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【書籍化】転生ぽっちゃり聖女は、恋よりごはんを所望致します! ……旧タイトル・転生聖女のぽっちゃり無双〜恋よりごはんを所望いたします!〜  作者: 葉月クロル
第二章

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聖霊のピンチ その6

「速すぎないか?」


「大丈夫よ、ありがとう」


 セフィードさんはわたしをしっかりと抱えて飛んでくれて、わたしも彼にしがみつく。

 見た目からは『ラブラブ密着フライング』である。

 でも、これはわたしが聖女としての使命を果たすための行動だから、2人とも照れることはない。

 下心のない、あくまでも『業務上の接触』だからだ。

 むしろ、散歩中などのなんでもない時に手を繋ぐ時の方が、ずっとドキドキするのである。


 わたしが耐えられる限界の、かなりのスピードで飛行して土の祠の近所まで来ると、聖霊に『あの辺りに岩塩が』『こちらにスモモの木があります』などと教えてもらって、ごはんの材料をゲットした。

 そう、痩せ細ってしまった(でもまだ3ぽっちゃり )わたしに朝食を早く食べさせるために、セフィードさんががんばって飛んでくれたのである。


 愛よね、愛。

 そして、聖霊さまごめんなさい。

 ポーリンは豊穣の聖女なので、腹が減ってはいくさができないのでございます。


 というわけで、翼の生えた美形男性にお姫様抱っこをされて空を飛んでいる、というロマンチックな絵面えづらは、その下にぶら下がる下処理されたピグルールの巨大な肉と薪の束とその他諸々のせいで台無しになっている。

 仕事のできるSS冒険者のセフィードさんが、血抜きも皮剥ぎも内臓処理もしっかりとしてくれたため、ピグルール肉は大変良い状態なのだ。彼は本当に頼りになる男性で、ピグルールを捌く姿を見てわたしの胸はきゅんきゅんしてしまった。

 ちなみにお腹はぐーぐーだった。


『あちらに見えるのが、土の(ほこら)です』


「とうとう着いたわね! まあ……やはり、威圧感のある嫌な気に囲まれていますね」 


 神さまのご加護を目におろしてもらって祠を見ると、広範囲を黒く濁った空気に包まれている。そして、祠の周りは天の祠と同じように荒れ果てて、草も生えないような枯れた大地になっていた。 


 セフィードさんは「ごはんを美味しく食べられるように、少し離れた場所に降りよう」と言った。

 そして彼は祠から離れると、ロープでまとめられた朝ごはんの材料をおろしてから着地し、わたしを立たせてくれた。


「何はともあれ、お肉を焼きましょうね」


「ああ」


 ベテラン冒険者の彼は手早く薪を積むと、爪を打ち合わせて火花を飛ばして火を起こした。

 そして、大きな葉に包まれたピグルール……豚肉を持ちやすい大きさに分けていき、わたしはそれぞれに岩塩と潰したニンニクと香辛料をすり込んでいく。ドラゴンの爪の無駄遣いという意見があるかもしれないが、食というのは生物にとってとても大切なので、正しい使い道だと思う。


 肉はひとつひとつが骨がついたままなので、焚き火の周りの固い土にセフィードさんが刺していき、美味しそうな炙り肉が火の周りをぐるっと囲むという、とても素晴らしい眺めになった。

 強火の遠火の遠赤外線(たぶん)なのである。

 最高の野性味溢れた料理である。


 炙られた肉の脂が焼けて、じゅくじゅくいいながら表面を揚げ焼き状態にしていく。かじるとカリッとなる、アレだ。こんがりと焼けたニンニクの風味がたまらない。


「美味しそう……」


「落ち着けポーリン。人間は、ピグルールを生で食べてはダメだ」


「ドラゴンは大丈夫なの?」


「ドラゴンならば、生きたままで丸呑みも可、だな」


「丸呑み! でも、それでは料理とは言えないわね」


「ああ。食事というより……餌か? ドラゴンは魔素を吸収すれば食事がなくても生きていける生き物だからな。だが俺は、人間の姿で食べるごはんの方がずっといい。特に、ポーリンの作るものは皆、とても美味しいと思う」


