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整理番号 新A17:シ=ク鉄道線内における連続脱線事故(再発・考察)

 事故から数日後、エドワードが最も恐れていたことが起こった。脱線事故の再発だ。今回の事故も同様に、何もない直線上で脱線が発生した。




 シロッコ=クアール鉄道(内部) 事故調査報告書 第 2 号




 本報告書の調査は、本件鉄道事故に際し、今後のシロッコ=クアール鉄道の発展と安全の確保のために、鉄道事故及び事故に付帯して発生した被害の原因を究明し、事故の防止並びに被害の軽減を図って行われたものである。




2.シロッコ=クアール本線 プチミレ信号所~イントマル信号所間 列車脱線事故




 事故経過


・シロッコ=クアール鉄道(以下、シク鉄)ドルフール線のドルジ王国内発シロッコ(→サンクトル)行き二十七両編成の赤29列車がプチミレを出発した際に、突如として最後尾貨車が脱線した。




 事故当該列車・車輛


・赤29列車


 D2機関車けん引、有蓋車十一両。




 事故現場概況


・現場付近は駅付近のポイント部を抜け速度があがりつつある箇所である。列車はプチミレを出発し加速中であったことから、走行速度自体は低速であったと考えられる。




 被害など


・十一両が脱線、転覆。また、最後尾の有蓋車に添乗していた列車長が負傷した。







 エドワードは即座に、原因が究明されるまでの間、速度を制限して運転することをヨステンに進言した。


 だが、その提案はシク鉄首脳部により退けられる。


「今回の事故は、低速運転時に発生したんだ。運転速度は問題じゃない」


 首脳部の一人は、そう言って困った顔をした。


 列車は駅を出発してすぐ、まだ十分に加速できていない状況で脱線を起こしていた。であれば、速度が原因とは言うことができない。


 なまじ首脳部の意見が正しいだけに、エドワードはそれ以上何も言えなかった。


―――ダメだ、なんとか首脳部を納得させられる事故原因を見つけないと―――


 エドワードは一人、悶々としながら事故原因について思いを巡らせる日々を送った。










 そんなある日、エドワードの居室にミヤがやってきた。通常、エドワードの居室にはミヤは愚か、クリス以外の者はシグナレスを含めやってこない。

 エドワードは突然のミヤの訪問に驚きつつ、彼女を迎え入れた。


「用は何だい?」


 エドワードが優しく問いかけると、ミヤはノートを取り出した。


 エドワードがそれを受け取り中を見ると、そこには詳細な事故現場のスケッチが書かれていた。


「驚いた。どうしたんだい?」


「あの、なにかお役に立てることは、ないかと……」


 消え入りそうな声で彼女はそう呟き、そのまま一言も何も言わず部屋を出て行ってしまった。


「ああ、礼も言えなかった。しかし、これは見事なものだ。素晴らしいな……。彼女にこんな才能があったとは」


「たまに居るのよね、ああいう子」


 エドワードが感心していると、世話焼きのクリスがやってきた。クリスはエドワードに、眠気が取れるという飲み物を渡すと、ミヤについて語り始める。


「瞬間記憶能力と呼ばれるものがあって、一部の種族はそれを使えると聞いているわ。きっと、ミヤちゃんはプロト族の子なのね」


「そのプロト族というのが、瞬間記憶能力とやらを使えるのかい?」


「ええ。プロト族はあまり外見的特徴が普通の人と変わらないから苦労するそうよ。やっぱりミヤちゃん、苦労人さんなのねえ」


 改めて、ミヤの書いたノートに目を落とす。そのスケッチはあまりにも詳細で正確だった。


「これを一度見ただけで書ききれてしまうのか」


「そういう特殊能力なのよ。ミヤちゃん、大事にした方がいいわよ」


 クリスはそれだけ言って部屋から出て行った。


 エドワードはクリスの淹れてくれた飲み物を呑みながら、そのスケッチと格闘する。このスケッチがあれば、証拠を手に入れたも同然。捜査はずっとしやすくなった。


 気持ちに余裕ができたエドワードは、一枚一枚懇切丁寧に見てみる。


 事故を起こした貨車の台車から、貨車の扉、連結器、そういった細かいところまでしっかりとスケッチされていた。その一つ一つに舌を巻きながら眺めていると、エドワードは一つのスケッチが気になった。

 それは、貨車内の荷物をスケッチしたものだ。


―――……。なんだろう、この引っかかりは―――


 貨車の中に荷物が積まれている。ただそれだけである。


 だが、それは立派に事故原因となりうるものだった。エドワードは思い出す。


―――そうか、この状況であれば、これが一番有力な事故原因と言えるのではないだろうか? だとしたら、当面の安全対策としてはかなり有力だ―――


 エドワードはそう確信した。次の瞬間、エドワードはもうすでに部屋を飛び出していた。


―――急ぐんだ! もう二度と事故を起こさないために―――

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