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【書籍化】転生ぽっちゃり聖女は、恋よりごはんを所望致します! ……旧タイトル・転生聖女のぽっちゃり無双〜恋よりごはんを所望いたします!〜  作者: 葉月クロル
第二章

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これが終わったら、結婚式を…… その5

「それでは、ガルセル国へ行くための準備をしましょう。明日の朝には出発したいわ」


「了解しました」


 熟練の冒険者のジェシカさんは、突然の依頼でもまったく動じない。


「ポーリンさま、旅程はどのくらいの予定ですか?」


「1泊2日で」


 わたしが答えると、バラールさんは「はあああーっ? おい待て、魔物の山と砂漠を越えて行くんだぞ? いくら冒険者のパーティだからといっても、それはあまりにも無謀過ぎる」と反対した。


「そうかしら?」


 わたしがちらっとセフィードさんを見ると、彼は「俺とポーリンだけなら1日で着くから……虎も狼も体力がありそうだから大丈夫じゃないか?」と言った。


「セフィードさんがそう言うなら、大丈夫よ」


 わたしの信頼のこもった視線を受けたドラゴンさんは目を細めて「ふっ」とニヒルに笑った。

 きゃー、カッコいいわ!


「いや、1日で着くわけがない!」


「剣士バラール、このおふたりをどなただと思っているんですか? 大丈夫と言ったら大丈夫なんです。ただし、食料は多めに用意した方がいいですよ」


「あら、さすがはジェシカさんね」


 よくおわかりだわ!


 バラールさんはまだなにかを言いたそうな顔をしたけれど、ふっと考えてから「ああ、この聖女さまには常識を求めちゃいけないんだったな」と、妙な納得をしていたので、わたしはゼキアグルさまにお礼を言って、防音のご加護を終わらせていただいた。


「それでは武器屋にいきましょうね。まずは、バラールさんの剣を選びましょう。剣を失った剣士では、心許こころもとないわ。バラールさんも、武器がないのでは不安でしょう?」


「ああ、そうだな」


「この町にはガルセル国で使っていたような業物わざものはないだろうけれど、結構腕の良いドワーフの武器屋がいるのよ。剣の代金は立て替えておくから、国に帰って落ち着いたら返してちょうだいね」


「すまないな、必ず返す」


 うちの村は、まだ裕福とは言えないので、高い武器をほいほい奢るわけにはいかないのだ。

 グラジールが村の財政を担当しているのだが、税収はすべて村の発展のために使われているので、領主であるセフィードさんもさほどお金持ちではない。

 わたしたちは、冒険者としての稼ぎをメインに暮らしているのだ。


 でも、農業も魔物狩りも順調なので、食生活はものすごーく豪華だけどね! 


「それから、ジェシカさんへの依頼料なんだけど」


「そんな、ポーリンさま。わたしは自分の国のために行くんですから、依頼料なんて必要ありませんよ」


「いいえ、冒険者を何日も拘束するのだから、それなりの報酬は出したいの。とはいえ、財政的にあまり無理は効かないから……この『ハッピーアップル』で、毎日ケーキやサンドイッチなどの食べ物を飲み物付きで1日3つまで無料が1年間、というのはどうかしら?」


 ふふふ、これならわたしにもお得なのよね。


「えええっ、いいんですか? その報酬は嬉しすぎるんですけど!」


 ジェシカさんの声がいきなり高くなった。


「美人のジェシカさんが通ってくれるから、このお店も繁盛しているのよ。これからもご贔屓にね」


「そんな、ポーリンさまったら……」


 ジェシカさんは赤くなった。ショートカットの狼さんは、顔が小さくて逆三角形で、アイドルになれるくらいに美人さんなのだ。


「ここのお店のスイーツも軽食も、とても美味しくて大好きなんです。その報酬、ありがたく受けさせてください」


「契約成立ね」


 わたしたちは固い握手を交わした。




『ハッピーアップル』を、出ると、旅の買い物に出かけるジェシカさんと別れて3人で武器屋に向かった。


「オレンさん、こんにちは」


「おや、ポーリンちゃんじゃないか!」


 店の扉をくぐると、真っ直ぐな髭を伸ばした武器屋のオレンおじさんがいた。


「今日もぽちゃっと可愛い別嬪さんだのう。か弱いポーリンちゃんじゃ、うちの武器は持てないだろうが、おじさんがナイフでも包丁でも、なんでもポーリンちゃんに作ってやるからのう。ほれ、ここにおかけ」


