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整理番号 新A48:大雨と線路~サコ鉄道土砂流出事故~(規則)

「盛土の不備か、なるほど!」


 エドワードは膝を打つ。それと同時に、ある疑問がわいてきた。


「しかし、そんなことがよくわかったな」


 彼はエスの顔をまじまじと見つめてそう言った。エスは少しギクリとしながらも、よどみなく答える。


「ああ。実は、こういうのに詳しい友人がいてね。スケッチを見せたら、一発だったよ」


「さすがブンヤだ。こういう時の分野を横断したフットワークの軽さは、ブンヤに限る」


 彼は手放しでそうほめたたえた。




 さて、エドワード達は事故を起こしたサルジコルジ鉄道の本部にやってきていた。今日は、ここで話を聞くことになっている。


 出迎えてくれたのは、鉄道の幹部の一人だった。彼に事故原因と推察される盛土の不備について話すと、彼は驚いたような、それでいて納得がいったような顔になった。


「ああ、なるほど。だからうちの鉄道は築堤崩壊が多かったんですね」


 その言葉に、エドワードはピクリと反応する。


「以前から、このようなことは多かったと?」


「ええ。うちはなにぶん、雨の多い地方を走りますからね。こういうことは、しょっちゅう」


 エドワードの顔が急に固くなる。そして、次々と質問を飛ばし始めた。


「それで、対策かなにかは?」


「お恥ずかしい話、対策と呼べるものは採っておりませんでした。なぜなら、今こうしてお話を聞くまで、築堤崩壊の解決法が見当たらなかったもので」


「では、以前もこんな事故を?」


「いえ、それはありません」


 幹部はそう言い切る。


「降雨時には、築堤区間が存在するすべての路線の列車を抑止、つまり運転を見合わせるよう通達を出しています。なので、今まではこんな事故ありませんでした」


 その言葉に、エドワードは目を見開いた。


「雨が降ったら、列車はお休みですか」


「ええ、そうです」


「なら、なぜこんな事故が」


 彼がそう尋ねると、幹部は険しい顔になって声を潜める。


「実はですね、それがようわからんのです」


 幹部はそう言って首を横に振った。


「部内で調査を進めていますが、いかんせんはっきりしない。事故の数日前から雨はやむことなく降り続いていましたから、列車は手前の駅で運転を見合わせているはずなんです」


 彼は酷く狼狽した表情でそういう。彼のひたいには汗が噴き出していた。


「もう、こちらでは調査のしようがありません。エドワードさん、申し訳ないのですが……」










「一件落着と思いきや、だね」


 アイリーンの言葉にエドワードはうなづく。ただ、その横でエスは飄々としていた。


「ま、ここからが鉄道屋さんの面目躍如、ではないですかね?」


 彼はわざとらしくそういうと、メモをエドワードに寄越した。


「もし幹部の話が本当なら、どのように列車を止めるシステムになっていたかが気になります。それを追いましょう」


 エドワードはそれを受け取りながら、こう答える。


「じゃあ、まずは機関士に話を聞こう」




 サルジコルジ鉄道の機関士は、当然のことながら機関区にたむろしていた。前回のように殴りかかられる事もなく、彼らはスムーズにこちらの問いに答えてくれる。


「雨が降った時の対処は?」


「築堤区間の直前の駅の駅長が、白旗か黒旗を振ることになってました」


「白旗と黒旗、ですか」


「ええ。昼間は白旗だと見づらいので黒旗を。白旗、もしくは白い灯りは暗くて黒旗が見えない時に使います」


 これはサン・ロードの標準的な停止合図なのだろうとエドワードは思う。思い返せば、シク鉄の停止合図も、白旗若しくは黒旗であった。


 問題は、それがきちんと見えるかどうかであった。


「それは、運転中にはっきりと視認できますか?」


 そう聞かれると、機関士はギクリと身を震わせた。


「あー、いや、見えるはずですよ。ええ、間違いありません」


 彼は明らかに動揺しているようだった。エドワードは畳みかける。


「申し訳ない。列車抑止の基準はご存じですか?」


「もちろん。雨が降ったら、です」


「それはどの程度の雨の場合?」


「えっと、程度にかかわらず、雨が降ったら運転は見合わせ、です」


 彼は目を白黒させながらそう言い切った。そしてしばらくすると、困ったように手を挙げる。


「イヤだなぁ。もしかして俺、なんか疑われてます?」


 そう言って彼は不快感をあらわにする。エドワードは慌てて取り繕った。


「そう捉えられたのなら申し訳ない。これは、ほんの確認です。では……」


 エドワードはそう言ってその場を去った。


「なあ、どう考えても怪しいよ。あれ」


 アイリーンの言葉に、エドワードは同感である。


「しかし、彼が一体なにをしたというんだろう?」


 エスはそう言った。その言葉にミヤも同調する。


「あの、わたし、あの人がわるい人には思えませんでした……」


 エドワードはその言葉を、否定しなかった。


「そうかもしれないね。もしかしたら、何かを隠し、かばっているかもしれない」


「隠しているって、何を……?」


 彼は、歩き出す。


「それを今から、探しに行くんだよ」

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