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整理番号 新A45:開拓列車脱線事故(墓前)

「彼女は約束したよ。必ず、あんな悲惨な事故を起こさないような、安全な鉄道をつくるって」


 屋敷に帰ったエドワードは、うずくまるミヤの背中にそう語りかける。


「なあ、ミヤ」


 そう言いかけて、エドワードは言葉を呑んだ。彼女は、庭の一角に転がった石に向かって、必死に祈り続けていたからだ。


「それが、彼女の墓かい」


「はい、エドワード様」


 ミヤはそういうと、エドワードに背を向けたまま肩を震わせた。


「彼女は、地獄から私を助け出してくれた人でした」


 ぽたりと、地面が濡れた。


「私だけじゃない。たくさんの女の子が、彼女に助け出されました。なぜ、彼女は死ななければならなかったんですか?」


 その問いに、エドワードは答えられなかった。


「なあ、ミヤ。私にも拝ませてくれ」


 エドワードはそういうと、その小さな石の前に正座して、静かに拝み始めた。


「彼女は、何て名前だい?」


「ミルル。私に名乗った名前は、そうでした」


 彼女が絞り出したような声でそう言うと、エドワードはその小さな頭を優しくなでてやった。


「こんど、アイリーンに頼んで名前を彫ってもらおう。シグナレスに相談して、しっかりとした墓にしてやろう。そして……」


 こんどは、エドワードがミヤの涙をぬぐった。


「こんな世界、変えてやろう」


 彼の言葉に、ミヤは静かに頷いた。










 エスは、身軽な体一つで自分の住処へと帰還した。それは、帝都の南側にある小さな家だった。

 彼は帰るなり、同居人たちにこう高らかに言い放った。


「やっぱり、君の言うとおりだったよ」


 そういうと、暇そうに寝ころんでいた同居人たちが、半ば興奮気味にエスの元に集った。


「ほう、その心は?」


「彼、逆水平チョップを繰り出しながら『力道山の空手チョップだ!』と叫んでいた」


 すると、一人が腹を抱えて大笑いしだした。


「他にも、私の蹴りを見て、『スワンダイブ式のミサイルキックだと……』って」


 エスはそういいながらエドワードの物まねを始める。すると、一番老けている男が、耐えられないとばかりに笑いをこぼした。


「いやはや、君の言ったとおりの人間らしいね、あの男は」


 笑いながら、彼はそう言った。すると、”君”と呼びかけられた青年が胸を張る。


「やっぱりね。聞き間違いではないと思ったんですよ。だって、藤原不比等(ふじわらのふひと)ですよ!?」


 彼がそう言うと、全員が笑い転げた。まるで、その言葉が世紀の大爆笑ギャグであるかのように。


「白河法皇に明智小五郎だって? 次は誰が出てくるかな。東条英機?」


「いや、桐壺の更衣かもしれん」


「森鴎外かも?」


 散々そう言って笑いあっていた彼らだったが、ふと真剣な雰囲気に戻る。


「しかし、これではっきりした。引き続き、彼の監視を行おう。エス、頼めるかい?」


「もちろん。彼は、我々の大いなる計画の歯車の中にいるのだから……」


 エスは、そう言って笑みを見せた。

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