魔法使いの惚れ薬
「魔法使いのお店です。
生もの、乾物、道具、動物、各種サービス、薬まで
万の品がございます。」
___路地裏の扉に下がった看板
1番の売れ筋商品?
惚れ薬だよ。
老若男女いろんなやつが買っていくとも。
身体に悪いものは入っていないさ。中毒性もない。
中毒性がなくてもリピーターはいるだろうって?
そうだね。その通りだ。
恋人に使い続ける奴もいるし、結婚してもずーっと使ってる奴もいる。
飼い犬に使ってる奴もいるね。
え?そうさ。割と単純な作りでね。動物向きにすることもできる。
危なくはないよ。動物に合わせて…いや違うな。親しくなりすぎるんじゃないかって心配かな?
そういう薬もあるけどね。そっちはよっぽどじゃないと売らないよ?これは性欲がどうこうって薬じゃないからね。
じゃあ何の薬なのかって?さっきから話してるだろう?惚れ薬だよ。
好きになる薬だ。
懐く、恋する、愛する
一緒にいて安心できる。
ワクワクする。
楽しんで欲しいと思う。
相手の幸せを望むようになる。
子どもも対象にできるからね。性欲はむしろ邪魔になることもある。
下手すると犯罪になるだろう?
そんな薬を飲ませる時点で犯罪だって?
おかしなことを言うね。
そりゃあ薬を他人に無理やり飲ませるのは犯罪だろう?
犯罪前提で売ってるわけがないだろう。
違う違う。こっそり飲ませてもそりゃあいけないことだろうさ。そう言うことはできないようにしてるとも。
なんだい?納得していない顔だね。そんなに悩むようなことかな。
薬なんだよ?自分で飲むんじゃなければ、家族が飲ませるとかそんなところじゃないかい。
そりゃそうだろう。自分用を買うやつが一番多い。後は、浮気性の配偶者なんかに飲ませることもあるかな?それでも、同意の上ってのが多いけどね。
気の迷いだの恋の病だのいうやつに治療薬をやっているのさ。
まだ不思議そうだね。
自分用ってところがわかってないのかな。
人を愛したい、愛さなきゃいけないことってあるだろう?そういう時のための薬だよこれは。
濃度次第で対象を増やすこともできる。
さっきも言った、恋人や配偶者を対象にしてる奴なんかは濃いけどね。子供や親兄弟相手だと少し薄いし、極薄くして教師が飲むこともある。生徒全体を大事に想うってところかな?医者も来たね。だいぶ薄いやつを買っていったとも。部下に厳しいって上司が買って行ったこともあったね。
そんなに変なことじゃないさ。
親は子供を、子供は親を愛するものだろう?
夫は妻を、妻は夫を愛するものだろう?
ペットは…まあペット自身がどうかは置いておくとしても、ペットのことが好きじゃないと世話なんてできないだろう?
教師は生徒を大切に思いたいだろう?
上司は部下のことを思いやらないといけないだろう?
この薬は、そう言ったことがやりたくてもできないやつのためにあるんだよ。
勿論気持ちがなくても人は動けるさ。
でもそんなに器用な人ばかりじゃないってことさ。
心から動けた方が楽だろう?
大事にしたい。でも傷つけてしまう。
嫌いなんじゃない。でも興味が持てない。
幸せにしたい。でも気力が湧かない。
理想があった。でも心がついていかない。
思っていたのと違った。でもやり遂げたい。
心に愛する機能がない。
でも、愛したい。
そんな奴らのための薬なんだ。
君はいらないんだろう。必要そうには見えないからね。
結構話してしまったかな。もう店じまいの時間だ。
少し早いって?
個人商店なんだ。少しぐらいいいだろう?
今日は予定があるのさ。子どもの誕生日でね。子どもにもそうだが、妻にもプレゼントをあげたいんだ。
何がいいだろうね?喜んでもらえるものがいいんだが。
そうとも。
大好きな大好きな、僕の家族だからね。
拙作をお読みいただき、
誠にありがとうございました。
稚拙な作品ですが、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです。