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整理番号 新A38:開拓列車脱線事故(概況)

 季節は、地球でいうところの夏に相当する時期に移り変わっていた。


 サン・ロード南部の夏は乾燥しており、空には雲一つない。


 そんな心地よい景色の中を、一本の列車が走り抜ける。




 ミルケ鉄道7778列車は、テペン駅を定刻通り発車した。テペンはサン・ロード皇国第三の都市で、南方への交易の要衝である。列車は、そこからさらに南方へ出発した。


 機関車はガルバ号と呼ばれる最新のものだった。サン・ロード皇国の制式機関車と比べ、約二倍近い出力を有している。ミルケ鉄道自慢の機関車だ。


 それに引き換え、後部の客車は見るからにボロボロな木造客車だった。

 それはドレス号という客車で、ミルケ鉄道が開業当時から所有している旧式の客車だ。まるで粗末な箱とでも形容したほうが良いような客車だった。


 乗客は、この粗末なぼろ客車に満載され、非常に不愉快な思いをしていた。テペン駅発車時点で車両は満員を超えている。


 空調や扇風機の類などは当然ながら概念からして存在しない。乗客は全ての窓を開け放して少しでも外気を取り入れようとしていた。

 だがその努力は徒労に終わる。なぜなら車内は人間で埋め尽くされており、風が通る隙間など存在しなかったからだ。加えて、外はカンカン照りで温度はかなり上がっていた。


 なぜこのような状況になったかというと、それはこの列車の特殊性に依拠する。


 この列車は多数の開拓民を乗せた、開拓列車だった。


 乗車前の切符確認によると、列車の乗客は、サン・ロード皇国と南の大シンカ共和国との国境付近にある新しい開拓地「ベス」に向かう予定だったという。


 つまり、車内の乗客はこのベスへと向かう開拓民だったのである。


 乗客であるミルルもその一人だった。彼女もまた以前は奴隷の立場であり、脱走に脱走を繰り返して今ここに一人の人間として存在している。

 彼女はこの不愉快な空間の中で、明日への夢を抱いていた。


 さて、列車はベスまで残りわずかの地点までやってきた。車掌がそれを伝えると、車内から安堵のようなため息が漏れる。

 その時、列車の後方から、まるで死人が息を吹き返したような、そんな奇妙な空気の音がした。


 列車の一番後方で乗務していた列車長は、当然その異常に気が付いた。列車長は激しく戸惑う。


 列車長の役目の中には、列車に異常が発生した際に非常ブレーキを採る、という任務も含まれる。列車長はここで、ブレーキを採るべきかを逡巡した。


 だが、車掌長はここで、もうすぐ列車がキシュリッジ駅にたどり着くことを思い出した。


 キシュリッジ駅はテペン~ベス間において最後の補給地点であり、従来は当駅で水・石炭の補給を行ってきた。車掌長は、当然この7778列車も停車するものと思い込んだ。


 だが、そうはならなかった。列車はキシュリッジ駅を定刻に通過すると、そのまま加速を始めた。


 車掌長はここに至ってもなお、非常ブレーキを採るべきか逡巡した。そして考えた挙句、車掌は非常ブレーキを採らなかった。




 そのころ運転台では、機関士と機関助士が異常に気が付いていた。


 列車はキシュリッジ駅を通り過ぎ、ベスに向かう最後の難所である急な下り坂に差し掛かった。


 そこに至って、列車は急激に速度を増していく。運転を担当する機関士は加速をやめ、列車を減速させるためにブレーキハンドルを握る。同時に、ブレーキをかけることを知らせる汽笛を鳴らした。


 それから機関士は、ブレーキをいっぱいに採った。


 列車は少しだけ減速する。が、それは機関士が意図したとおりの減速ではない。機関士の感覚よりも、大幅にブレーキの効きが悪かった。


 機関士は何が起きたのかわからず、最大ブレーキを叩き込む。だが、それでも列車は減速しない。

 列車はとうとう、ガタガタと震えながら本来であれば絶対に到達しないであろう速度へと達してしまう。


 機関士は危険を感じ、非常警笛を吹鳴した。列車長はそれに気が付き、ついにブレーキを採った。しかし、列車は一切減速をしない。

 列車長は思わず、駐車ブレーキ、すなわち地球の自動車でいうところのサイドブレーキにあたるブレーキを採った。これにより、列車は多少の減速をしたように見えた。だが、しばらくして最後尾の車両から煙が上がる。


 列車長は突然の事態に動揺し、叫んだ。


「火事だ! この列車はもう止まらない!」


 車掌長がそう叫んだ直後、ひときわ大きく煙が噴き出し、列車は再び加速へ転じた。


 車内は大きく混乱する。一家を挙げて開拓地へ向かおうとしていたものや、現地の視察に向かっていた小役人まで、様々な者達が一斉に動揺し、いわゆるパニックに陥った。


 一人が窓を開け放った。そして、その窓から乗客が落ちていく。


 しかし、列車はまだ停まらない。


 列車はそのままの速度を保ち、ベス駅直前のゆるい右カーブへ差し掛かる。


 列車はカーブを曲がり切れず、大きく動揺し、脱線。




 死者は445名(大シンカ側発表で390名)、負傷者は確認できていない。


 また、機関士ウィリーと機関助士セッセの死亡が確認された。

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