験によれば、この程度の血中アルコール濃度で、自動車事故の発生率は二倍になるという。それだけ、アルコールというのは身体への影響が強い。



「なるほど、つまり君は、この事故が飲酒によるものだと言いたいわけだ」


 屋敷に帰ったエドワードは、シグナレスにそう説明した。彼女は面白そうな顔をしながら、酒瓶とツマミを用意する。時刻はまだ、明らかに昼下がりである。


「何のマネだ?」


「あなたが言うそのアルコールとやらと、この世界の酒精が相当のものであるかどうか、確かめる必要があるんじゃない?」


 彼女はそう言うと、どろっとした緑色の液体をエドワードのコップに注いだ。


「ま、その通りだな」


 彼はそれを一気に飲み干す。すると、懐かしい酩酊感が彼の意識を襲った。


「間違いない。これは明らかにアルコール相当の物質だ!」


 その言葉にシグナレスは微笑を浮かべた。


「じゃあ、事故原因は?」


「直接の原因は、酒精を摂取し運転を行ったことにより前後不覚に陥っていたことだ」


 その言葉に、シグナレスは微笑んだ。


「直接的な原因。ということは、根本的な原因、もあるのかな?」


「その通り。よくわかったね」


 エドワードが少し驚いた顔でそう言うと、彼女は分厚い資料をエドワードの前にドンと置いた。エドワードはこれにまた驚いた。


「なんだい、これは」


「バラック線についての資料よ」


 彼女はそう言うと、ページをめくるように促した。


 第一ページ目に、こんな文言があった。


『これはバラック線における事故の記録である』


 エドワードはそのままページめくると、次にはこんな事が書いてある。


『バラック線における事故の発生件数は、数百日に一回程度の高頻度なものであり……』


 その記述に、エドワードは目を疑った。思わずシグナレスの方を振り返る。


「実は、根本的な理由は、もうこっちで調べがついているの。この事故の原因は、バラック線を管理している運行部の、その素行の悪さよ」


 彼女は酒を飲み干しながら語る。


「あそこは、少し特別な事情を持った子たちが集まって、鉄道を管理しているの。だからその、ちょっと素行が悪くて」


「ちょっと!?」


 エドワードは資料を読みながら、思わずそんな声を出してしまう。


「……かなり、素行が悪いの。みんな、なんだかこの世をあきらめているみたいに」


 エドワードはその言葉に、あることを思い浮かべていた。それは授業崩壊でもなく、校内暴力の渦でもなく、男庭努という、自らの最後の弟子についてだった。

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