整理番号 新A47:大雨と線路~サコ鉄道土砂流出事故~(専門家の証言)
エドワードは早々に事故原因を確定された。それは火を見るよりも明らかだったからである。
「この築堤が崩れたんだ。当然、築堤の上に乗っかっている線路も崩れて不安定になる。そして、その上を通過した列車が、脱線」
日本でも、そして国鉄でも数多く類似の事例がある、典型的な法面崩壊事故だ。そういうと、ミヤは首をかしげる。
「ノリメン……ってなんですか?」
「ああ。この線路は土を盛った上にあるだろう? これを盛土という。そして、盛土のテッペンが路盤で、斜面の事を法面と言う。ちなみに、盛土の上に線路を通すと、これを築堤と言ったりする」
そういうとミヤは目を回した。そして頭の上に大量のハテナを掲げる。
「すまん、一気に言い過ぎたね。ともかく、この事故は斜面が崩れて起こった事故、ということだよ」
「確かに、こう雨が降っていれば土砂は崩れやすくなるね。そして、事故の時は今よりもっと雨が強かっただろう?」
しかし、アイリーンの言葉にギムリーは食い下がる。
「こう雨が降ったぐらいで盛土に崩壊されては、困ります」
「困るといわれても、事実そうなっているじゃないか」
アイリーンは小ばかにしたような口調でそう言い、エドワードに同意を求めた。が、エドワードの意見は慎重だった。
「いや、ギムリー氏の意見も半分は正しい。機関士としても、いくら雨が強かったとはいえあの程度の雨で崩壊されては、オチオチ運転できん。なにか、崩壊に至った原因があるはずだ」
彼はそういうと、無事な方の築堤と崩壊した方の築堤を見比べる。しばらくそうやって交互に見つめた後で、エドワードは声を出した。
「わからん」
彼がそう言った瞬間、アイリーンは足を滑らせた。
「なんだい、もったいぶっちゃってさぁ!」
「すまない。だが、この手の分野は専門外だ」
彼はそう言って、首を振るばかりであった。
その後ろで、エスはミヤに声をかけていた。
「なあミヤちゃん。もしよかったら、そのメモを少し分けてくれないかい?」
「ええっと……?」
「ああ、こっちの取材の資料として使いたいんだ。現場のスケッチやなんかを、分けてほしい」
エスにそう言われて、ミヤは迷うことなくそれを渡した。
「ありがとう。必ず、役に立てるよ」
結局、調査はなんの進展なく終わった。もちろん、調査とは現場がすべてではない。これから他の調査と合わせて、判明していくこともあるだろう。
エスはそう思いつつも、この資料から何かわかることはないかとそれを持ち帰った。
「こういうのは、ヒサさんの専門だろう?」
彼はそれを、ヒサと呼ぶ男へ手渡して、ことのあらましを話してみた。するとヒサは、まるで何でもないことのように答えた。
「盛土の処理の仕方がアカン。水抜きがあらへんやないかい」
彼はそういうと、スケッチのある部分を指摘した。
「これ、同一区間で無事だったとこのスケッチやろ? 見てみい、ただ土を盛っただけや。これを盛土なんて呼んだらあかん」
「盛土なのに?」
「上から水が降ってくると、盛土は内部に水が溜まってぐじゅぐじゅになってまう。せやから中に導水性のパイプかなんか突っ込んで、外に水を抜くようにしたらなあかんのや」
「ああ、よく法面に塩ビ管が埋め込んであるのは、そういうことだったのか」
エスは納得したように顔を明るくさせた。
「しかし、さすがはヒサさんだね。例の男も、これには気が付かなかったようだ」
彼がそう言うと、ヒサは、そりゃそうやろ、と答える。
「鉄道屋は鉄道に詳しい。せやけど、線路の下の事は、意外と手薄なもんや。まあしゃぁない。鉄道屋の仕事は列車走らせること。ワイらの仕事は、列車支えることや」
逆に、ワイらは鉄道のことあんま知らんしな、と彼は笑う。
「まあせやけど、恩を売っとくええ機会や。気ばりぃ」
「明日、これを彼に伝えてこよう」
エドワードが今だ頭を悩ませていたころ、エスたちは早くも結論に達していた。ヒサは静かに笑う。
「また、エエ仕事できそうやな……」
その顔は、楽し気に歪んでいた。




