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整理番号 新A24:聴取その1

 第327列車 ボイラー爆発事故 事情聴取(独自)


 以下は、本件事故に際し、関係者から聴取した証言である。

 なお、本件調査報告書に際し、以下の用語を以下の通りに定める。


当務機関士:本件事故当該列車を運転していた機関士

当務機関助士:本件事故当該列車に乗務していた機関助士

当務車掌:本件事故当該列車に乗務していた車掌




【証言:当務機関士】

 聴取者:あなたの氏名と所属は?

 機関士:ケルトン・サムラック、スイザラス鉄道第三機関区所属……。

 聴取者:身分は?

 機関士:平民です……

 聴取者:国籍は?

 機関士:サン・ロード皇国民です……

 聴取者:事実は大きな声ではっきりと。では、質問に入る。

 機関士:はい


 まとめ:基礎事項の確認を行った。


 聴取者:まず、事故の様子について。マーシー駅発車から順に

 機関士:直前に、臨時の火急列車とのすれ違いがあって遅れていたので、焦っていました。そして、急いで入替を行い、列車の先頭に機関車を連結しました。

 聴取者:その時、機関車の向きは?

 機関士:逆機(通常とは反対向きで連結すること)でした。マーシー駅には転車台が無いのと、折り返し時間が少ないので、いつも逆機です。

 聴取者:水や燃料等の補給は?

 機関士:行っていません。いつもかなりギリギリですが、マーシー駅でもバフロス駅でも折り返し時間が少ないので、補給のタイミングがあまりありません。

 聴取者:そして、そのままマーシー駅を発車した?

 機関士:はい。マーシー駅発車は定時でした。

 聴取者:それから?

 機関士:マーシー駅を出て、それからダッシ―駅までは通常通りでした。


 まとめ:機関士には、この時点で少々焦りのようなものがみられるが、しかし本件事故との関係性は見つけられない。


 聴取者:機関助士には、どういう指示を?

 機関士:あまり水を使うなと指示しました。

 聴取者:それはなぜ?

 機関士:もう水槽の残りの水が少ないと思ったからです。

 聴取者:いつもそのような指示を?

 機関士:ええっと……

 聴取者:事実は正確かつはっきりと。恒常的にそのような指示を出していたか?

 機関士:出していました。

 聴取者:それはなぜ?

 機関士:バフロス駅に到着するまでに、水が足りないと思ったからです。

 聴取者:本来の予定では、水の補給はどこで行うのか?

 機関士:列車がバフロス駅に到着次第行う計画と通達されています。

 聴取者:水を節制し、それでもしボイラーが空焚きになってしまったら、危ないという認識は?

 機関士:ありました。けれど、水槽の水が無くなってしまっても同じ結果が起きるので、それも避けたいと思いました。

 聴取者:機関助士はあなたの意図を正確にくみ取っていたか?

 機関士:……いつものことだったので、そうだと思います。

 聴取者:しかし、事故は発生した。ではこれは機関助士の責任か?

 機関士:いえ、指示を出し運転していたのはすべて私なので、私の責任です。

 聴取者:それは、心証をよくしようとして言っていないか? 本心からそう思っているか?

 機関士:はい。


 まとめ:指示が不明瞭かつ信頼関係に頼り切っている。しかしながら、機関助士との間に信頼関係のようなものがうかがえるため、機関助士の聴取を待ちたい。


 聴取者:では、続けて。

 機関士:はい。ダッシー駅を過ぎると、急な下り坂になるので、速度に気を付けて運転していました。すると、いきなり火室から煙が出てきました。驚いて制動を採ろうとしたら、バンバンと爆発が……。

 聴取者:事故の表現、再現は正確に。バン、バン?

 機関士:はい。バン、バンです。

 聴取者:それは二回爆発が起こったということか?

 機関士:はい。

 聴取者:それは本当に? どうやって確認した?

 機関士:……。

 聴取者:わからないことはわからないと。

 機関士:わかりません。

 聴取者:本当に、バン、バンと聞こえた?

 機関士:それは間違いないです。バン、バンでした。


 まとめ:現時点では特記すべきことはない


 聴取者:わかりました。ありがとう。その他、異常などは? 正確に。

 機関士:ありません。……あの。

 聴取者:言いたいことは、はっきりと正確に。

 機関士:責任は全て俺にあります。

 聴取者:はい。

 機関士:助士は悪くないです。全部俺が悪いんです。

 聴取者:なぜ?

 機関士:……。(三十秒間黙秘を続けた)

 聴取者:意見は正確に。余計な偽装などは、却って不利になることがある。

 機関士:俺が悪いんです。

 聴取者:だからそれはなぜ?

 機関士:悪いんです。

 聴取者:ひつこいですよ。それはなぜ?

 機関士:機関士だからです。

 聴取者:自分の言動やその他行動に原因があったと考えているわけではなく、自分の職務に責任があると考えている?

 機関士:はい。

 聴取者:それ以外にはなにか?

 機関士:ありません


 まとめ:機関士の論理性は破綻しているが、思考自体は破綻している様子が無い。機関士と機関助士は現時点で政府当局により拘束されており、現在裁判に相当する手続きを待っているさなかである。

 このことを念頭に置きたい。


 総評:機関士の指示は明瞭とは言えないものの、機関助士との信頼関係は良好に思える。また、証言内に興味深いものがあるため、今後精査すべきである。


 聴取①以上。

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