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整理番号 新A30:スイザラス鉄道ボイラー爆発事故(証人喚問)

「機関区の人間に聞いたら、ここにいると聞いたものでね」


 アリアル卿は少しだけ元の気障な表情を取り戻しながらそう言った。しかし、その手は細かく震えている。

 一行はダッシー駅から列車に乗り、帝都へと急いでいた。


「それで、何用で?」


 エドワードの言葉にも、いつもなら余裕しゃくしゃくの笑顔で答えるのに、今はなんだかよそよそしかった。しかし、その口ぶりは確かなものだ。


「君には、今から査問会に出てもらおうと思う」


「査問会?」


 エドワードが頭にハテナを掲げていると、はす向かいのアイリーンが裁判所のようなものだと教えてくれた。


「この国では、貴族を裁く弾劾査問会と、平民を裁く王令査問会がある。聞き取り調査の時に身分を答えさせるのは、実はここに理由がある」


「なるほど。それで、なぜ我々がその査問会とやらに?」


 エドワードはアリアル卿の言葉を半ば聞き流しながら、わかりきったことを問い質した。


「件の機関士と機関助士の査問会がこれから開かれることが決まった。彼らは、今から事故を起こした責任を問われる」


 当局は、この事故はすべて二人の乗務員の責任によるものと考えている。

 この裁判で、当局はこれを確定的かつ明文のものにするつもりだ。エドワードは直感的にそう感じた。


「それで? アンタは私に何を望む」


「査問会で証言してほしい」


 アリアル卿はなんの駆け引きも無く、そう答えた。エドワードは訝しがる。


「それは、私に、この事故は乗務員二人の責任だ、と答えろと言っているのか?」


 エドワードは少しだけ語気を荒らげた。アリアル卿は何も答えず、ただ黙ってエドワードを見据えた。それが、エドワードの癪に障る。


「申し訳ねえが、俺は元居た国で機関士の長をやっていたんだ。そこでいろんな事故をみて、いろんな調査や研究をした。そして……」


 エドワードはアリアル卿を睨み返す。そしてまるで仇敵に戦線を布告するかの如く、最後通牒を突き付けた。


「俺はいついかなる審判でも、真実しか吐いたことがない」


 それが、エドワードをエドワードたらしめる生真面目さであり、国鉄員としての自分だけの誇りだったから。


 アリアル卿はそれを聞いて、元の気障な雰囲気を完全に取り戻した。そして、憎らしい笑顔で言葉を返した。




「私は真実を求めている」











 エドワードが王令査問所にたどり着いたのは、今まさに件の裁判が始まろうとしているその時だった。


「アリアル卿、平民の査問に遅刻してくるという事に関して、貴族であるあなたにいうべきは在りません。ですが、あなたがこの査問になんらかの影響を及ぼそうとしているなら話は別です。それも、事前の相談が無い案件とあらば」


 エドワード達は、それはもう冷ややかな目線で査問に迎え入れられた。いや、迎え入れられているかどうかも怪しい状況であった。


「失礼。実は、この件を調査している者どもが居りました。その者が事故の完全な真相を明らかにしたというので、参考人として連れてきた次第であります」


 アリアル卿の言葉に、裁判長らしき男は怪訝な顔になった。


「完全な真相? はて、この事故にそんなものがあったとは。アリアル卿はとても博識であるようだ」


 裁判長の皮肉にも、アリアル卿は動じなかった。アリアル卿はすっかり、元の姿を取り戻したようだった。


「ご無礼を失礼します。だが、このアリアル・エスパノにまさか間違いがありますまい」


 アリアル卿はわざとか無意識か、エスパノの部分をいやに強調したしゃべり方をした。すると、周りの者たちは面白いように口をつぐむ。

 エドワードは思わず、笑いを漏らしてしまった。


 裁判長らしき男が、不愉快そうに咳払いをした。


「よろしい。では、その彼に答弁をさせるがよかろう」


 裁判長から許可が出る。エドワードの心は踊った。


 見ると、どうやらスイザラス鉄道のお偉いサマも同席しているようだった。


 エドワードは思う。


―――気に食わないブルジョア共に一杯食わせるのは、今この時しかない!―――


 貴族嫌いのエドワードの気分は、これ以上ないくらいに高揚している。エドワードは上着を脱ぎ捨てて、用意された答弁台へと向かった。


 エドワードの頭の中では、闘いのゴングが鳴った音がした。

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