「ありがとう」


 わたしは勧められた椅子に腰掛けた。オレンさんは、店の奥に「ポーリンちゃんが来たから、なんか美味いもんを出しとくれ!」と叫んだ。


「はいはい。あらまあ、うちの亭主のお気に入りのポーリンちゃんは、ふくふくして本当に可愛らしいねえ。よく来なさったね」


 オレンさんの奥さんがニコニコしながら出てきたので、わたしは「お邪魔してます」と挨拶をした。わたしは大盾以外の武器(盾は防具なんだけど、ぶつけて魔物を倒しているから武器ってことになるのかしらね?)は持たないのだ。だから、ここに来るのは珍しい……というか、なんでもいいからポーリンちゃんに作ってやりたいんじゃあああ! と絶叫するオレンおじさんに包丁を作ってもらう時くらいしか来ない。


 そう、ドワーフは男女ともにとても筋肉質なので、わたしのような色白でふんわり柔らかい体型にものすごく魅力を感じるらしい。おかげでわたしはオレンおじさんにも、奥さんのアリンおばさんにも(彼女も鍛治をするのだ)絶世の美女に見えるらしく、贔屓されている。


「黒影はもちっと肉をつけて、ポーリンちゃんの隣に立っても見劣りしないようにならんといかんぞ」


「そうよ、ちゃんとごはんを食べているの? 身体を張ってポーリンちゃんを守らないといけないんだから、がんばりなさいよ」


「わかった」


 素直なドラゴンさんが「もっと食べる」と頷いた。

 美貌の王子も、ドワーフ的視点からすると、わたしにふさわしくなるためにはもっと努力が必要なのだそうだ。


「そうだわ、今日はこの剣士が使う剣を探しに来たのよ。バラールさんといって、国では有名な剣士なんだけど、旅の途中で女の子を守って剣を失くしてしまったの」


 わたしたちの会話を首をひねりながら聞いていたバラールさんを、オレンおじさんに紹介する。


「急な話だけど、明日、この町を出発するから急いでお願いするわ」


「旅の途中で失くすとは、あんた、そりゃあ難儀だったのう。女の子は無事なのかい?」


「生き延びるだけで精一杯だったが、すっかり元気になって、今は村で遊んでいる」


「そうかそうか、ふたりとも命があってよかった」


 剣士が剣を失うというのは余程の状況なので、オレンさんは腕を組んで頷いた。


「よし、わしが良い剣を選んでやるからな、ちょいと身体を見せてもらおうか。ほれ、屈んでみろ」


 ドワーフはわたしの肩くらいの身長で、バラールさんはわたしよりも頭ふたつは大きいので、虎はぐっと腰をかがめた。

 オレンさんは、厳しい目つきでバラールさんの全身を眺めてから、肩や腕を触ったり身体をぐいっと押してどのくらい耐えられるか見たりした。


「ほう、こいつは驚いたな。おまえさんは、かなりの腕前じゃろう? 無駄なく鍛えられた、バランスの良い身体付きをしておるし……天性の才能もあるようだな。ふむ……これならもしや……」


「あんた、お茶とお菓子を持ってきたよ」


「アリン! この虎男に例の大剣を振らせようと思うんじゃが」


「ええっ?」


 お茶とお菓子が乗ったお盆を持ったアリンおばさんが、ぱかっと口を開けた。


「あんた、アレを持たせるのかい?」


「ふっ、この時を待っていたんじゃ。持ってくるのを手伝っとくれ」


「わかったよ!」


 おばさんは、わたしにお盆を預けると、おじさんと一緒に奥へ戻ってしまった。

 仕方がないので、わたしはカウンターにお盆を置いて、もぐもぐとお菓子を食べ始める。


 うん、ジャムの挟まった素朴なビスケットね。

 生地に楓蜜が入っているのかしら? 風味が良くて美味しいわ。


「おい、なんだか騒ぎになってるようだが、のんびりおやつを食べてる場合なのか?」


 腰を伸ばしながらバラールさんは言った。


「おやつを食べるしかないでしょ。わたしにお手伝いできることはないもの」


 わたしはカップのお茶を飲んだ。


 これは紅茶に近いわね。

 ビスケットにとても合うわ。


 セフィードさんの口にも「あーん」とビスケットを入れたりしていたら、巨大な剣をふたりで持ったオレンさんとアリンさんが奥から戻ってきた。


「あらまあ驚いたわ! これはまた、大きくて立派な剣ね。でも、大きすぎない?」


 人間が持つには大きすぎる剣を見て、わたしは驚いてビスケットをもうひとつ食べた。


「これはな、曰く付きの剣なんじゃよ。三日三晩、わしの夢にヒラヒラした光る神さまが出てきてなあ。わしに目で『大剣を打って欲しい』と訴えてくるんじゃよ。それで、どうしても作らなくちゃいけない気持ちになって剣を打ったはいいが、あまりにも大きすぎて誰もまともに振るえなくてのう。仕方がないから、夢の神さまが引き取りに来るまでと、工房の壁に飾ったままにしてあったんじゃよ」


 壁に飾ったままにって……闘神ゼキアグルの盾と同じパターンじゃない?

 

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