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【書籍化】転生ぽっちゃり聖女は、恋よりごはんを所望致します! ……旧タイトル・転生聖女のぽっちゃり無双〜恋よりごはんを所望いたします!〜  作者: 葉月クロル
第二章

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ガルセル国へ その1

 ドワーフの鍛治職人オレンが夢で見た神さまに頼まれて作った大剣は、かなりの重さがあるようだ。作ってから『これを誰に持たせればいいのじゃ?』と悩んだオレンさんは、力自慢の人間のみならず、獣人やリザード族などの数名の大男に試し振りをさせたが、皆に口を揃えて「こんな剣、重すぎて戦いには使えない」と言われてしまったそうだ。

 虎のバラールさんは、剣士として鍛えられた肉体を持っているし背も高いが、それほど大きいわけではない。熊や牛などの獣人の方の中には、縦も横も巨大な体躯をしていて、巨人と呼んだ方がいいような者もいる。

 しかし、オースタの町が誇る鍛冶屋のおじさんは、この大剣を彼に持たせようと考えた。

 

「オレンさん、それをバラールさんに振ってもらうの?」


 大きいので、背中に背負うタイプの両手剣は、鞘に納められていても存在感が抜群だ。

 わたしは、バラールさんにはちょっと無理っぽくない? という気持ちを込めて尋ねたけれど、オレンさんは言った。


「本当の力とは、筋肉があれば出るものではないんじゃ。我らドワーフも、身体が小さいが重い槌を扱うのが得意だ。これは力だけに頼っていないからなんじゃよ。すべてはバランスじゃよ、バランス。さて、お前さん、これを振ってもらおうかのう? ほれ、店の隣に武器の試し場があるからな、来るがいい」


 オレンさんとアリンが「ほっ、ほっ、ほっ」とかけ声をかけながら大剣を運んでいったので、わたしたちも後をついて試し振りができる広いスペースに行った。


 腑に落ちない顔をしながらも、虎さんは剣士だけあって大剣に非常に興味があるようだ。

 ちなみに、自分の腕をドラゴンの鉤爪に変化させて戦うセフィードさんは、剣にまったく興味を示さない。場所を移動するにあたり、お茶菓子のビスケットを持ってもらっている。


「……ジャムが美味いな」


 もきもきとおやつを食べるドラゴンさんが可愛くて和むわ。


「ほい」


「おう……おや?」


 オレンさんに促されて、バラールさんが両手を伸ばして大剣の柄を握り、鞘から抜くと、それは重さを感じさせない様子で持ち上がった。


 あらら、重力どこいった?


「さすがじゃ。やはりお前さんは剣の扱いに関して生まれついての才能がある」


「……」


 驚いた顔をしていたバラールさんは、やがてにやりと笑うと、剣を構えて振った。ぶん、と風圧が飛んでくる。わたしは内心で(うちわか!)と突っ込んでしまった。


「これはいいな」


 ぶん、ぶん、と何度も剣が振られる。とても楽しそうだ。新しいおもちゃを貰った男の子の顔になっている。


「試し斬りは、あれを使えばいいんだな」


 嬉々として大剣を振り回し終えてから、バラールさんは丸太が何本か立つ場所に移動した。


「ねえオレンさん、あれはバラールさんだからできることなのかしら。あんな金属の塊を軽々振り回すなんて……ちょっと普通じゃないわね」


「そうじゃよ、ポーリンちゃん。他の者では逆に剣に振り回されておった。あの足腰を見てみい。どっしりと大地を掴んでおるじゃろう。あの虎はたいした剣士と見たぞ」


「そうなのね……」


 ガルセル国の王家に仕える剣士だものね。


「まあ、それに、あの大剣にはなにか不思議なお力を神さまがくださっているのじゃろう。おそらく、あの剣士に剣が渡ることを望まれていたんじゃな」


 わたしもそう思うわ。

 大剣を受け取ってからのバラールさんは、オーラを纏っているというか、光り輝いて見えるもの。


「でっかい大盾を片手で持って走る誰かさんも、普通じゃないからのう」


「あ、あら」


「うむ。盾がアクセントになって、なんともかわゆいのじゃからな。ポーリンちゃんの可愛さは全然普通とは言えん」


「ええっ、そっち? 盾がチャームポイントってアリなの?」


「闘神さまも、ポーリンちゃんの魅力にくびったけなんじゃろうな、はっはっは」


「……おほほほ……ほ?」


 よくわからないけれど、褒められてるみたいね。






 大剣を手にした虎さんは、見事な剣さばきで試し斬り用の丸太をスパッと斬った。


「この剣はすごい! 様々な業物を見てきたが、こんなにも素晴らしい剣は初めてだ」


「そう言ってもらえると、嬉しいのう」


 バラールさんがこの大剣をとても気に入ったみたいなので、オレンさんから購入を決めた。しかし、当のオレンさんが、なぜか普通の報酬しか受け取ってくれない。


「ねえ、これじゃあ材料代くらいにしかならないんじゃないかしら?」


 いくらなんでも安すぎるので、わたしは鍛冶屋の夫妻に尋ねた。


「そうさのう、材料代が返ってくるのならわしは充分じゃからな。ほとんど趣味のようなものとして作った大剣を引き取って貰えるのじゃから、それだけでありがたいと思うぞ」


 はっはっは、とまた笑うオレンさんと、「そうよね、場所塞ぎだった剣が活躍できるのだもの、それだけで充分嬉しいよね」と言うアリンさんは、とても良い人たちだ。


「それに、虎の兄さんは訳ありなんじゃろう? ポーリンちゃんが面倒を見てるんじゃから、善人に決まっとる。ならば、わしたちはその手伝いをしたいものじゃよ」


「そうそう、神さまのお引き合わせってことさね、あんた」


「オレンさん、アリンさん……ありがとうございます」


 訳ありの虎は、ふたりに頭を下げた。

 わたしもお礼を言う。


「おふたりとも、ありがとう。そうね、きっと神さまのお引き合わせなのね。神さま、いつもお力添えをくださいまして、ありがとうございます。ポーリンはとても助かっています。……ええと、ヒラヒラしてお光りになる神さま……でしたっけ?」


