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整理番号 新A25:聴取その2

【証言:当務機関助士】

 聴取者:あなたの名前と所属を。

 当助士:……。ごめんなさい。

 聴取者:あなたの名前と所属を。

 当助士:全部僕が悪いです。ごめんなさい。

 聴取者:この聴取は責任の所在を追求するためではなく、事故の原因を追求するために行われる。あなたの名前と所属を。

 当助士:ダーダリア・ラルル。第三機関区所属。

 聴取者:身分は?

 当助士:下賤です。

 聴取者:そういうことではなく、法制度上の身分は?

 当助士:平民だと思います。


 まとめ:機関助士は錯乱しているように思われる。しかしながら、思考自体ははっきりしており、聴取の続行は可能と判断した。


 聴取者:では、まず当日。体調等に不良は?

 当助士:無かったと思います。

 聴取者:体調不良は飲酒などによる酩酊も含む。本当にないか?

 当助士:私は酒が飲めず、またケルトン機関士も私にそれを無理強いするようなことは無かったので、私が酩酊するはずがありません。(後日、ケルトン機関士並び関係者への聴取で確認済み)


 まとめ:この時点では機関助士に一定の落ち着きがみられる。


 聴取者:では、マーシー駅から順に。

 当助士:はい。まず、マーシー駅では補給などが出来なかったので、水を節制しなければならないと思い、いつもより缶水(ボイラー内の水。この水を沸かし蒸気を発生させる)を少なくして、運転に臨みました。

 聴取者:それは、機関士からの指示を受けたか?

 当助士:はい。機関士からその様にするように指示がありました。

 聴取者:運転中、缶水の水面高さは確認したか?

 当助士:はい。

 聴取者:どのくらい?

 当助士:……。


 まとめ:機関助士からの指示を受けていたことは把握している。


 聴取者:なぜ、運転中に水面高さを把握する必要があるか、理解しているか? また、水面高さはどのようにして把握しているか?

 当助士:水面高さは缶水の量を把握するために見ます。水面高さは、水面計で確認します。

 聴取者:水面高さはどの程度であることが望ましい?

 当助士:八分目です。

 聴取者:では、当時は?

 当助士:……六分目だと思います。

 聴取者:水面高さが低下、ひいては缶水が減少すると、どのような危険性があるか?

 当助士:ボイラーが空焚き状態になり、熱によって破壊されます。

 聴取者:もう一度聞くが、水面高さは何分目だったか?

 当助士:……七分目だと思います。

 聴取者:なぜ、発言を訂正した?

 当助士:信じてくれないと思ったから。それに、事故が起きた以上、私の勘違いだと思ったから。

 聴取者:これは責任を問うものではなく、原因を把握するための聴取である。自己判断で決めつけた結論を話されると、却って不利益を被ることになるから、たとえ勘違いでも、有り得ないことでもいいから正直に話すこと。


 まとめ:機関助士は聴取者を含め他人を信頼しない節が見受けられた。彼との信頼関係を曲りなりにも築けていた機関士は、やはり意思疎通が図れていたと考えてもよいだろう。


 聴取者:繰り返しになるが、事故時の水位は?

 当助士:事故が起きる手前、ダッシ―駅通過時に、出発信号を確認した後に確認しました。その時は、七分目でした。

 聴取者:七分目?

 当助士:はい。それで、怖いなと思い給水機を絞って缶水への給水を押さえました。

 聴取者:なぜ絞った?

 当助士:まず、水の節制を言い渡されていたからです。

 聴取者:それで?

 当助士:そのあと、もう一度確認したら八分目になっていて、もう少しだけ絞ろうと思いました。

 聴取者:それはなぜ?

 当助士:缶水の給水量が十分に絞り切れていないと感じたからです。それに、この辺りは気圧が低く、このまま給水を続けたら缶水から水があふれて危険だとも感じました。

 聴取者:それで?

 当助士:そのあと、しばらく坂を下っていました。私は滑走して制動が狂うことが無いように、車輪に向かって砂撒きをしていました。

 聴取者:それは誰の指示で?

 当助士:指示は受けていません。ただ、いつもこの区間で機関士が苦しそうにしていたので、いつも自発的に行っていました。


 まとめ:現時点では、機関助士の発言の正誤について判断することはできない。付記するならば、缶水八分目程度でボイラーに爆発されては、機関士は上がったりである。


 聴取者:そして、事故発生時は?

 当助士:砂を撒いていたら、急に火室から煙が上がったので、まずいと思って水魔法で炎を消そうとしました。

 聴取者:すぐに火を消そうとしたか?

 当助士:しました。間違いありません。

 聴取者:それで?

 当助士:火を消そうと思ったら、すぐに爆発が……。

 聴取者:どのように?

 当助士:こう、ドンドンって感じで。

 聴取者:爆発は二回?

 当助士:音は二回しました。でも、どうしてそうなったかはわかりません。


 まとめ:機関士の証言と同一である。また、事前に口裏を合わせた形跡もない。


 聴取者:はい、もう結構。では最後に、言い残したことやその他あれば。

 当助士:……あの、機関士はどうなりますか?

 聴取者:我々は意思決定機関ではないので、判りかねる。

 当助士:お願いします。私が悪いんです、ケルトンさんは悪くありません。

 聴取者:どのあたりが自分の責任だと考えているか?

 当助士:……缶水の管理不行き届きは、助士の責任です。

 聴取者:具体的な行動や言動が、原因とは考えていない?

 当助士:私には想像もつきません。けれど、なにかが失敗だったのだと思います。なぜ、どこで失敗したのかがわからない時点で、私は助士失格です。

 聴取者:繰り返すが、具体的なきっけかと思われるものは無い?

 当助士:はい。

 聴取者:機関士に問題があったとは思わないのか?

 当助士:有り得ません。彼は貧民街の出身で大変苦労してきました。とてもまじめでしっかりとした尊敬すべき人です。彼が、なにかミスをするとは思えません。


 まとも:特にコメントするべきはない。


 総評:機関助士は精神的にかなり追い詰められているようであるが、彼自身の中で筋は通っている。また、自身に責任があると申告しながら、それを否定するような証言を繰り返していることも気になる。


 聴取②以上。







【証言:乗客】


 証言者:当該列車一両目中程に乗車していた旅客。三十代女性。

 備考:証言中は意識があったが、証言後に多臓器不全で亡くなる。


 聴取者:手短に行いましょう。氏名は?

 証言者:アリッサ・メラノフ……。

 聴取者:列車のどの辺りに乗っていましたか?

 証言者:先頭車両に……。バフロス駅から、彼と合流する予定でした……。

 聴取者:先頭のどのあたりに?

 証言者:真ん中あたりに……。

 聴取者:事故発生時、どのような感じでしたか?

 証言者:急に大きな音がしたと思ったら、目の前が真っ白に……。

 聴取者:真っ白、というのは?

 証言者:まるで炎の様に熱い光で、それは私の身を焦がしました……。

 聴取者:爆発の音は何回聞こえましたか?

 証言者:二回。

 聴取者:それ以外に、気が付いたことは?

 証言者:……。


 証言者の体調を鑑み、聴取は打ち切り。


 総評:爆発についての証言が、前者二人と共通している。


 聴取③終わり

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