「嬉しいわ、セフィードさん」


「ポーリンに会って、俺は食べる喜びを知ったんだ。それから……女性を……その……好きになる、喜びも……だな」


 彼はわたしから目を逸らすと、肉の焼け加減を確かめた。

 頬が少し赤くなっている。


「セフィードさん……」


「ポーリンに出会えて、本当に良かった」


「わたしも……良かったです。これからもずっと、セフィードさんと一緒に美味しいものを……食べていきたいです」


「ポーリン……好きだ……」


 わたしの頬も熱い。

 これは焚き火のせいではないと思う。


「嬉しい……わたしも、好き……」


「ポーリン……」


 ニンニクの焼ける良い香りが漂う中で、セフィードさんともじもじしていると、土の祠の聖霊に『そろそろお肉を回さないと……焦げますよ?』と注意されてしまった。




 食べごろになった最高級の豚肉(セフィードさんが、一番美味しい大きさのピグルールを狩ってくれたのだ。彼は元々頭が良いのだが、最近はその知識に『美味しい魔物と食べ頃の大きさ』が加わったらしい)の骨を両手に持ち、わたしは脂の滴る焼きたての豚肉にかぶりついた。

 口の周りに脂がついても気にしないで、むしっ、と肉を食いちぎる。


 柔らかい! 

 なんて柔らかくて、美味しいお肉なの!


「ひゅごい、おいひい……」


 わたしはもっきもっきとお肉を噛んだ。口いっぱいに肉汁が溢れて、豚の旨みが広がる。それを引き立てるのはミネラルたっぷりで丸みのある塩味の岩塩と、香辛料だ。特にニンニクの働きが素晴らしい!


「んま……豚肉、うま!」


 ほっぺたが落ちそうだわ!

 なんて素晴らしいお肉でしょう!

 身体中にエネルギーが満ちるのを感じるわ。わたしの全身が、この美味しいお肉を迎え入れて栄養にしようとしているのがわかる。


「ん……美味い……」


 ドラゴンさんも、口いっぱいに頬ばり、もきもきとお肉を噛んでいる。

 柔らかくてジューシーな豚肉だから、食べても食べてもまだ食べられる感じがして、手が止まらない。

 さすがは一番美味しいサイズのピグルールだ。これもきっと、王族や貴族が食べるような最高級の食材なのだろう。それを、まるまる一頭焚き火で炙り焼きして、贅沢にも2人で食べている。

 美味しいだけではなく、豚肉はビタミンB群が豊富なスタミナがつく食材なのだ。そこに、香辛料のスタミナ部門の代表みたいなニンニクも加わっているのだ。


 朝ごはんに最高よね?


 さすがに2人で食べるには多かったので、わたしたちは半分ほど炙り焼きを平らげてから食後のフルーツを頂くことにした。

 よく熟れたスモモは、皮の下が酸っぱく、実はとても甘かった。爽やかな香りがするスモモをかじると、口がさっぱりする。


「スモモもとても美味しいわね。やっぱり食後にはデザートが欠かせないわ」


「そうだな」


 ドラゴンさんは、果物も好きなのだ。喜んでもきもきと食べている。


「……ポーリン?」


「どうしたの?」


「なんだか……痩せ細っていたのが……元に戻ってきた?」


 スモモを片手に首を傾げるセフィードさんの言葉を聞き、わたしは空いている手で自分の脇肉を掴んだ。


「あっ、皮下脂肪が戻ってきているわ!」


 むにゅっとしたこの手触りは……そう、4ぽっちゃりくらいだわ。

 さすがは最高級のピグルール、栄養になるのが早いわね!


『あの……お腹がいっぱいになりましたら……そろそろ……』


 頭の中に、遠慮がちな聖霊の声がした。


「そうね、ええと、土の祠にほむら実を、だったかしら。炎の実というのをお供えして祈りを捧げれば良いのよね」


 わたしは(炎の実も、祠の中にあるのかしら?)と遠くに見える土の祠を見た。


「ポーリン、変な種がある」


 火の始末をしていたセフィードさんが言った。


「光ってる」


「え?」


 燃えさしの中から、セフィードさんが爪の先でクルミくらいの大きさの種を引っ張り出した。


「これは……食べられるのか?」


「待って、セフィードさん。食べてはダメな気がするわ。光を放つということは、不思議な力が関わっているということですもの」


 指先でそっと突くと、熱くない。


「もしかすると、これが炎の実の種かもしれないわ」


 手のひらの実が、一際強く光った。


「それじゃあ、わたしはこの実を……祠の前に植えてくるわね」


 一瞬でぽっちゃりが戻っちゃったので、遠慮なく体脂肪を消費いたしますわ!

ピグルール……いろんな意味で危険な食べ物であった。

(いや、ふたりで半頭食べたのが敗因)

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