「そうじゃよ、素晴らしく綺麗な神さまで、うっとりするような剣さばきをされてたのう」


 あ、綺麗だけど、そこは剣なのね。


「こんな一介の鍛冶屋の夢の中に現れてくださったとは、本当にありがたいことじゃな」


 わたしはヒラヒラした神さまにお礼の祈りを捧げる。


「見守ってくださいまして、ありがとうございます。……これから困った皆さんをお助けに参りたいと思っておりますので、どうかご加護をお願いいたします」


 わたしが天に向かって祈ると、キラキラ光るものが天から降り注がれた。


「あら?」


「おう、なんじゃこれは?」


 癒しのご加護をお願いする時に降ってくる、お馴染みの光なんだけど……今回はやたらと量が多いわ。わたしたち5人の周りに光が渦巻き、目が開けられないくらいに眩しくなる。


『鍛冶屋オレンよ、良い剣を打ってくれたね』


 頭の中に声が響き渡る。

 わたしががんばって薄目を開けると、そこには身体に羽衣のような薄い服を纏わせた、とんでもない美人(性別は不明だ)の姿が見えた。


『この大剣にも、大盾のようにわたしの加護を授けてある』


「大盾のようにって……うえええええええ? 闘神ゼキアグルさまでいらっしゃいますか?」


 美人さんが笑顔で頷く。

 神々しい! 

 尊い!

 美しすぎるの1000億倍!


『愛しき我が子、聖女ポーリンよ。わたしたちはいつも見守っているからね』


「はい、ゼキアグルさま、ありがとうございます」


 闘神ゼキアグルさまが、その白魚のような白くて美しい御手で、わたしの頭をくりくりくりんと撫で撫でしてくださった。


『わたしの大盾を使ってもらえて嬉しいよ』


 きゃああああああああーっ!

 美しい!!

 尊い!!!

 尊いの那由他倍!!!!!


 そして、ゼキアグルさまが去った。

 去ってしまった。


 尊かった!!!!!

 聖女やってて良かった!!!!!


 わたしは撫でてもらった頭を押さえて「んむふふふふふ」と怪しい笑いを漏らしてしまった。


「……今のは……闘神ゼキアグルさまが、わしの剣を、お褒めくださったのか……」


 オレンさんの目からは滂沱の涙が流れ出て、隣にいる奥さんのアリンさんも「よがっだねえ、あんだぁ……」と泣きじゃくっている。


「眩しくてよくわからなかったが、今のは神さまの降臨だったのか? この大剣にも加護が授けてあるって聞こえた気がするが……そうか。さすがは聖女ポーリンさまだな。これはすべて神さまのお導きだったというわけか。ありがたいことだ」


 虎の心に強い信仰心が芽生えたようだ。


「なんか、光るのがばーっときてがーっと帰ったな」


 ちょっ、ドラゴンさん!

 淡々とした感想ね、さすがというかなんというか、セフィードさんらしくて萌えるわ!


 と、それは置いておいて。


「オレンさん、アリンさん。実は獣人の皆さんが住むガルセル国で、大変な事件が起きているのです。わたしたちはそれを解決するために、明日ガルセル国へ向かうのですよ。この虎のバラールさんは、ガルセル国王家に仕える高名な剣士なのよ」


 大剣を掲げて神さまへの祈りを捧げたバラールさんは、鍛冶屋夫妻に会釈した。


「なんと、ガルセル国の剣士、しかも、王家に仕えるほどの手練れじゃと? いや、なるほど、合点がいったわい」


 オレンさんは髭を撫でながら言った。


「この剣は、わたしたちの目的を果たすのに重要な役目を担うはずです。オレンさん、アリンさん、ありがとうございます」


「そんな、ポーリンちゃん、あたしたちは武器を打つくらいしか能がないけど、それが困った人たちの役に立つのなら、むしろこっちがありがたくてお礼を言いたいくらいだよ!」


「そうとも、武器屋冥利に尽きるってもんじゃ、ありがとうよ、ポーリンちゃん。それから、お前さんにその大剣を渡すことができてよかった。ぜひとも存分に振るってもらいたい」


「……感謝しかない。俺のもうひとつの腕として、ガルセル国の運命を切り開かせてもらおう」


「ありがたいことじゃ。というわけで、やっぱり代金はいらん」


「いやいや、せめて材料代は受け取ってもらわないと」


「いやしかし、大義を聞いてしまったからには、受け取るわけにはいかんぞ」


「いやいや、それは困る」


「いやいや、こちらこそ困るわい」


 というわけで。

 神さまオーダーの大剣を作ってくれた夫妻には、ジェシカさんと同じく、『ハッピーアップル』で、毎日ケーキやサンドイッチなどの食べ物を飲み物付きで1日3つまで無料が1年間、というお礼をすることになったのであった。


まさかの、ムキムキじゃない

闘神ゼキアグルさまが登場しました(*´∇`*)

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