整理番号 新A26:スイザラス鉄道ボイラー爆発事故(再現実験)
事情聴取が終わると、エドワードらは急いで機関区へ戻った。機関区そばの空き地では、既にアイリーンが実験の準備を終わらせている。
用意をお願いしたのは三つ。蒸気を一杯に溜めた蒸気機関車、蒸気機関車の内部を模したモックアップ、そしてそれらを接続する容器である。
「おおい、いつでも大丈夫だよ」
「ああ、ありがとう」
エドワードはアイリーンの姿を認めると、そう礼を言った。が、彼女の顔色が冴えないことが妙に気になる。
「準備、大変だったか」
事前に彼女にお願いした準備は、かなり大掛かりで複雑な作業を伴うものだった。きっと大変な工程だったのだろうと彼女をねぎらうと、しかし彼女は苦い顔をした。
「違うよ。あそこ」
彼女はそう言って一方を指した。そこには、レルフ支配人やアリアル卿を中心とした黒山の人だかりができていた。
エドワードが唖然としていると、こちらに気が付いたレルフがにこやかに笑う。
「実験をすると言っていたからね、思わず来てしまったよ。さあ、実験を始めてくれたまえ。いったい我々にどんなものを見せてくれるんだい?」
レルフは目をきらきら輝かせていた。エドワードは慌ててアイリーンに事情を聴く。
「なんで彼らがここにいるんだ!」
「ヨステン区長に事情を話したら、皆ついてきちゃったんだ!」
エドワードは思わず頭を抱えた。
―――この実験はそんな大仰なものでもないのに……―――
エドワードが振り向くと、実験を待ちきれないレルフが先を促す。
「あー、レルフ支配人。この実験は成功しない可能性が高く……」
エドワードは言い訳の様にそういったが、レルフはそれを軽くいなした。
「構わんよ。実験とはそういうものだ」
そういいながら、レルフは今か今かと待ち続けている。エドワードは観念して、さっそく実験に取り掛かった。
実験は簡単なものだった。
まず、発火石を鉄材で組んだ格子の上に並べた。これは火格子といって、蒸気機関車の火室を再現したものだ。
それから、発火石を発火させ、燃焼させる。発火石は石炭とは違い、魔法を使って燃焼をさせることができるから、その発火は迅速かつ一斉だった。
発火石は轟々と燃え始める。そのうちに、アイリーンが特殊な硝子で出来た容器をかぶせた。
発火石はなおも轟々と燃え盛る。アイリーンはこの装置に、蒸気機関車から延びる管を接続した。この管は、蒸気機関車で発生させた高圧・高温の蒸気が通じている。
アイリーンが合図を送る。すると大量の蒸気が実験装置内に噴出した。そして、燃え盛る発火石へと吹き付けられる。
……しかし、何も起こらない。
「……おいおい、エドワード君。これはいったい何の実験なんだ?」
心配になったレルフが話しかけてくるが、エドワードはそれを手で遮った。
「ここからが大事ですから。アイリーン」
その装置には入気口と排気口がついている。アイリーンは、排気口のところへマッチを近付けた。
それを見て、何をしているんだと全員が訝しんだ。その瞬間。
ドン!
一瞬、顔面が火傷しそうになるほどの大爆発が起きた。その場にいたほぼ全員が、びっくりして後ずさる。
驚きのあまりシグナレスは尻もちをつき、レルフとアリアル卿は驚いてうしろへでんぐり返った。
「エドワード君、なんだこれは、すごいじゃないか!」
「実験は成功だ!」
起き上がった彼らは口々にそういう。その向こうで、エドワードは口をあんぐりと開けて呆けていた。
「なぜ、実験を企画した君が一番驚いているのだね?」
「いや、まさか成功するとはおもわず……」
エドワードは額の汗を拭いながらそう答えた。
「実験は成功なのかね?」
「ええ。実験自体は成功です。諸々、想定以上でしたが……」
「そろそろ教えてくれたまえ。これは何の実験だい?」
レルフが先を急がせた。エドワードは呼吸を整えながら語り始める。
「実はですね……」




